8月14日
8月14日
俺たちは昨日約束した通り花櫛公園に来ていた。
ちょうど夏の季節には春とはまた違った雰囲気の花たちが咲き誇り
来る人来る人を笑顔で迎え入れているかのようだ
この季節にもなると、
若いカップル達が夏を楽しみにここにやってくる
今日も花櫛公園は大盛況だった。
人ごみに流されそうになりながらも月子の手を引き誘導する。
歩いていると、この季節に相応しい花が咲いていた。
「…陽介さん…これ彼岸花よね?」
赤い色をしている、すこし悲しげな花。
俺はこの花が昔から好きだった。
月子にこの花をプレゼントしようとして
ムードがないとよく怒られたものだ。
あんなときからいったい何年たったのだろう
俺たちはすっかり年をとった。
世間でいう中年という年齢にどうやらなってしまったらしい。
心は若いなどといつまでも言っていられない。
時は苦しいことがあろうとも楽しいことがあろうとも
刻一刻と過ぎて行っている。
俺達が終わりに向かっていく時間もだんだんと近づいてきているのだ。
すっかり考え込んでいると心配した月子が
俺の顔を覗き込んでくる
「…?陽介さん?聞いてるの?」
「…あ、あぁすまない、これは彼岸花だよ」
「…陽介さんはこの花が大好きだったわね」
「ああ、なんだか好きなんだこの花、とくにこの時期には丁度季節が合っている気がしてな」
月子は彼岸花が咲いているところにしゃがみ、
右手で風になびく髪の毛を抑えながら話す
「…彼岸花の花言葉、陽介さんならもちろん知ってる…?」
以前彼岸花の花言葉を調べていた時期があったが
それも大分昔のことだ。
すっかり忘れてしまっていた。
「すまない、忘れたよ」
「そう…」
月子が一瞬悲しそうな顔をしたような気がした
しかし次の瞬間にはいつもの微笑を浮かべていたので
俺の勘違いだったということに気づいた。
「そろそろ、行くか」
月子に別の場所へ行くように促すと
おもむろに立ち上がる。
「いつか、思い出してね」
そう聞こえたような気がしたが
夏の風は一瞬たりとも休まずにさわやかに吹いていたのだった。