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最弱四天王転生~1年後に死亡するクズ悪役に生まれ変わったので、原作知識と努力で破滅エンドを塗り変える~  作者: 御鷹穂積


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19/22

19◇裏切り者ゼンバーグ

 




「申し訳ございません!」


 執務室に入ると、元監察官の男と複数の獣人が膝をついていた。

 獣人には怪我人も多く、血の滲んだ包帯を巻いている者ばかりだ。


 顔ぶれを見て気づく。エルフ使節団を守るよう指示を出していた部隊だった。

 表向きの護衛とは別に用意した、獣人の暗殺者たちである。


「……ニャルルも捕まったか」


 ニャルルは、一メイドとして使節団に同行させていた。

 彼女が優れた暗殺者として頭角を現していることを、他の者は知らない……筈だった。


「はい……」


 項垂れているのはニャルルの父である。


「よし。ならばお前たちが見聞きした情報を全て報告しろ。そしてサクヤリネイルのところへ向かって怪我を癒し、次の任務についてもらう」


「ハッ……!」


 奴らの報告と俺からの次の命令が済むと、解散となった。


「グレン様……」


 解散後、ただ一人、ニャルルの父が鎮痛な面持ちで佇んでいた。


「ニャルルは必ず救い出す」


 彼はオレの手を両手で握ると「お願いします……!」と懇願した。


「無論だ。ニャルルを失うつもりはない」


 オレの言葉に、彼が涙ぐんだ。


「正直に告白します。娘以外の一族の中には、グレン様が我らをお救いくださったあの日の行動は暴君のきまぐれに過ぎなかったのだと言い出す者もおりました……」


 魔人に虐げられたニャルル一家を助けた日か。

 あれは確かにグレンの気まぐれだった。


「お前達には真実を告げていなかったのだ。無理もあるまい」


 オレの言葉に、彼は首を横に振る。


「……ですが、娘だけは違ったのです。娘はずっと、グレン様のお優しい心を信じておられました。今は理由があって我らに冷たく接しているだけなのだと……」


 彼の言葉が震える。


「お前達には苦労をかけたな」


「滅相もございません! パイス殿から話を伺って理解しました。人間共は弱い魔族を自陣営に引き込み、間者として有力魔族の元に送り込むことがあるのだと」


 パイスというのは元監察官の名だ。


 魔力の低い魔族は冷遇されがちなので、魔王国の現状に不満を持つのも珍しくない。

 そんな中、人間に取引を持ちかけられて乗ってしまう者がいるのもおかしくはない。


 そういう者たちは使用人として潜り込み、魔王国の情報を人類に流すのだという。

 どうやらグレンの屋敷にも忍び込んでいたようだ。


 グレンはまったく気づいていなかったが。

 だが、それがよかった。


 スパイを泳がせ、誤った『グレン像』を人類側に伝えさせ、その残虐性や短絡的な性格が真実と思わせた見事な作戦――という解釈が成り立つからだ。

 獣人たちを冷遇していたのも、敵を騙すにはまず味方からを実践していたから、で通る。


「苦労をかけたことには変わりあるまい。この件が済んだら、休みをやろう」


「で、でしたらどうか……娘と二人の時間を過ごして頂けないでしょうか?」


 ……それも死亡フラグではなかろうか。


「娘思いなことだ」


「一人娘なもので……」


「先ほども言ったが、必ず取り戻す。お前はお前の任務に集中しろ」


「はっ……!」


 そして俺は出発する。

 ニャルルとミュークルを奪還するために。


 ◇


 十二魔将『爆轟』のゼンバーグは激怒していた。

 必ず、グレンスフィオールに復讐を遂げてみせると己に誓った。


 ゼンバーグの兄バーンズは、グレンスフィオールに殺されたに違いない。

 魔王も他の者たちも騙されているが、ゼンバーグだけは騙されない。


 ゼンバーグは自分の領主館の庭に立っている。

 目の前には、鋼の鎖で磔にされたエルフの使節団と、珍妙な衣装に身を包んだ猫耳獣人がいる。


「グレンは貴様の為に自刃する勇気があると思うか?」


 グレンが獣人を飼っていることは魔族内では有名。

 元が穢らわしい孤児であるグレンには、まともな魔族を雇うことも出来ないのだと嘲笑の的だった。


 猫耳女が、馬鹿にするように笑う。


「グレン様のことを理解していないようにゃ」


 獣人共は獣と先祖を同じくする畜生の同類。

 魔人と同じ言葉を話すだけでも腹立たしいというのに、獣訛りのある者も多く、醜いといったらなかった。


「……黙れ。俺は全て分かっている! あいつは兄上をスケープゴートにしたんだ! 自分だって好き勝手やっていたくせに、耳長を売った兄上を裁く権利があるとでも!? 自分の罪を追及されぬよう、兄上に目を向けさせたんだろう!」


「妄想なら一人寂しく寝る夜とかにしてほしいにゃ。聞かされるこっちは堪らんにゃ〜」


 ニャルルが鼻で笑う。


「〜〜〜〜! き、貴様ぁ! 牝猫如きが、魔人の俺に舐めた口を!」


 バーンズとゼンバーグの適性属性は同じ。

 火が強く、補助的に風も使える。


「『爆風(はぜろ)』! 『爆風(はぜろ)』! 『爆風(はぜろ)』!」


 ニャルルの身体中で爆破魔法が連続して炸裂する。


「ニャルルさん!!」


 ミュークルが涙声で叫んだ。


 爆炎が晴れると、ボロボロの姿になったニャルルが、ゼンバーグを睨んでいた。


「なんだ牝猫、またニャーと鳴いてみろ。そんな余裕もないか?」


 嗜虐的な笑みを浮かべるゼンバーグ。


「……こんなんで十二魔将ってマジかにゃ? そんな弱火じゃ、卵を焼くことも出来ないにゃ」


 ニャルルは鼻で笑った。

 それは明らかに強がりだったが、ゼンバーグには許せぬ侮辱だった。


 ゼンバーグの額に青筋が立つ。


「……そうか、グレンより先に死にたいのか。ならば早くそう言え」


「やめてください! 貴方はグレンさんを誤解しています! 彼はわたしたちを助けてくれただけです!」


 ミュークルの悲痛な叫びも、ゼンバーグには届かない。


「耳長猿が人のような口を利くな! 兄上は素晴らしい魔人だった! エルフを売った金で自領を豊かにし、我が一族も大いに栄えた。魔人を育成する学園にも多額の寄付をしていたのだぞ! 魔人の未来を考え、日々戦っておられた! それを、グレンは邪魔しただけでなく、始末したのだ! 奴こそ魔人の風上にも置けぬクズだ! 所詮孤児は孤児ということだろう!」


「その孤児が四天王に就任した一方で、お前たち兄弟はなんだったかにゃ? 十二……あ、兄貴が死んで十一魔将になったんだっけにゃ? ごめんにゃー」


 ニャルルは全力でゼンバーグの地雷を踏み抜いていく。


「――死ね、牝猫」


 ゼンバーグはニャルルを殺すつもりだった。

 しかしゼンバーグの爆破魔法は、どういうわけか不発に終わった。


 違う。


 爆炎は発生したのに、それはニャルルを焼かなかったのだ。


「なんだ? 『爆風(はぜろ)』! 『爆風(はぜろ)』! 爆ぜ――」


「貴様が爆ぜろ、下衆が」


 ゼンバーグが振り返り、顔全体に驚愕の表情を浮かべる。


 ◇


「グレ――」


 ゼンバーグの顔面に拳がめり込んだ。

 それだけではない。

 オレが支配権を奪った爆炎の全てが拳を伝って奴の顔を焼いた。


「がばぁ!」


 まるで流星のように飛んでいったゼンバーグが己の屋敷の壁面に激突し、意識を失う。

 兄に似てさぞ自慢だったろう端整な顔は、原型が分からぬほど潰れてしまっている。

 

 これでも足りぬほどだが、これ以上構うのも時間がもったいない。


「グレンさん!」


 ミュークルが涙目で叫んだ。

 彼女も助けねばならないが、今はニャルルだ。


「大丈夫か?」


 ニャルルを拘束する大きな鎖を溶かして解放する。

 落ちてきた彼女を、オレは受け止めた。

 

 自慢の毛皮が焼けて、特有の嫌なにおいがする。

 だが構うものか。


 これは彼女の努力の証だ。


「よく頑張ったな」


「きてくれるって信じてましたにゃ」


「もう少し早く駆けつけるべきだった」


 彼女をぎゅっと抱きしめる。


 まさかゼンバーグがここまで愚かだったとは。


「グレン様、ゼンバーグの部下は……」


「全員行動不能にしてある」


 オレは空を飛んでこの場所を目指し、ゼンバーグの手勢は全員エルフの男にしたように瞳を焼いて無力化。

 そして奴の背後に着地して殴ったわけだ。


「じきにシンラの部隊がこいつらを捕らえに来る。もう安心しろ」


「はいにゃ……」


 ニャルルが意識を失った。安心したのだろう。

 オレは彼女をそっと横たえ、ミュークルを含むエルフ使節団も解放する。


「グレンさん! にゃ、ニャルルさんは……」


「獣人は頑丈だ。ニャルルならば治療まで耐えられるだろう」


「ニャルルさん、敵を挑発して……きっと、わたしたちを庇ってくれたんです」


 ゼンバーグがバーンズの弟であることも、あいつと同じく差別主義者であることも報告で知っていた。

 ニャルルはエルフ使節団に矛先が向かぬよう、敢えて挑発したのかもしれない。


 奴の暴力が自分にだけ向くように。


「……そうか。あとで褒美をやらんとな」


「きっと喜びます」


「お前たちも、怖い思いをさせてすまない」


「ふふ、わたしたちもグレンさんを信じてましたから」


 ミュークルの言葉に他のエルフたちも頷いた。

 縛られたあとを除けば、彼女たちはほとんど無傷だった。


「この者たちはどうなるのでしょう?」


「正式な使節団と我が配下を人質にとったのだ。ただではすまんだろうな。こんな奴でも十二魔将、裁きは魔王様が下す」


 オレは急ぎ駆けつけてきたシンラの部隊にあとは任せると、コキューリアの戦場へ向かうことにした。


「ミュークル、今回の件だが、何か詫びをさせてくれ」


「ふふ。ではグレンさんの領地の森を、一緒に歩きたいです」


「森?」


「エルフですので」


 自然の中が好き、というわけか。


「約束しよう」


「グレンさん」


 ミュークルがオレの手を握った。

 彼女の魔力を感じる。


「グレンさんの意思で、一度だけ結界を張れる魔法を施しました。ただ、守れるのは精々が二人です。過信はしないでください」


 エルフは中立。

 戦いのサポートをするのだって、本来は許されないこと。


 それを分かっていて、彼女はグレンに手を貸した。

 その気持ちが胸を熱くする。


「……感謝する」


「デートの為ですからー」


 冗談っぽく笑う彼女にこちらもふっと微笑み、今度こそオレはコキューリアの元へ飛ぶ。





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