春崎望の死
今話書いてて思いました
「本編いつはいるのか?」と(笑)
自分では伏線になるような事所々書いてるつもりなんすけどね(^_^;)
『ねぇ、どうして望を殺したの?』
『苦しいよ…痛い…』
『潤…助けてよ』
『こうなること、わかってたんでしょ?』
『あなたはこうなることを望んだ』
『あなたは私を見殺しにした』
『あなたが私を殺した』
『私を殺したのは神倉潤』
『まぎれもないあたな』
『あなたに殺された』
『あなたが…』
ピピピピッ!!ピピピピッ!!
「わっ!!」
不快なアラーム音で目が覚めた
[9月4日(木)7:00]
ふと隣を確認するがもちろん誰も居ない
「…夢か」
生々しい夢だった
暖かさ、心苦しさ、そして冷たくなっていく望の身体…
今思うと全て夢でよかった
何よりも現実でなくてありがたい最後だった
悪夢の所為か、身体中が嫌な汗でべっとりしている
今日は朝風呂入ってから行こう
朝風呂の下りでホームルームギリギリの時間に滑り込みで教室に入ったのだが…
教室の雰囲気が普段と比べてどこかおかしい
活気が無いというか、沈んでるというか…
所々涙を浮かべている女子も居る
その上いつも馬鹿騒ぎをしている面々も今日は落ち込んでいるといった感じだ
そしてホームルームが始まっているというのになかなか担任が現れない
「神倉…」
クラスでも仲の良い方の友達、安田将吾が暗い面持ちで話かけてきた
「おう。なんか辛気臭い雰囲気やけどなんかあったん?」
「神倉知らないんだ…」
ん?
「お前の元カノ…春崎が死んだ。殺された」
「……え?」
正夢?
そんな話ありえんやろ
「嘘…やろ?なんでアイツが」
「いや、マヂで…色々噂回ってるけど、近距離から心臓を撃ち抜かれたらしい。」
「そんな…」
これやったら夢と全く同じ死に方やんけ
どうなってるんや…
「なんか奇妙な話で、傷口から銃殺に間違いはないらしいんやけど…身体貫通してるのに鉛も火薬の反応すら出てないらしい。」
近距離からの発砲、銃器の反応無し、銃の形を模した右手…
どうしても夢の中の男の姿が頭をよぎる
『バーンッ!!』
「そんな………………。」
「神倉…。大丈夫…なわけないよなそりゃ」
「はい、皆さん席付いてー。中にはもう知っている方も居るかも知れませんが…今から緊急集会が行われますので全員速やかに…「先生。」」
「どうした神倉?」
「………すんません。オレ、帰ります」
遅れて教室に入ってきた担任にそう告げてオレは教室を後にした
担任はオレの心中なんて察していなかっただろうが、追って来るような事はしなかったようだ
ともかく独りになりたかった
どこか遠く、一目に付かない落ち着ける場所
そう思いバイクを走らせたオレがたどり着いた場所は、いつか望と二人で来た思い出の海だった
学校からはかなりの距離だが今は一人で、全速力でバイクを走らせた事もあってかとても短い時間でたどり着けたように思えた
「相変わらず汚い海やな…」
水は濁りぎみで、浜辺には海藻が所狭しと打ち上げられている
もともとここはあまり綺麗な海ではないのと、時期外れでしかも平日の朝というだけあってオレ以外に誰一人と人がいなかった
「ちょっと汚いけど…オレはこの場所好きや」
楽しかった思い出があるから…
オマエと、初めて彼女と来た海やから…
誰に喋りかけるでもなく、オレは虚空を見つめながらこぼした
オレは靴も脱がず決して綺麗ではない海に足を浸けた
「…つめた。まだ9月やのにもうこんな冷たく感じるんや…」
確かオマエと来た時もまだ早い時期やったから冷たかったっけ?
「懐かしいなあ…。」
なあ望?
「今度は夏に来よな」
それから何をするでもなくぼーっとただ砂浜で遠い海を眺め続けた
望はオレの見た悪夢の所為で死んだ?
こんなおかしな話があるはずがない
じゃあ不可思議な死の状況は?
学校に行き、望の死を聞いてすんなり受け入れている自分が居る
あんな夢を見て、望の死を疑わない自分は普通じゃないのだろうか?
望の死は仕方なかった?
オレが望を殺した??
色々な想い・疑念が頭を巡っているうちに、夕陽が水平線の彼方に消え去ろうとしていた
携帯を確認すると安田からメールが届いていた
[春崎まだ自分ちにいてるみたいだぜ?最後に顔見に行ってやりなよ]
安田の心配りに感謝の返事をして、オレは望の待つ春崎家に向かう事にした
望と別れて1年近く経つというのに、恐ろしいくらいにはっきりと道を覚えていた
そのおかげで迷うことなく辿り着けた
望の家はアパートの一室で、特に喪に服したような様子は見られなかった
まるで付き合ってた当初を思い出すかのように何の変わりもない普通の玄関扉
いざ目の前まで来て足が竦む
これから望の居ない現実を受け止めなければいけないと思うと胸が苦しく、一歩が踏み出せない
気が沈み下向き気味になったオレの意に反して、目の前の扉は開かれた
望のお母さんだ
「あら、キミは…」
「神倉です。お邪魔してもいいでしょうか?」
望のお母さんはずっと泣いていたのか、目が腫れぼったい感じがした
「どうぞ」
「失礼します」
「望は自分の部屋にいるから…」
オレは望の部屋の扉を開いた
そこには白い布団を掛けられ、まさに眠っているように美しい顔でベッドに横になっている望が居た
わかっていた事なのに現実を目の当たりにして自然と涙がこぼれた
すると望のお母さんがお茶を持ってきてくれた
「ちょうどさっきね、望の彼氏が来てくれたの。それで部屋で二人きりになりたいって言ったからこんな状態なの」
「そうなんですか…」
そっか
望にはもう新しい彼氏が居たんだったな
今まで何考えてたんだろオレ
望が生きてても気持ちの向く先はオレじゃない
オレが思いを向けるのも望であってはいけないんだ
これじゃただの迷惑で未練がましい元カレにすぎない
「オレ…望さんと一緒に過ごせた時間、めっちゃ楽しかったです」
「ありがとう。きっと望も喜んでるはず」
そんな事を考えながらも望のお母さんに気持ちは伝える事にした
なんか一方的に引きずってるみたいでカッコ悪いなオレ
心のどっかでまたあの頃に戻れるのを期待してたのかもしれない
そのただ一つの望も消えてしまったと思うと涙がとめどなく溢れ出した
「ははっ…なんかすんません。もうみっともないんでお邪魔させてもらいます」
「いえいえ、今日はありがとうね。」
オレは深くお辞儀して春崎家を出た
アパートの来客用駐輪場に向かいながら昔を思い出していた
バイクでここに来るときは決まってそこで望が手を降って出迎えてくれた
でも望が出迎えるのはもうオレじゃない
望はもう居ない
"もしも"という奇跡にすがる事すらできない
「乗り越えるしかない...」
とぼとぼと下を向きながら自分に言い聞かせるように独り呟いた
「そうね、乗り越えるしかないわ。」
顔を上げると視線の先には同じ高校の制服を着た女が居た
うん、どうしても暗くなるなあ
まあ今の流れ的に仕方ないといや仕方ないのだが…