未来(あす)へ
長くなってしまいました(^。^;)笑
力は死んでしまった
オレをかばって…
能力者の亡骸は塵と化して消え失せる
生前の面影すら残す事無く実体の無いものへと変わってゆく
その事実が、体の中を流れる新しい力が死というものを痛感させる
「友情、親愛の情………実に儚いものだね。そして何よりくだらない感情だ」
森本が呆れたかのように、力の死を嘲笑うかのように呟いた
オマエなんかに…
「…オマエなんかに何がわかんやッ!!!」
オレは立ち上がった
力の死を無駄にするわけにはいかない
オレを庇って命を託した力の意志を絶対無駄になんかしない
「死人の力を吸収したか。キミの能力にはつくづく感心するよ。ますますその力、欲しくな………」
その時、浮遊していた森本が突然よろよろと地に降りてきて片膝を着いた
「チッ…能力を使いすぎたか。やっぱり"この身体"であれだけ動くのはキツかったかな?」
どうやら強力な能力の連用でガタが来ているらしい
…今しかない
「グレイ!!」
瀕死の仲間の名を呼んだ
脇腹を抉った剣は今や力を放出しきって消滅していた
だがしかしその傷は深いもので深紅の血がとまることなく溢れ出している
「おい、グレイッ!!しっかりしろ!!」
名を呼んでもぐったりして動かないグレイに再度声をかけた
思い返すと以前にも森本の猛攻を受け続けていたグレイには決定的な一撃だったのかもしれない
もうダメか………
「何度も呼ぶでない…。まだ………死んではおらぬ」
驚異的とも言えるその生命力に畏れさえ覚えたがもう限界かのようにも見えた
グレイは薄目をあけて肩で息をきっていて、所々低く呻き声を上げながら傷口を手で押さえた
言わずもがな誰が見たところで戦闘に参加できるような状態ではなかった
それでもオレはグレイの生に希望を見出した
「…よし、辛うじて生きてるみたいだな。今からこの糞野郎にケリ着けるから意地でも死ぬなよ!アンタの力が必要なんだ」
「………ふッ。相変わらず…生意気な小僧だ」
グレイは一笑したつもりだったのだろうがその表情は苦痛で歪んでいた
「ケリを着ける…か。キミはどうやら勘違いをしているようだね、神倉くん。」
少しの間膝を着いてうずくまっていた森本が立ち上がった
オレはその声を聞きながら軽く瞼を閉じた
「キミたちぐらいを壊す力なんてまだ充分残ってるんだよッ!死ね、死に損ないがッ!!!」
オレは森本の怒号と共に目を開いた
森本は闇とも言えるような黒い業火を伴うエネルギーの球体を手の上に溜めだした
「させるかよッ!!!」
オレは力によって回復した体を一直線に森本の方へ向かわせた
その速さはグレイが居合いを放つ時を凌ぐ速さで、目で捉えられる次元を遥かに超越した速度だった
「なにッ!!!?」
森本が気付いた時にはもう目前まで間合いを詰めていて、言葉を発するのと同時くらいのタイミングで能力で強化された右の拳が左の頬にめり込んだ
あまりの速さに防御を取れず、全身全霊で放った怒りの鉄槌を諸に顔面に食らった森本は屋上のフェンスを突き破り、空中を何転かした後に浮遊する形で止まった
致命傷とまでにはいかなかったものの能力で肉体強化された拳を受けた森本はさすがに堪えていた
「…クッ、あの男の能力の肉体強化…。こざかしいッ………!!!」
森本はゆらゆらとふらつきながら空中を移動し、オレ達の頭上近くに移動し終えるとさらに上の方へと距離を取った
「キミの能力なんてもうどうでもいい、また他のDAYDREAMERを探せば良い話なんだから…。僕に傷を付けた報いだ!この街ごと消し飛ばしてやるよッ!!!」
森本は手を前にかざし、死んだ魚のようなその淀んだ瞳を大きく開眼させた
瞳が黒から深みを増して漆黒へと変わっていく
全身からはどす黒い負のオーラが漂っていて鬱蒼とした前髪が暴れている
体中が、筋肉が細胞が萎縮しそうな程の強力な力が森本から放たれた
絶大的な力を前に傷口が疼く
「…ッ、グレイ!オレが合図したらいつでも刀を投げれる準備をしといてくれ」
「………刀を投げる?」
「オレを信じてくれ…」
「フッ、死に損ないついでに一ヤマ乗ってやろうぞ………」
森本がかざす手の前に、紅蓮の稲妻が迸る漆黒の能力の球体が現れた
それはゆっくりと確実にエネルギーを増しながら大きくなっていっていた
オレはこの場に巻き起こる身体をも破壊しそうな程の覇気を受けながら深く目を閉じた
瞳を閉じると白と黒の2色のみで彩られたモノクロの世界が見えた
そこは鮮やかな色彩をなくした事を除いては現実の世界となんら違いのない仮想の空間だった
グレイは傷だらけで意識が朦朧としているし、森本は頭上で力を溜めている
それに伴って放たれる覇気がオレ達の身体を蝕んでいるのも現実と変わらない
ただひとつ現実世界との決定的な差は、この仮想の世界の主は自分であること
己の思い描いた通りにこの世界は廻る
神の目すら行き届かない行きその空間で自分は唯一絶対的な存在
これがオレの、DAYDREAMERの真の能力
森本の溜めている力はみるみるうちにエネルギーを増していった
直径10m程までに肥大したその漆黒の球体の驚愕的なエネルギー量で辺りの空気が熱を帯びた
じりじりと火で炙られているかのような熱さに体から汗が滲み出てきた
「何をしている…、はやく…手を…打たないと………」
グレイが声を絞り出しているがそれには答えない
ただ今はその時に備えて気を集中させる事だけを考えて目を静かに閉じた
視覚を遮断し全身で力の流れを感じ取る
熱を肌で捉え,力の反発しあう音を耳で捉え、頭上のエネルギーの変化に集中した
未だ増大していく力を鮮明に感じ取った
著しくしてエネルギーの増加が最高潮を迎え、その力が凝縮していくのを感じ取ったその時に大きく開眼した
目を見開き頭上の森本の目を貫くかの如く鋭い眼光を向けた
それに続いて仮想空間から現実世界に引き戻され、閉じた瞼を開いた
「なっ…!?身体がッ!!!それに、金色の瞳………。貴様ッ、このタイミングで二次覚醒したのかッ!!!」
そこには身動きが取れず、能力を放てないでいる森本の姿が映った
絶大的な破壊力のこもった球は力が凝縮されて手のひら大のサイズにまでなっていた
「グレイッ!!!刀を投げろッ!!!!!」
「金色の瞳…か」
体をグレイの方に向けて叫んだ
するとグレイはオレの瞳を覗き込むようにして見つめながら呟くと、その傷だらけで血塗れの体をよろよろと起き上がらせ、ふらつく体を屋上のフェンスに預けて刀を構えた
「これが………我々…、人間の意地だッ!!!」
数多の攻撃を受け続けてきたその体で最後の力を振り絞り軍刀を頭上の森本目掛け一直線に放った
「…後は任せたぞ、小僧ッ!!!」
刀は直線を描き森本に迫っていく
「そんなナマクラが刺さった所で僕は死なないよッ!!」
徐々にその距離は近くなっていく
オレは右手を体の前に突き出し手で銃の形を模し、刀の軌道上に狙いをつけて来たるべき次の瞬間に備えた
「もう…もう全部終わりだッ!!!」
オレは最大限の力で引き金をひいた
残りの全ての力を注ぎ込んだ弾丸は、狙いの通り刀の柄の端に命中した
末端に強大な力を受けた刀は回転しながら凄まじい速さを伴って森本へと急接近した
永遠にも思える限りなく短いその一瞬が過ぎた
暫くして上空から頭が落下してきて、それに続いて体が落ちてきた
オレ達の放った刀は森本の首を断ち切っていた
切断面はまるでゴム製の人形を切ったかのように何もなく、一滴の血すらなかった
「………やったのか??」
全ての力を使い尽くしたオレは膝から倒れながら呟いた
瀕死のグレイは既にその場に崩れ落ちていたが、意識は辛うじて保っているようであった
「頭と体を分断した。………さすがのヤツももう…動けまい」
「彼の言う通りだよ、神倉くん。"2割"しか能力を使えないと言えど僕を倒すなんて…。やっぱりキミは惜しい人材だよ。手に入れておきたかった」
…なっ!!!?
あまりの衝撃に声が出せなかった
能力者と言えども人間である事には変わりない
体を切れば血が出るし痛みもある
息をとめると苦しいのも当たり前
それなのに首を切断されているというのに痛みすら感じないといった風に坦々と笑顔を浮かべながら喋っている
「まだ…死んでおらぬのか」
「あぁ、心配しなくても"この体"ならもうすぐ消えちゃうよ」
狂ってる…
「それに君の読み通り、こうなっちゃったらいくら僕でもどうしようもないんだよ」
狂ってる…!
「狂ってる………!!!。狂ってるじゃねーか!オマエは死ぬのが怖くねぇのかよ!?…まともじゃねぇ!!」
そんなオレに、森本は嘲笑うかのような口調で続けた
「君と僕とじゃ決定的な違いがあるんだよ」
「…違い?」
図らずもオレは森本の言葉を繰り返して呟いていた
「"今キミが殺した僕"は僕自身の能力で作り出した僕。つまり能力によって作り出したコピーなんだよ」
「………えっ?」
じゃあオレ達が命懸けでコイツを倒した意味は…
「コピーである僕1人を殺した所で僕本体は痛くも痒くも無いって事さ。キミのしたことは全くもって意味をなしていないんだよ。」
そんな…
コイツを倒したら全てが終わると、そう思っていたのに…
その時森本の体が、足下の方から塵とも灰とも言い難いような能力者の死期に見られる特有の物質へと姿を変え始めた
「あ、そうだ。ついでにキミに良い事を教えてあげるよ」
森本は微笑みながら続けた
「この県内だけでも僕のようなコピーはあと4体いる。それらコピー全ての目的は、素質のある人間の特殊能力の覚醒。そしてそのコピー達はこの僕と同じく本体の2割の能力しか使えない。つまり本体の強さは単純に考えてこの5倍。さぁ神倉くん、僕を倒したように全て倒すかい?それとも本体を探し出して殺すのかい?」
森本は不吉な笑みを残したまま塵と化し、それを夜風がさって消えた
「………くそッ!!!オレのしていた事は…」
悔しさで地面を叩きつけようとしたが、無情にも力を使い果たした体が言うことを聞かずそれすらできない
「否、………意味ならばある。」
「…なんだって?」
「主の言う全ての元凶、それが今回の事で明確になった」
グレイは傷だらけの体を起き上がらせた
「我は政府直属の部隊であるSCDに所属していながら、近頃の政府の方針に不信感を抱いていた。それが全て繋がった」
「つまり…政府側の人間が黒幕だって事か?」
グレイは胸のポケットから小型の端末を取り出して続けた
「左様。政府は以前から敵視していた先のDISASTERのような者の所属する能力者組織を黙認すると表明した」
「政府は…国は敵の存在を認めたって事か?政府って国民を守る正義の機関じゃねぇのかよ!」
「それゆえ我は独断でDISASTERを始末しに参った。我は我の正義を貫く為に、己に忠を尽くす為に…。今の政府のやり方は間違っておる」
「アンタ…能力者は誰彼なしに始末するみたいな感じだったけど、実は良い人なんじゃないか。」
グレイはこちらを見て鼻で笑うと、端末を操作して通信した
「………第八部隊隊長、グレイである。只今より帰還する」
グレイは通信をきるとこちらに向き直り、告げた
「ここからは我々の使命だ。主のような小童が心配せずとも安心して暮らしていけるよう、必ずやこの命に変えても全てを終わらせると誓おう」
この時オレはとても悔しい思いでいっぱいだった
でもオレはこの男の…グレイの志を踏みにじってはいけないと心から思ったんだ
その後グレイはこの場を去った
そして能力の反応が消えたのを察知して出てきた高島が来てくれて…
それからどうだったっけな?
確か戦いだしてから想像以上に時間が経っていて、仰向けに寝転んだ屋上から真上に月が出ていたんだ
雲一つ無い夜空に浮かんだ月はあまりに綺麗で手を伸ばしたら掴めそうで…
ただ涙が止まらなかった