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Invitation

「はあっ!?」


オレは校長室だというのに当の本人の校長が何処にも見当たらない奇特さを全く無視できるくらいの提言に、目をしかめて半開きのままの口からいつもより数オクターブくらい高い声を発した。オレをこんな状態にさせた張本人の桃髪童顔女は対面の黒い高級ソファーにちょこんと座りブカブカの服に身を包んで腕を組んで「うむ」とか言ってやがった。

オレの横には副校長がいて何故か戦々恐々としていた。そこのガキはどこぞのお嬢様なのだろうか。ただの遊びに付き合わすだけならオレを名指しで呼んだ理由が不明瞭だし、このちびっこには全く面識がないからオレを名指しした理由も不透明。そのちびっこはソファーに囲まれた中心に位置するスケルトンテーブル上の茶色の饅頭を両手で転がして遊んでいた。


「ん?って、そのブカブカの服なんだ?とか思っていたら学校指定のワイシャツじゃねえか?」


どうりでサイズ合わないはず。目測で男物のLは下らない大きさ、なんでもっとマトモなものを着ないかね。下半身にはハーフパンツでも穿いているのだろうが、身の丈に合わないワイシャツの為に完全に隠れてしまっていて場合によってはそれは『裸ワイシャツ』とか言って男子に親しまれるのかもしれないが、如何せんガキであるために体系的に“ただの奇怪な格好”としか捉えられなかった。

桃髮少女は自分のことを言われているのに気付いたのか視線を饅頭からオレに移し口を小さく開く。




「コロシヤさんになりなさい」




それはどこまでも無感情無気力に溢れていた。イメージは軟水。そして透き通るような青。そのように声の感想を抱けるほど少女の言葉が意味として頭の中には浸透せずに、音としてダイレクトに脳を刺激した。まあ、ぶっちゃけるならば“言っていることの意味が分からなかった”。


「いや、だから…そのっ………はぁっ!?」


本日二回目の「はあっ!?」

一回目は校長室の重い扉を開けた直後。視覚情報として彼女を捉えるより先に今と同じような言葉を聞いた時だ。加えるならオレは、未だに少女の声をその言葉としてしか聞いていない。数で表すなら12文字10種類24バイト。端的だからストレートな意味なら伝わるが、理由や深い意味やどのジャンルの話かは見当もつかなかった。そんな少女は今、自分の責務は果たしたとでも思っているのが再び饅頭弄りにいそしみ始めていた。あれも球技用に頑丈に作られているものではないので所々ボロボロになって餡子が漏れていた。

オレはれったくなったのですこぶる帰りたくなった。ちびガキとの触れ合いは別段、嫌いというわけではないが進んでやりたいとも思わない。玉突きに興じている方がよっぽど楽しいのだ。



「だいたい校長先生はどこに言ったんですか?」


オレは桃髮少女との会話を断念して副校長に顔を向ける。

だのに言葉が返ってきたのはおかしな方向であった。



「わたしがこうちょー」



どうやらおかしいのは方向だけじゃないようだ。

声色声質それらは明らかに目の前のおじさんの所有物ではなかった。




「はあっ?」

三回目である。新たな言葉を聞けたのは重要な一歩とも言えなくもなかったが少女の戯言にオレのイライラのつのりも飽和状態に近かったので本当にどうでも良かった。そんなオレを危惧してかここで初めて副校長が言葉を発する。


「彼女が校長先生なんですよ」


しかしそれは期待外れも甚だしい返答。


「はあっ!?」

四回目。ただし気持ち声は大きく感嘆音の意味合いが違った。

つまり呆れではなく驚き。それともこの人もオレをおちょくっているのだろうか?



「実は彼女は厚生労働省の官僚で、例の《脱蛹化蝶計画イマージェンスプロジェクト》の拡大化のためにこちらに派遣されたのです。ですが、あくまでも秘密裏ひみつりなために校長ということにしているのですよ」


それを察してか副校長は説明するようにオレに詳細を話してくれた。いやいや、正直言って「はい、そうですか」と納得出来るレベルの説明にはほど遠かったが、最も桃髮少女が「はい」と差し出した名刺と個人証明書を見て無理矢理に理解はした。名刺には『厚生労働省《脱蛹化蝶計画イマージェンスプロジェクト》担当東京支部…地区長兼管理官』と書かれている。『…』の所は長かったので割愛した。だがそれよりも個人証を見てオレは愕然とする。



小鳥逃たかあり羽音はおと……21歳!?」

この常にぬぼっとしていて何考えているのか分からない桃髮少女がまさか自分よりも4つも年上だとは誰が思っただろうか。なにせ姿形だけにとどまらず立ち振舞いまでもが子供みたいなのだから。そんな少女?はソファーに深々と座り鼻高々としている。




「ふっふっふ、おどろいたか。にじゅういっさいなのに もう だいがくを そつぎょうしているんだから」




驚きの原因はそれじゃねえよ。

いや、確かにそれも驚いたけどな。

けどオレはだからこそ何でここにいるのかが分からなかった。


「あー、小鳥逃たかありさん?《脱蛹化蝶計画イマージェンスプロジェクト》ってのはもしかして例の人口減少を食い止める計画のひとつのあれですか?」

「そー」




脱蛹化蝶計画イマージェンスプロジェクト

それは世界唯一史上最大のMMORPGの『Ἀρκαδίαアルカディア』への中毒症状により引き起こされた人口減少対策の為に結成されたもので、その内容とは“全世界のありとあらゆる天才を集めて”そのゲームをプレイするもので、彼らは“本ゲームにおいて通常より特装された”PKerプレイヤーキラーという技を使って、廃プレイヤ人を人間に戻すことを実践する。よくある“夢の中で眠れば現実世界で目が覚める”法則を本気で用いるのだ。

では“特装”とは何か?

それは“もし負けたら相手側に個人情報が流れる”というものだ。これの何が廃プレイヤ人にとって脅威かというと個人情報が知られれば政府に場所を特定されて“現在のIDを削除される”のである。人によっては「別に新しいIDを取得すればいいじゃないか」と思うかもしれないが、ゲームをかなりやりこんでいる廃プレイヤ人にとって全てのデータを消されることは死に等しい。前のデータのことを考えると新しくゲームをプレイするやる気なんてものは減ってしまうのだ、たとえプレイしたとしても前回以上の熱がなくなる。それは元々ゲームを遣り込んでいれば遣り込んでいるほど兆候が顕著に現れる。これは平成の初期から見られる現象で、ゲーム心理学の専門家の間では『セーブしてないのにお母さんがコンセント抜いちゃったの法則』として有名である。


「ころしやさんってのはつまり廃プレイヤ殺しスレイヤーになれってことか…いや、ですか?」

「むむ、それって たんじゅんに えいやくしただけ」


オレの尋ねに対し膨れる小鳥逃さん。

まあ確かにSlayerの和訳は殺人犯だけれども21世紀後半現代においてスレイヤーとは皆が皆、廃プレイヤ殺しの方を考えるだろう。


「それと…」


小鳥逃たかありさんが続ける。






「わたしのことは たかありさんじゃなくて、そんけーのねんをこめて はおとちゃんとよびなさい」





何言ってんだ?このロリアダルト。

思わず本日五回目のアレを言いかけた。とてつもなく殴りたい衝動に駆られたが、年功序列という言葉が完全に死語と化した21世紀後半現代であってもオレは敬語大国日本の一員として年上を尊敬するためにそれを抑える。…まあもちろん『羽音ちゃん』とは呼ばないが。そんなことよりも聞きたいことがあったのでオレは彼女の発言を無視する。


「ってか、小鳥逃さん。何でオレが廃プレイヤ殺しスレイヤーに召集されたんですか?」



あれは前述の通り“天才”を集めるものだ。確かにオレはビリヤードの天才だが、それは男子高校生特有の冗談であくまでも“自称”でしかない。なにせ少子化の進みきった現代でマイナースポーツにも関わらずインターハイに出場したことすらないのだ。恥ずかしいので豪語したくないがそれがいい証拠である。だからこそ問いたかった。小鳥逃さんは顎に指をやりながらオレを見上げる。






「はおとちゃん よくわからない」






ぐっ…!?

危なかった、危ないところだった…。

なんだこれ?今、凄く可愛いとか思いそうだった。

否、確かに心の奥底では思ったがそれを認めたくないオレがいるのである。

今も、はおとちゃ…ごほっげふっがふっ…小鳥逃さんは首をひねりながらオレを頼るような瞳をしてくる。それは魔性にあふれていて保護欲が次から次へとみなぎってくるのだ。この気持ちを古代いにしえの文献から引用するならば「萌え」だろうか? バカなっ!?今まで日本の戦闘民族OTAKU人は滅んだとばかり思っていたが、しくも我が大和魂にはしっかりと刻まれていたというのか?

だが、オレが唯一の救いははおとちゃん…じゃなくて小鳥逃さんの声が無感情極まりないものであったことだろう。でなければオレはここまで正気を保てはしなかった。それはそれとしてオレはこの桃髮童顔成人に言わねばならないことがあった。





「えっと。その話、せっかくですがお断りします」



小鳥逃さんは変わらず無表情、オレのこの反応は充分想定内なのだろう。ただ単純に何も考えてないのかもしれないが。副校長は激しく狼狽していたが構うもんか。

廃プレイヤ殺しスレイヤーに選ばれるのは名誉なことなのではあるが、オレのように拒否するのは一般的である。なぜならオレを含む“地球で主に生きる人間”は廃プレイヤ人を差別していて同じ人間だと思っていない。そんな得体の知れないものとコンタクトをとるなんて御免被るのだ。さらには逆に廃プレイヤ人に負けてこちらの個人情報が向こうに漏洩した場合どんな報復に遇うかも分からない。こちらが差別するのと同様に向こうもこちらを差別しているのだから。

小鳥逃さんはしばらく何かを考えているような素振りを見せてから(多分、実際は何も考えていないと思うが)、さっきと同様にびるような視線をくれる。







「おにいちゃんがやってくれるなら、はおとちゃん すごくうれしい」





心臓が弾けるかと思った。

お兄ちゃんだと?お兄ちゃんって言ったのか?こいつ今。

ちょっと待とうか。小さい子にときめくとか大丈夫なのかオレ?でも成人だからありなのか?

いや、なにこの矛盾?逆に大丈夫じゃないだろ?

なんか50年くらい昔のエロゲやってる気分に陥ったみたいだ。


だがな小鳥逃さん、いや小鳥逃!!

悪いがオレにそれは通用しないぜ。

なぜならロリ属性も妹属性もオレには存在しない。

効果抜群で二倍ダメージなんてことは有り得ないのだ!! ハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!












と、


頭の中で考えながら茫然としていたオレは、現実にはその安いハニートラップに参ってしまい「分かりました任せてください羽音ちゃん」と無意識的にのたまっていていつの間にかこの場にいた二人の黒服にかかえられながら連行されて黒塗りの高級車に乗せられていた。


しかし、混乱状態にあったこのオレ柚木崎ゆうぎさき佑樹ゆうきは未だにそのことを把握できないのであった。




オレが正気に戻って、全く見覚えのない場所にいるのに気付いて五回目の「はあっ!?」を言うのはもうしばらく後のことである。


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