表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者だけでなく名前まで妹に譲れと言われたので、家系図から私を消しました ~私を忘れた王宮は、私が結んだ祝福まで失う~  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/52

第039話 王位継承再審査

 ユリウス殿下の王太子位再審査は、王宮内に大きな波紋を呼んだ。


 貴族の一部は、これを弱さと見た。


「王太子が自ら適性を疑うなど前代未聞」

「名簿院に操られている」

「平民の拍手で王権を曲げるつもりか」


 そんな声が社交界に流れた。


 一方で、北門守備隊や下町の人々からは、意外な支持もあった。


「自分の失敗を記録に出す王族なら、前より信用できる」

「少なくとも、名前を器だと言ったままの王太子よりまし」

「宿題をやる殿下なら見込みがある」


 最後の評判は、少し妙だった。


 再審査には、王族の一人であるセレスティア王女も出席した。


 彼女はユリウス殿下の妹で、これまで病弱な王の補佐として地方行政を担当していた。王都ではあまり目立たないが、地方の名簿整備に詳しいという。


 初めて会ったセレスティア王女は、栗色の髪を短くまとめ、飾りの少ない服を着ていた。


「あなたがリネアね」


 彼女は名簿院の廊下でそう言った。


「はい。名簿院職員リネアです」


「兄が迷惑をかけたわね」


 あまりに率直で、言葉に詰まった。


「王女殿下」


「セレスティアで構わないわ。少なくとも名簿院の中では。肩書きが多いと書類が長くなるもの」


 マルタが小声で「分かる」と言った。


 セレスティア王女は、王位継承再審査で共同継承補佐案を出した。


 ユリウス殿下をただ廃嫡するのではなく、一定期間、王太子権限を制限し、セレスティア王女と王妃、名簿院監査のもとで政策を行う。名簿関連の王命には、本人同意条項の確認を必須とする。再教育期間を経て、王位継承順位を再判断する。


 厳しいが、現実的な案だった。


 審査会で、ユリウス殿下はそれを受け入れた。


「私は王太子の名に隠れて、自分の判断の未熟さを見なかった。制限を受け入れる」


 セレスティア王女は兄を見た。


「兄上。これは罰であると同時に、機会です」


「分かっている」


「分かっているかどうかも、今後の記録で確認します」


 さすが兄妹というべきか、遠慮がなかった。


 名簿院側の意見を求められ、ノア様が答えた。


「王太子個人の反省は記録しました。しかし、制度上の制限がなければ、同じ過ちは再発します。共同継承補佐案を支持します」


 わたしも補足意見を述べた。


「名簿関連の王命には、対象者本人への通知と異議申し立て期間を設けるべきです。緊急時は仮処理できますが、後日必ず再確認する仕組みが必要です」


 貴族の一人が鼻で笑った。


「王命に異議申し立てとは」


 セレスティア王女が即座に返した。


「王命で名前を消されたら、あなたは異議を申し立てないのですか」


 貴族は黙った。


 強い。


 王女は、兄とは違う形で王族だった。


 再審査の結果、ユリウス殿下は王太子位を維持するが、名簿・婚姻・相続に関する単独決裁権を停止された。セレスティア王女が共同継承補佐となり、名簿院監査が入る。


 王太子としては大きな制限だ。


 けれど、王国にとっては必要な一歩だった。


 審査後、ユリウス殿下はリリアの自署名教室を見学した。


 子どもたちは最初、彼を王太子と知って固まった。けれど、トマが率先して言った。


「じゃあ、ユリウスさんも名前書いて」


 護衛が慌てたが、ユリウス殿下は頷いた。


「書こう」


 彼は大きな紙に自分の個人名を書いた。


 ユリウス。


 王太子としての長い名ではなく、短い名。


 トマが覗き込む。


「字、うまいな」


「練習したからな」


「王太子でも練習するのか」


「足りなかったから、今している」


 その答えに、トマは真剣に頷いた。


「じゃあ、俺も練習する」


 リリアはその様子を少し離れて見ていた。


 彼女の表情は柔らかかったが、以前のような憧れではない。相手を見極める目だった。


 ユリウス殿下が彼女のところへ来る。


「リリア。今日は邪魔をしなかっただろうか」


「少し、子どもたちが緊張しました」


「すまない」


「でも、名前を書いたのは良かったと思います」


「また来てもいいか」


 リリアはすぐには答えなかった。


「教室の予定表を見て、正式に申し込んでください」


 ユリウス殿下は一瞬固まり、それから頷いた。


「分かった」


 わたしはそれを見て、心の中で少し笑った。


 王太子であっても、教室の予定表には従う。


 それは、とてもよいことだと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ