8月14日 夜
8月14日 夜
花櫛公園から帰ってきて一息ついていると
隣に座っている月子が話しかけてきた。
「ねぇ陽介さん、今日はとっても楽しかったね」
「あぁ、そうだな」
俺は普通に返答したつもりだったのだが
どうやら月子には無愛想と感じてしまったのかもしれない
月子が下を向く
「…あ…すまない」
「いいのよ、気にしないで。陽介さんの気持ちはよくわかってるつもり」
「…そうか」
せっかく再び会えたというのに
ぶっきらぼうにしか会話することのできない自分を心から憎む
今ほど自分が憎たらしくなったのは初めてかもしれない。
いま起こっていることは明らかに普通ではない。
死者が生者と会っているのだ。
感情を伝えるのは苦手だ
ただ自分でも驚いているのは確かだった
こんな俺に愛相を尽かさないでほしい
その思いから出たのは唐突な言葉だった
「月子、俺たちまだ結婚式挙げてなかったよな。
明日、二人だけで結婚式、挙げようか」
月子はよほど驚いたのか口元を両手で押さえ
うっすらと涙を浮かべている
「…陽介さん…ありがとううれしい」
精一杯の笑顔を月子に向けると
月子もそれに反応して微笑み返す。
普通のことが俺にとっての幸せでもあった。
生きている時にならいくらでもできたことが
いまはできない。
あの時を大切にしておけばよかったと今更悔やむ。
俺はそんな自分が嫌いだった。
高価な指輪も式場もこの時間では用意できない。
このとき俺にはもう時間があまりないということに気づいていたのかもしれない
何も知らない子供のように月子はあのときと変わらず笑っていた。