第二の勢力
将吾はその一室の扉の前にきていた
扉をノックし中に入る
部屋には真昼の太陽の光が差し込みとても心地が良かった
その部屋のベッドに、その男は眠っているかのように横たわっていた
「あ、安田クン…」
「どうも。中野さん、今日も来てたんだ」
「他に行くところもないから」
そういって中野由美子は照れ隠しのような笑いを浮かべた
彼女はよく神倉に会いに教室に来るので顔を覚えていた
そしてこの病室で知り合った
「潤ちゃん、まだ起きないの」
「…もうあれから一週間になるのにな」
「お医者さんの話やったら傷はもう完治してるし、心臓はしっかり動いてるのにまだ意識が戻らんねんて。息もしてへんし。」
「それじゃ医者もお手上げって事か…」
「うん…」
確かいつの話か、神倉も能力者って事を高島から聞いた
おおまかな能力の解説も聞いていたので覚えていた
でも敢えてその事は中野に話さない事にした
神倉…
"あっち側"で戦っているのか?
話のネタも尽き室内に気まずい沈黙が訪れた頃、部屋の扉が開かれ高島が姿を現した
「あら、中野さんはともかくあなたもここにいたとはね」
「アンタがここに来るのも予想外だけど…」
高島はあの後一緒に神倉をここに運んでから顔を出してないと中野から聞いていた
「…ちょっと気分転換に様子見よ。彼、まだ目覚めないの?」
「ああ、…」
高島は何か考えるような顔付きになって中野の顔をじろっと見つめた
能力の事を中野に聞かれたらまずいから場所を移したい、とでも考えているのだろう
何よりこちらとしても命を狙ってきたあの男の話をしておきたかった
高島の意図を察し二人で病室を後にし、近場の喫茶店へと場所を移した
個人営業のこの店はお世辞にも賑わっているとは言えず、カウンターに2組ほどの客がいるだけだった
高島は良くこの店を訪れているようで、マスターに軽く愛想すると一番奥のテーブル席へと進んだ
もとより小さな店だがこの席からは周りが良く見えず会話もほとんど耳に入らない
高島の好みそうな場所だな、とふと思った
マスターが注文を取りに来た
「……ご注文は?」
「私はロイヤルミルクティー。あなたは?」
「え、ああ。じゃあ僕は普通のコーヒーで」
マスターは注文を承ると何も言わずカウンターの方へと戻っていった
「彼、不器用なの。」
「そうなんだ」
幾分か過ぎ、テーブルにロイヤルミルクティーとコーヒーが運びこまれた
暖かいコーヒーに口をつけそろそろ本題に入ろうと思った時、高島が話の口火をきった
「誰かに後を付けられたり、命を狙われたりしなかった?」
自分の話そうとしていた事を見抜かれたかのようで驚きを隠せなかった
「ここに来る前、黒いスーツにサングラスの男に狙われた。逃げてたけど…追い詰められて殺してしまった…」
「それでよかったの。あなたの判断は正しかったわ。殺さないと確実にやられてた。…この分だともう行動を起こしているようね」
「高島の能力は確か"知る力"。情報屋といったところだったな。いったいどこまで知ってるんだ?把握してる限りの現状を教えてくれないか??」
まくし立てると高島は溜め息をひとつつき、怪訝な顔付きで話出した
「まず私達、能力を持った者達が1つ目の勢力。そしてそれを鎮圧するべく作り出された政府直属の組織、"対能力者特殊部隊:to Sinful Children Death" 通称、SCD。奴らは私達、能力者を一人残らず消し去るのが任務。特殊武装から変装、どんな手を使ってでもコレから攻めてくるはず」
「SCD…罪深き子ども達に死を...か、罪深いとは皮肉な話だな。僕達はこんな力望んで得た訳じゃないってゆうのに」
「そうね。ともかく奴らは能力者を狩るプロよ。まだ扱いに慣れていない能力者を狩るくらい彼らには容易い事。命が惜しければもし出くわしても交戦しないことね」
「いや、僕は闘う」
高島は嫌気の差した顔で大きくため息をついた
「あなた正気?ちゃんと私の話を聞いてて言ってるの??」
「ああ正気だ。これから先も命を狙われる恐怖に怯えながら生きるなら、僕は強くなる。強くなって闘いながら生きる」
「相手をわかってるの!?SCDに真っ向から立ち向かうって事は政府を、この国を敵に回すって事なのよ!!!?」
「アイツなら…神倉なら、きっと立ち向かう。敵がどれだけデカくても。僕は逃げたくないんだ。」
「………。」
高島は言葉を無くしているようだった
「神倉はきっと今も闘ってるんだ、自分の能力と。アイツの事だから目覚めたら全ての元凶を潰しにかかるはず。その時は僕も神倉の力になりたい。その為にも逃げてたらダメなんだ!」
しばらく沈黙が続いた
それから高島は飲み物の代金をその場に置いて席を立った
「…好きにするといいわ。私には関係のない事。きっと奴らを敵に回した事を後悔するわよ」
「これは僕の覚悟だ。後悔はしない」
高島は一瞥すると店を出た
「…金はいらねぇ。奢りにしといてやる」
代金をはらうべくカウンターに向かうと、マスターは無愛想に言った
無愛想な彼の瞳には何か察するものがあったのかもしれない
将吾は帰路につきながら神倉の事を考えた
いい加減だし、しっかりしてない所ばかりだがあの男にはどこか惹かれるものがあった
…僕は強くなるんだ
神倉の力になるために