至福の時
―――ピピピピ……
「ぬー…。」
耳障りなケータイのアラーム音でオレは目を覚ました
画面が[9月4日(木)7:00]を知らせる
「おはよー潤」
「…ああおはよ。って、えぇっ!!?」
何故にオレの横に望がいるんだ!?
何故何故何故何故??
「えーと、どうして望がオレん家に??朝だけど何故オレの部屋に??そして何故1つのベッドの上に2人でいるんでしょうか??」
望はガッツリとピンク地にハートといった可愛らしいパジャマを着て不思議そうに首を傾げてオレを見ている
あかん…可愛いすぎる
てか近すぎやろ!!
せっかく目覚ましたのにまた眠りに落ちるぞこら
「それは望達が付き合って今日で半年やから♪潤が昨日泊まりに来いって言ったやん」
「…………え??」
え?え??
そんなわけないやろ!!
オレ達はもう1年近くも前に終わったはず
これは新手の嫌がらせか?
いや、新手のドッキリか!?
どっかでカメラ回ってるんじゃねーのか!??
「え?って…自分で言っといて忘れたん!?もうおじいちゃんやな」
「昨日……?望と喋った記憶ないねんけど…」
昨日は確か望を見かけただけで…
会話を交わした記憶なんて一切無い...
「潤サイテー!!彼女との約束忘れるとかありえへん」
そうか!わかったぞ!!
「これは夢や!!!そうやこんなんないない!!」
昨日何かと望の事考えてたから夢に出てきたんや
これで納得できた
「なるほど~...まだ寝ぼけてるみたいやなあ」
オレは謎が解決してスッキリ顔
望はそう言って何か考えるような顔付きでオレの顔を覗き込み、そっと触れるだけの甘いキスをした
「……………!!!?」
「これでも…夢?」
予想にもしなかった望の行動に言葉が出ず、頬が紅潮した
もう夢かなんてどうでもいいや
というか現実やろ
うん、現実や
「いえ、現実です。ありがとうございました」
「わかればよろし♪てか何照れてるん??」
「いやいや照れてねーし!!てか今日平日やから学校じゃね!?」
いやそら照れるで?
望みたいな美人ちゃんが朝からチューなんてしてきたら
「…今日はサボって1日一緒に過ごそって言ったの誰よ?」
望はふてくされた顔でオレを見てきた
しまったー!
こんなべっぴんさんと居られるのに学校の話なんてオレはバカか!!
「…ワタクシでございます」
「もうっ!!」
それからは望の望み(シャレじゃないぞ)通りショッピングモールでデートする事になった
因みに余談だが望がパジャマから着替えるときガッツリ生着替えを見物させて頂こうとしたのだが…
恥ずかしがって布団をかぶせられました(裸のお付き合いしたんだから恥ずかしがる必要なんか無いのに)でもオレがそんな事で引き下がるわけも無くチラッと布団から覗くと…
薄いピンクに黒のヒラヒラが着いたおパンツが見れちゃいました!!
その後、朝から息子が元気付いたのは言うまでもない
で、今は電車で1時間程のショッピングモールに来ている
「なんか久しぶりやね、潤と2人きりなんて」
「あ?あぁ。」
そうだっけ?
まあいいか
「あー!!見て見て♪」
目をキラキラさせて望が見ているのはどうやらアクセサリー屋のようだ
「入ってく?」
「うん♪」
そういえばペアリングが欲しいとか今朝言ってたっけ
まあそれには同感だしオレもこういう店好きだからな
適当に店内を見回ってたら望が一つの商品に釘付けになった
「うわぁー♪これめちゃオシャレ」
「んー?」
望が見つけたのはシンプルに2本の黒ラインが入っただけのペアリング
うん、なかなかいいデザインだ
「これこれ♪いい感じじゃない?どうよ?♪」
「うーん…、なあ望。これはまた今度にしやん??」
「えー!せっかく半年の記念日に潤と2人でデートやのに?」
「また来たらええやん」
それに…
「あと半年待ってくれたら1年の記念日にオレがもっといいのプレゼントしたるやん」
「やった♪じゃあ我慢する。でも一緒に選ばしてな?」
「おう」
こんな恋人同士の他愛も無い話をしながらオレ達はぶらぶらと色んな店を見回った
それから夜に2人でパーティーをするためにケーキを買って帰ろうという話になった
先月の記念日はコンビニで買ったので「来月はちゃんとしたケーキ屋のケーキで」って言ってたらしい
勿論オレは記憶に無いが…
「やっぱケーキて言ったら苺ショートやな」
「潤はお子ちゃまやなー。望は大人っぽくモンブラン♪」
「おいおい苺ショートを馬鹿にすんなよ」
やっぱ望と居たら楽しいな
ずっとこんな幸せが続けばいいのに…
「ん?何やろあれ??」
望の視線の先には商品を乗せたカートに若い女の子達が群がっていた
…どうやら下着のセールらしい
「…下着のセールみたいだな。それにしても主婦並みの威圧感や(笑)」
「やばいね(笑)じゃあ望もちょっくら行ってきますわ。潤も行く?♪」
「いや…オレは遠慮する」
「やっぱり?(笑)じゃあ潤好みの探してきまーす♪」
望は敬礼して行ってしまった
大量の下着…
やはり彼女連れという立場を利用して行っとくべきだったかな?
結論やはり遠巻きから望の戦いぶりを見守る事にした
周りを見たらオレと同じ立場であろう男が何人かいた
なんか彼女が下着の争奪戦してるの見るって複雑やな…
そんな事を考えてると不自然な男を1人見つけた
ジーンズでキャップを被った上から黒のパーカーを着て、セールに群がる女達の3ほど後ろでじっと見ている
オレと同じように彼女待ちだろうか?
その男は下着を見ているのか女を見ているのかわからないが、妙な胸騒ぎと不安に陥った
すると男は女達の方へ動いた
「春崎望さんですよね?」
「はい?そうですけど…」
男が望に話しかけてるのが見えた
何なんだこの胸騒ぎは!
でもまずい…
「そうか…会えてよかった」
「…??」
ここからだと会話が聞こえないが望は困ったようにしている
男の横顔が不敵に歪んだように見えた
やはり望の所に行った方がいいか
「バーンッ!!」
その刹那、男が望の胸に指を突きつけ…
望が倒れた
「のぞみっ!!!」
望の胸には銃で撃たれたような1cm程の穴が空いて、傷口からはどくどくと赤い血が流れ出ている
「のぞみ、のぞみっ!!!しっかりしろ!!誰か救急車を呼んでくれ!!」
「じゅん…?望、死んじゃうの…かな??」
無理矢理望は笑顔を作ってオレにそう言うと、
望は動かなくなった
「馬鹿!!死なせて…たまるかよ……」
周りの世界が見えなくなった
世界が言葉通り"真っ暗"になっていく
望が殺された…
望が死んだ…
オレの腕の中で
「くっそ!こんなの…」






