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8月13日

陽介は仕事で疲れ切った体を引きずりながら

いつものように帰路についていた。

なにも変わらないとはこういう事なのかもしれない

終電に乗り、ついた先には見慣れた景色が広がっていた。

微かに錆びた自宅のドアノブに手をかけ

ただいま と声を発する

線香の匂いがする

陽介が出て行ったのはかれこれ8時間ほど前だ

8時間も線香が燃え続けているはずがない

まさか泥棒にでも入られたのだろうか。

それとも月子が…?

そう考えようとしてすぐにやめた

「月子とは…もう会えないんだったな」

線香の匂いがしたのもそのためだ

落ち込んだ気持ちを入れ替えようとしても

なかなかすぐには戻らないものだ。

俺はあの日から一人になった、

交通事故が起きたのだ。

俺は不起訴になった犯人が許せない。

だが無力な俺にはどうすることもできなかった

無念を抱えながらまたここへと帰ってきた



けわしい顔をして立ちすくんでいると

俺を呼ぶ一つの声があった。


「陽介さん、おかえりなさい

  ずっと待っていましたよ。」


懐かしい声がした。もうずっと聞いていなかった声

聞きたくても聞くことができなかった声

「え…?」

振り返るとそこにいたのは

いとしい妻、月子がそこにいた。

「月…子?なんでここに…?まさかお前も…」


月子はさらに微笑みながら返答を返す


「なんでって…また会えるって約束したの陽介さんでしょ…?

  それに今日はあの日じゃない」

何の日だったかと思い暦を見るともう八月だった。

しかし何日だったかはよく覚えていない。

毎日毎日仕事づくめの日々を送り変わらない日々を過ごしていたからだろうか

俺は申し訳ないと思いながらも今日は何日だったかを月子に聞く。

「悪い月子、今日は何日だったかな」

月子はあきれながらもやさしく微笑みながら口を開く。

「そんなことも忘れちゃったのね、今日は13日よ」

そうか、今日は盆入りだったのか。

盆入りには死者がまた再び現世に戻ってこれると聞く。

だから俺はまた月子と会えたのだろう。

ようやく意味を理解した俺はいまおきていることに実感がわき

再び会えたという喜びに顔がほころぶ。

「月子…久しぶりだな。元気だったか」

すこしうつむきながらもうれしそうに月子は言う

「ううん、全然。あなたと会えなくなってからずっとさびしかったの」

驚いた、月子が俺のことをそんなに思っていたなんて

生きている時には気づかなかったものだ。

喧嘩ばかりした日もあったが、やはり夫婦はどこかで繋がっているということだろうか

「すまないな月子。」

心からすまないと思った。

「別に陽介さんが悪いわけじゃないの。そんなに謝らないで

 私また会えただけで幸せだもの」

「…ありがとう」

月子はおれの言葉を終えるのを待つように口を開いた。

「陽介さんはいつまで私と一緒にいてくれるの?」

そうだ、俺はいつまで月子といられるのだろうか。

月子があちらへ還るのか、俺があちらへ還るのか。

見当もつかない言葉に一瞬だけ不安がよぎったが

月子を悲しませたくないという思いから出た言葉は

思っていた言葉と反対の言葉だった。

「…わからないが、俺はずっと月子と一緒にいるよ。」

その言葉を聞いて安心したのだろうか

月子は先ほどより笑みを浮かべ

満面の笑みで俺に語りかけた

「…うれしい…!私…陽介さんにずっとここにいてもらったら

  一人じゃないのよね…ありがとう陽介さん」

「いや、いいんだ。」

俺はいつまで妻と一緒にいられるのだろうか。

せっかく帰ってきたのにすぐにいなくなってほしくない。

「せっかくまた会えたんだ、明日は花櫛公園にでも行こうか。」

花櫛公園、俺が月子と一番最初に行ったデートの場所だ。

「覚えていたのね、うれしいわ」

もちろんだ。ともいうような顔を月子に浮かべてやると

月子はさらに喜んだ。

夜が更けていくのも忘れ俺は月子と朝まで話していた。


再会を祝福するかのように太陽は地平線の向こうから顔を出し始めていた。


初投稿です。

少しでも興味を引いたのでしたら

二話目も読んでいただけると嬉しい限りです!

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