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プロローグ


 人生には、いくつか「いやそれ、もっと前に説明してくれよ」と言いたくなる局面がある。


 たとえば、学校帰りの夕方、商店街の外れにある潰れたゲームセンターの前で、自分のことを魔王だと名乗る黒フードの男に進路相談みたいなノリで声をかけられる瞬間なんかがそれだ。


 いや、瞬間っていうか、最初はただの不審者だった。完全にそうだった。百歩譲って占い師とか宗教の勧誘とか、そういう人たちの親戚筋にいそうな雰囲気ならまだわかる。黒い。長い。深い。全身ほぼ闇。顔なんか見えない。足音もほとんどしない。夏でもないのに妙に周囲の空気がぬるく、街灯が一つ切れかけていて、その明滅するオレンジ色の下に立っている姿がちょっと絵になっているのが、余計に腹立たしかった。


 絵になってる不審者って何なんだよ。


 しかもそいつ、俺が目の前を通り過ぎようとしたところで、ごく自然に、ほんとうに近所のコンビニの場所でも尋ねるみたいな口調で言ったのだ。


「おい、そこの少年。願いはあるか」


 この時点で、逃げるのが正解だったと思う。


 ところが、その日は朝から妙にツイていなかった。数学の小テストは見たことのない平均点の高さに対して俺の点数だけが孤立無援の低空飛行をかまし、体育ではドッジボールのボールを避けた拍子に変な転び方をして膝を打ち、購買で最後のカレーパンを取り逃がしたあげく、帰りのホームルームでは担任に「風上、お前、聞いてる顔だけは真面目だな」と、褒めてるのか諦めてるのか微妙すぎる評価を受けて終わった。


 人というのは疲れていると、普段なら選ばない会話のルートにふらっと入ってしまう。


 それで俺は、足を止めた。


「あるっちゃありますけど、そういうのって普通はアンケート用紙とか出しません?」


「紙は嫌いだ。燃えてしまう」


「知るかよ」


 黒フードの男は、ふっと肩を揺らした。どうやら笑ったらしいが、顔は見えない。


「お前、退屈しているだろう」


「急に失礼だな」


「そして現状に満足していない」


「いきなり核心っぽいこと言うのやめてください。占いサイトの広告みたいで怖いんで」


「もっと大きい場所へ行きたいと思っている」


「広告の精度上がったな」


「平凡なまま終わるのは惜しいとも思っている」


「やめろ。俺の思春期に土足で入るな」


 口ではそう返したものの、胸のあたりが嫌な感じでざわついたのは事実だった。そりゃそうだ。高校生なんて、たいてい自分の今いる場所を狭いと感じる生き物だし、何者かになりたいけど何者でもない時間を、半端に長く抱えたまま歩いている。俺だって例外じゃない。体育館の裏で煙草を吸う勇気もなければ、バンドを組む技術もない。生徒会長になるほど真面目でもなければ、文化祭で主役を張るほど華もない。教室の窓から外を眺めながら、もっと何か別のコースがあったんじゃないかと思うくらいのことは、誰にだってある。


 そのあたりを、初対面の不審者にまるで前から知っていたみたいに言い当てられるのは、率直に言って気分が悪かった。


「で、何ですか。新手のスカウトですか。壺とか買わされる感じですか。残念ながら俺、月のお小遣いに対して欲望が多すぎるタイプなんで、出資には向いてません」


「金ではない」


「じゃあ余計に怖いんですけど」


「私はお前に、ひとつ取引を持ちかけに来た」


「うわ、単語の選び方がもう反社」


「お前の望みを叶える」


「もっと危ないな」


 男は一歩だけ前へ出た。距離としては大したことがないはずなのに、なぜか街の音が遠くなった。さっきまで向こうの通りを走っていた原付のエンジン音も、商店街のスピーカーから流れていた夕方の閉店案内も、薄い膜を一枚挟んだみたいに鈍って聞こえる。俺はそのとき、ようやく「不審者」と一言で片づけるには説明のつかないものを感じた。


 怖い。


 この感覚を言い換えるなら、それが一番早い。


 けれど、全力で逃げ出したほうがいいと頭が警報を鳴らしているわりに、体のどこかが妙に冷静で、会話の続きを待ってもいた。どうやら好奇心というのは、たまに危機管理能力を背後から殴って気絶させる能力をお持ちのようだ。


「望みを叶えるって、何でもですか」


「おおむね」


「その“おおむね”に命とか魂とか常識とか、そういう大事なものが巻き込まれる仕様では」


「巻き込まれることもある」


「正直すぎるだろ」


「私は嘘が嫌いだ」


「今のところ一番信用ならない情報だな、それ」


 男はもう一度笑ったらしかった。街灯の下に溜まった影が、風もないのにかすかに揺れた。あれを見て引き返さなかった俺も悪いし、そもそもこの日は厄日だったのだと思う。


「聞こう。お前の望みは何だ」


「何だって言われてもな……」


 そう返しながら、俺の頭に真っ先に浮かんだ顔があった。


 倉岡七海。


 同じ学校の二年で、学年もクラスも違うくせに名前だけなら先生より有名なんじゃないかと思うくらい知られている、いわゆる学園のアイドルである。


 アイドルといっても別に芸能活動をしているわけじゃない。校内に後光でも差してるのかってくらい、どこへ行っても人の視線を集める、あの手の存在だ。朝の昇降口で「おはよう」と言えば、そのひと言だけで男子数名が今日一日を生きる気力を取り戻し、女子からも普通に好かれているという、もはやバランス調整を放棄したみたいなステータスをしている。


 俺との接点は、ゼロではない。去年、図書委員の当番が一度だけ重なったことがある。そのとき貸し出しカウンターのハンコをうっかりインクごと床に落としてしまった俺に、彼女が笑いながら「大丈夫? それ、制服につくと取れにくいよ」とティッシュを差し出してくれた。


 ただそれだけだ。


 それだけなのに、その一場面だけが妙に丁寧に脳内保存されていて、時々勝手に再生されるから困っていた。人の記憶力は本来もっと試験勉強とかに振り分けられるべきだと思うんだが、俺の脳みそはどうもそういう構造に出来上がっていないらしい。


 黒フードの男は沈黙したまま俺の返答を待っていた。いや、待っていたというより、最初から俺が何を言うのか見えているみたいな空気があった。


 こういう相手には、逆にふざけるのが一番いい。


「じゃあ、あれですよ。倉岡七海と付き合えるようにしてくださいよ」


 言ってから、我ながら雑だなと思った。もう少し盛れよ俺。テストの点数を上げるとか、宝くじを当てるとか、現実的な方向でいくらでもあっただろうに、口から出たのは高校生男子としてあまりにもわかりやすい願望だった。


 男は即答した。


「容易い」


「軽っ」


「その女を、お前のものにすればいいのだな」


「言い方が物騒なんですよ」


「では、お前をその女のものにする」


「日本語としてはきれいになったけど怖さは増したな」


「本質は同じだ」


「同じにするな。ぜんぜん違う」


 このへんで、俺は少しだけ楽しくなっていた。というのも、相手が不審者にしては受け答えに妙なキレがあるうえ、こちらのツッコミにいちいち反応してくるからだ。会話のテンポが成立してしまうと、人は警戒を緩める。詐欺師の才能って、たぶんこういうところにあるんだろうな。


「まあ、冗談ですけどね」


「冗談ではないだろう」


「いやまあ、願望としてはありますよ。そりゃあります。ありますけど、いきなりどうこうなるわけないっていう現実くらい俺も知ってます」


「現実を動かせばよい」


「それができたら苦労しないんだよ」


「ならば、私が動かそう」


 男の声が、少し低くなった。


 その響きに、さっきまでの軽口とは別のものが混じっていた。笑って済ませていた空気が、急に、冗談に付き合っているのはこちらのほうだったのではないかと思わせる濃さを帯びる。


 まずい。


 そう思った。


 思ったのに、口が先に動いた。


「できるもんなら、やってみてくださいよ」


 若さってすごいよな。たぶん今の俺を後ろから殴ってでも止めるべきだった。


 男は、フードの奥で何かを見開いたような気配を見せたあと、ごく静かに右手を持ち上げた。長い袖口の先から現れた指は人間のものに見えるのに、皮膚の色が妙に白く、爪だけが不自然に黒い。その指先が、空中に一文字を書くみたいに動いた。


 たったそれだけだった。


 光も煙も雷も出なかった。ファンタジーものによくある大掛かりな演出は何ひとつなかった。


 なのに、周囲の空気がひやりと冷えて、俺の耳の奥でガラスを爪で引っかいたみたいな細い音が鳴った。


「おい待て、今なに」


「願いを叶えた」


「早すぎるだろ。確認画面とかないのか」


「不要だ」


「サブスク解約より雑じゃねえか」


 男は手を下ろし、何でもないことのように言った。


「明日、結果が出る」


「結果って何の」


「お前の願いの結果だ」


「その説明で安心できると思うなよ」


 俺は反射的にスマホを取り出した。圏外ではない。時刻も普通。画面に映る俺の顔も、夕方の疲れがにじんだ平凡な男子高校生で、特に額に第三の目が開いているわけでもない。さっきの現象は何だったんだと問い詰めたかったが、相手はもう半歩ほど後ろへ退いていた。


「待ってください。いや待て。勝手に何かするな。そもそも俺、頼んでないからな、正式には」


「頼んだ」


「軽口だよ」


「願いとは、たいてい軽口の形で漏れる」


「名言っぽく言えば押し通せると思うな」


「では明日、お前は理解する」


「何を」


「取引の価値を」


 そう言い残して、男はすっと闇の中に紛れた。比喩ではなく、ほんとうに紛れた。街灯の切れかけた明かりが一度強くまたたいたと思ったら、そこにはもう誰もいなかった。足音もない。逃げ足ってレベルじゃない。ホラー映画なら観客がざわつく消え方だ。


 俺はしばらくその場に突っ立っていた。


 それからゆっくり振り返って、誰も見ていないことを確認し、両手で頭を抱えた。


「やばいやつに絡まれた……」


 この結論は正しい。正しかった。正しすぎて涙が出そうだった。


 家に帰ってからの俺は落ち着きがなかった。母親に「何その顔、補導でもされかけたの」と言われ、「されかけたっていうか、もうちょっとで異界に勧誘されるところだった」と本音を漏らしかけて、「いや、何でもない」とごまかした。夕飯の生姜焼きの味もいまいち頭に入らず、風呂に入っているあいだも、シャワーの音の向こうからあの男の低い声が聞こえてくるような気がして、二回くらい本気で振り返った。


 もちろん誰もいない。


 鏡に映った自分がいつも通りだったことに、安心半分、拍子抜け半分といったところだ。


 寝る前には、さすがに全部ただの悪質なイタズラだったんじゃないかと思い始めていた。疲れていたし、夕方の薄暗さと変な空気で、必要以上に不気味に感じただけかもしれない。願いを叶えたとか明日結果が出るとか、冷静に考えたら中二病の大人が限界までこじらせた発言でしかない。


 その理屈で自分を納得させて、布団に入った。


 寝つきは最悪だった。


 変な夢を見たせいだ。


 真っ暗な場所に立っている夢だった。地面も空もない。上下の感覚だけがあいまいに残っていて、目の前に巨大な扉みたいなものがある。扉は七つに割れていて、それぞれが遠く離れた場所へばらばらに飛んでいく。その中心に、黒い影がひとつ浮いていた。


 影は俺を見ていた。


 目なんかないはずなのに、見ているとわかった。


『忘れるな』


 そんな声がした。


『お前はまだ、契約書の一行目しか読んでいない』


 いや読むも何も、契約書なんか見せられてないんですけど、と夢の中でまでツッコんだあたり、自分でもだいぶ図太いと思う。


 朝、起きた瞬間から嫌な予感がした。


 何かが変だ、という曖昧な感覚ではない。もっと具体的な、空気が一ミリずれているような違和感。部屋のカーテンの隙間から差し込む光はいつも通り、スマホのアラームもいつも通り、母親の「遅刻するよー」という声もいつも通りだったのに、世界が朝っぱらからこちらに意味ありげな視線を向けてきているような、そういう気持ちの悪さがある。


 制服に着替え、朝食のトーストを雑にかじり、家を出て、駅までの道を歩いているあいだ、その違和感は薄れなかった。


 妙なことに、視線を感じる。


 誰か特定の一人に見られているというより、登校中の人混みの中で、何人かがこちらを見ているような、しかも見ていることを本人たちが隠していないような、そんな落ち着かなさがあった。寝ぐせでもすごいことになってるのかと思って前髪を触ったが普通だ。シャツのボタンもちゃんと留まっている。ズボンのチャックも無事だった。朝の男子高校生として最低限守るべきラインはクリアしている。


 なのに変だ。


 駅のホームで同じクラスの工藤に会ったとき、その違和感は一段と濃くなった。


「おはよ、風上」


「おはよ」


「……お前、何したの」


「挨拶のついでに事情聴取すんな」


「いや、なんか今朝、女子の間でお前の名前めっちゃ出てる」


「は?」


「隠し子でも発覚した?」


「どんな高校生だよ」


 工藤は肩をすくめた。こいつは朝から妙に目が冴えているタイプで、他人のトラブルに対する嗅覚だけは猟犬みたいに鋭い。


「二年の倉岡さんがさ」


 その名前を聞いた瞬間、昨日の黒フードが脳裏をよぎった。嫌な寒気が背筋をなでた。


「風上のこと探してるっぽい」


「……何で」


「知らん。ただ、何人かが『え、あの風上?』みたいな反応してた」


「あの、って何だよ。“あの”が付くほど何もないだろ俺には」


「それはそう」


「否定が速い」


「いや事実として」


「朝から刺してくるな」


 ホームに電車が滑り込んできた。いつも通りの混み具合。いつも通りの通学ラッシュ。けれど俺の心拍数だけが、ひとり別のスケジュールで上がっていく。まさか。そんなはずはない。いや、あるのか。あったら困る。困るどころじゃない。


 車内で工藤は面白がってあれこれ聞いてきたが、俺は「知らん」「何もしてない」「むしろこっちが聞きたい」の三択で押し通した。ほんとうに何もしていないのだから仕方がない。正確には、学校帰りに魔王を名乗る不審者へうっかり恋愛相談をしたくらいだが、それを口に出したらたぶん別の意味で注目を集める。


 校門をくぐったあたりで、空気がはっきりおかしくなった。


 人がいる。


 女子が多い。


 しかも、何かを待っている気配がある。


「……工藤」


「うん」


「帰っていいかな俺」


「ここまで来て?」


「来たことにしてくれない?」


「無理だろ」


 視線が集まる。


 ざわつきが広がる。


 俺は自分の胸の内側で、昨日の男がケラケラ笑っている幻聴を聞いた気がした。頼むから気のせいであってくれ。


 昇降口へ向かう途中、前方の人垣がさっと割れた。映画のワンシーンみたいに、ほんとうにきれいに左右へ分かれたものだから、俺はその中央に立っていた人物を嫌でも見つけた。


 倉岡七海だった。


 朝の光の中で見ると、いつも以上に絵面が強い。肩までの髪はきちんと整っていて、制服の着こなしも派手ではないのに目を引く。笑っていなくても柔らかい印象の顔立ちで、なのに今は、その整った顔に妙な熱っぽさが差していた。


 それが、俺を見ていた。


 いや、見ているというより、見つけた、に近い。


「風上くん」


 名前を呼ばれた。


 周囲がどよめいた。


 俺はその場で内心ぜんぶ終わったと思った。


「あ、え、はい」


 返事が情けない。小学校の点呼よりひどい。


 倉岡さんは、まっすぐこちらへ歩いてきた。逃げたほうがいい。そう判断したのに、足が床に貼りついたみたいに動かない。視線が集まりすぎていて、今ここで全力ダッシュしたら別の伝説になる予感がした。


 彼女は俺の目の前まで来ると、一度だけ息を吸って、それからひどく真剣な顔で言った。


「会いたかった」


 そのひと言で、俺の脳が軽くショートした。


 いや、会ったことあるけど。図書委員で一回。会話もしたけど。けれど、その“会いたかった”はそういう意味ではない。明らかに違う温度だ。周囲から漏れる悲鳴まじりのざわめきが、その現実味をいやでも補強してくる。


「えっと、何か用でしょうか」


 この返しに高校生男子としての情けなさが凝縮されている気がするが、背に腹は代えられない。ここで調子に乗るほど俺は命知らずではない。むしろ命が惜しい。


 倉岡さんは、信じられないほど近い距離まで顔を寄せてきた。


「昨日からずっと、風上くんのことしか考えられなくて」


 やめろ。


 心の中で即座に叫んだ。やめろというのは俺に対してでもあり、世界に対してでもあり、昨日の黒フードに対してでもあった。


「何してるのかな、とか、ちゃんとご飯食べたかな、とか、今日会えなかったらどうしよう、とか」


 やめてくれ。


「自分でも変だってわかってるのに、止まらなくて」


 やめてくれ頼むから。


 こんなの、嬉しいとかそういう次元じゃない。恐ろしい。明らかに何かがおかしい。俺みたいな凡人がいきなり校内トップクラスの有名人からこんな熱量を向けられて、冷静に「モテ期だ」と解釈できるほど幸せな頭はしていない。


 周りもざわつきを越えて、もはや事件現場の空気になっていた。工藤なんか、少し離れたところで「うわあ」と「マジか」を交互に口の形だけで繰り返している。助けろよ友達だろお前。


 俺は必死で笑顔を作った。顔が引きつっていた自信はある。


「いやあ、その、俺たぶん何か誤解されてるというか」


「誤解じゃないよ」


「いや、たぶん誤解です。かなり大きめの」


「違う」


 否定が強い。


 しかも目が本気だ。


「わたし、風上くんのこと、欲しい」


 昇降口の空気が、物理的に止まった気がした。


 靴箱の前で誰かが上履きを落とした音だけが、やけに遠くで響いた。


 欲しいって何だよ。


 いや意味はわかる。わかるけど、その単語をこのタイミングでこの場所で出すな。校内だぞ。公教育の場だぞ。そこはもう少しオブラートという文明の利器を使ってくれ。


 俺が硬直しているあいだに、倉岡さんは俺の手首をつかんだ。細い指なのに、驚くほど力が入っている。熱い。熱っぽい。額が少し汗ばんでいるようにも見える。


「ちょ、倉岡さん、落ち着いて」


「落ち着けない」


「それは見ればわかるけど!」


「風上くんがいないと、苦しい」


「それ俺の責任じゃないから!」


 たぶんこの一連の台詞、後から思い出したら一週間は布団の中で転げ回れると思う。そういうレベルで現実感がない。教室の窓から誰かがこっちを見ていた。二階の廊下にも人影が増えている。観客が増えていく。最悪だ。ほんとうに最悪だ。


 倉岡さんは今にも泣きそうな、笑いそうな、熱に浮かされたような顔で俺を見上げた。


「お願い、逃げないで」


「逃げるとかそういう話じゃなくてですね」


「ずっと一緒にいてほしい」


「要求が急に生涯設計なんよ」


「今すぐ」


「今すぐ!?」


 語尾が裏返った。


 それをきっかけに、俺の中で昨日の黒フードの言葉が、悪意たっぷりにきれいにつながった。


 その女を、お前のものにすればいい。


 では、お前をその女のものにする。


 あの野郎。


 やりやがった。


 理解した瞬間、背筋を冷たいものが走った。これ、恋愛成就でも何でもない。好意を増幅したとか、そういう甘い話じゃない。人ひとりの感情をねじ曲げて、無理やりこちらへ向けている。願いを叶えるってそういう意味か。倫理観をゴミ箱に捨てれば、そりゃ最短距離ではある。


「すみません、ちょっと失礼!」


 俺は勢いのまま手首を振りほどいた。強引にではなく両手で包むみたいに外して、そのまま一歩下がる。ここで乱暴に振り払ったら、周囲の視線的にも人間性的にも終わる。


「風上くん?」


「ごめん、ほんとごめん、ちょっと体調悪くて!」


「大丈夫!? 保健室行こう、一緒に行く」


「その親切心が今いちばん危ない!」


 叫びながら俺は駆けた。昇降口を抜け、廊下へ入り、そのまま階段を上がる。どこへ向かうのか自分でもわからない。とにかく人目から離れたい一心だった。後ろから複数の足音が聞こえる。倉岡さん本人のものか、野次馬のものか、その両方か。確認する余裕なんてなかった。


 頭の中にあるのはひとつだけだ。


 あの黒フードを探す。


 解除させる。


 今すぐ。


 でないと取り返しがつかない。


 屋上の手前まで来たところで、巡回の教師に見つかりそうになり、慌てて資料室の陰へ滑り込んだ。息が切れる。心臓がうるさい。自販機の前にしゃがみ込みたい衝動をこらえながら、震える手でスマホを取り出した。


 電話帳を開いて、閉じた。


 誰にかける。警察か。何て言う。「昨日、魔王を名乗る男が恋愛魔法をかけました」か。精神科を紹介される未来しか見えない。


 じゃあ倉岡さん本人にメッセージを送って、少し距離を取ってくれと頼むか。いや、それで収まる相手なら今の状態になっていない。というか、彼女だって被害者だ。異常なのは明白で、本人の意思だけではどうにもならない可能性が高い。


 俺は壁にもたれ、額を押さえた。


「最悪だ……」


 口にした途端、自分の足元の影がふっと濃くなった。


 心臓が嫌な跳ね方をした。


「理解したか」


 その声に、俺は声もなく振り向いた。


 黒フードの男がいた。


 何でもない校舎の廊下だ。窓から午前の光が差して、ワックスがけされた床が白く光っている。その現実のど真ん中に、こいつだけが場違いな闇として立っていた。


「おま、お前……!」


「願いは叶えた」


「叶え方が終わってんだよ!」


「不満か」


「不満しかねえよ! 何だあれ! あんなの恋愛じゃねえだろ、ただの強制だろ!」


「強い感情を引き出しただけだ」


「言い換えで軽くするな! 完全に事故起きてるからな!?」


 男は少し首を傾げた。ほんとうに、心から不思議そうに。


「お前はその女を望んだ」


「そんな方法は望んでない!」


「方法まで指定しなかった」


「契約書の小さい字で逃げるタイプかお前は!」


 怒鳴っている自分の声が、空っぽの廊下へ反響する。なのに、誰も来ない。誰も気づかない。まるでこの一角だけ薄い膜で切り離されているみたいだった。


 男は淡々と言った。


「解除は可能だ」


「じゃあ今すぐしろ!」


「取引に応じるならな」


 そのひと言で、空気が固まった。


 最初からこれが目的だったのだと、遅すぎるタイミングで理解した。昨日の願いを叶えたのも、善意でも気まぐれでもない。俺を追い込むためだ。断れない状況を作るために、いちばん効くカードを選んで切っただけだ。


「……何をさせる気だ」


「簡単なことだ」


「お前が“簡単”って言うとき、絶対ろくでもないやつだろ」


「お前の魂を、ある世界へ送る」


「はいアウト」


「そこで私の肉体を取り戻すための道を開け」


「もっとアウト」


 男は一歩近づいた。その気配だけで、背中が壁に縫いつけられたみたいに動かなくなる。目は見えない。見えないのに、フードの奥からこちらを見下ろす視線が、氷みたいに冷たくて重い。


「私の肉体は千年前、勇者どもによって八つ裂きにされた」


「情報がいきなり物騒すぎる」


「それぞれ七つの大陸に分けて封じられている」


「世界観の規模がでかい」


「神殿を守る大神官たちを排除し、封印を解け」


「高校生に頼む仕事じゃないんだよ!」


 俺は思わず叫んだ。叫ぶしかないだろそんなの。部活の助っ人でも重いのに、異世界で神殿攻略しろは荷重設定を見直せ。


「安心しろ」


「その前置きで安心したこと一回もない」


「お前は弱いまま送り込まれるわけではない」


「じゃあ何。剣とか魔法とか、そういうテンプレ特典がつくのか」


「私の血を引く器に入る」


「器」


「間もなく産まれる、私の子孫の肉体だ」


「家系図のスケールが怖い」


「その器は、私の魔力に耐えるために用意された」


 男の声は変わらず静かだった。その静かさのまま言葉の中身だけが常識外れだから、余計に頭が追いつかない。


「本来なら、私自身の魂が入るはずだった」


「じゃあお前が入ればいいだろ」


「入れぬ」


「そこ一番大事なやつだろ」


「封印された肉体は、私の魂を拒むよう細工されている。憎き連中らしい小賢しさだ」


「説明に私怨がにじんでるな」


「ゆえに必要なのだ。異物でありながら、強い魂を」


「そこで何で俺なんだよ」


「見込みがある」


「どこに」


「壊れにくい」


「褒められてる気がしない」


「そして、欲を持っている」


「そっちで選抜したの!?」


 男はうっすらと笑った気配を見せた。


「欲を持たぬ者は、あの世界で進めぬ」


「進みたくないんですけど俺は」


「それでも進む」


「強制ログインかよ」


 廊下の向こうから、誰かの声が微かに聞こえた。倉岡さんだ。俺の名前を呼んでいる。胸がぎゅっと縮む。今この状況でいちばんしんどいのは、あの子自身だ。意味もわからない衝動に振り回されて、周囲の目に晒されて、それでも止まれなくなっている。


「先に解除しろ」


 俺は低く言った。


「話はそれからだ」


「応じると誓え」


「順番が逆だろ」


「こちらにとっては正しい」


「知るか」


「では、その女はこのまま歪み続ける」


 喉の奥がひやりとした。


「歪む、って何だよ」


「感情は、過剰になれば形を失う。執着はやがて依存へ変わり、依存は恐怖や嫉妬を呼ぶ。お前が離れれば壊れ、お前が近づけばもっと壊れる」


「やめろ」


「今日一日でもかなり進むぞ」


「やめろって言ってんだろ」


「お前が断れば、明日にはお前以外のものを全部どうでもよく思うかもしれん。家族も、友人も、未来も」


 冗談ではないと、その声色が告げていた。


 俺の頭の中で何かが熱くなって、すぐに冷えた。怒りなのか恐怖なのか、自分でもわからない。ただ、ひとつだけ確かなのは、こいつはできるということだ。昨日の段階で俺はそれを甘く見ていた?結果が今だ。


「……解除したら、元に戻るのか」


「すぐには戻らぬ」


「は?」


「一度歪めた感情の痕跡は残る。記憶も残る」


「最悪じゃねえか!」


「完全な巻き戻しは望むな。私はそこまで親切ではない」


 膝が笑いそうになった。


 何なんだこいつは。魔王を名乗るだけあって、発想の根元に救いがない。ゲームの悪役でももう少し段階を踏む。チュートリアルでヒロインの感情ぶっ壊すやつがあるか。


「……俺が従えば、これ以上はしないんだな」


「契約に従う限りは」


「その“限り”が信用ならねえんだよ」


「信用せずともよい。必要なのは合意だ」


 廊下の向こうで、俺の名前を呼ぶ声が近づいてくる。時間がない。頭の中で警報が鳴る。逃げろと叫ぶ本能と、逃げたらもっと取り返しがつかなくなるという理性が、ものすごい勢いで取っ組み合いを始めた。


 嫌に決まっている。異世界だの魔王の肉体だの神殿攻略だの、そんなものに巻き込まれたい高校生がどこにいる。俺は放課後にコンビニ寄って、たまに友達とだらだら喋って、テスト前だけ後悔する程度の人生を送っていたかった。大事件は漫画かゲームの中だけで足りる。


 けれど。


 今ここで首を縦に振らなければ、倉岡七海の人生が壊れる。


 その現実だけが、どうしようもなく重かった。


「……条件がある」


 自分でも驚くほど、声はかすれていなかった。


「ほう」


「まず、倉岡さんへの影響を最小限にしろ。今すぐ完全には戻せなくても、これ以上壊すな」


「善処しよう」


「善処じゃねえ。やれ」


「命令する立場か」


「お前、俺に取引持ちかけてんだろ。なら交渉くらいさせろ」


 男は少し黙った。その沈黙の数秒が妙に長く感じられる。


「よかろう。進行は止める」


「進行って言い方」


「現状維持だ。お前が契約を果たす限り、これ以上の歪みは加えぬ」


 最低ライン。最低ラインすぎる。けれど、今はそれでも掴むしかない。


「あと、俺の家族には手を出すな」


「お前の世界のものに対する管理権はこちらにある」


「怖い単語しか使うなよ」


「だが、優先順位は低い」


 だが、を使いやがったのはこいつであって俺じゃない。そんなことに内心で突っ込めるくらいには、まだ頭が回っているらしい。


「低いじゃなくて、なしにしろ」


「結果次第だ」


「クソッ」


「交渉は終わりか」


 終わるわけがない。言いたいことなんか山ほどある。そもそも何で俺なんだとか、器って何だとか、子孫ってことはお前結婚してたのかとか、世界をまたぐ手段あるならもっと平和利用できるだろとか、いろいろだ。


 けれど、足音はもうすぐそこだった。


「風上くん……?」


 声がした。


 廊下の角の向こう。倉岡さんが来る。


 俺は黒フードの男を睨んだ。睨んだところでこいつが怯むとは思っていない。ただ、ここで目を逸らしたら何かが終わる気がした。


「……わかった」


 喉が痛い。


「取引に、応じる」


 そのひと言を口にした瞬間、空気の重さが変わった。


 見えない何かが、ぱちりと閉じた気配がした。契約成立、みたいな、そんな軽い音ではない。もっと嫌な、逃げ道のない鍵が内側から掛かるような感覚だった。


 黒フードの男は、満足げに低く笑った。


「よい」


「ただし」


「まだあるか」


「あとで絶対ぶん殴る」


「楽しみにしておこう」


 全然効いてない返しだった。腹が立つ。


 男の輪郭が薄れていく。校舎の明るい空気に溶けるのではなく、別の暗がりへ引っ張られるみたいに消えていく。


「今夜、迎えに来る」


「宅配便みたいに言うな」


「覚悟しておけ、風上瞬太」


「したくてする覚悟があるかよ」


 黒フードは最後まで答えず、完全に姿を消した。


 すぐあとで、廊下の角から倉岡さんが顔を出した。息を切らしている。頬が赤い。俺を見つけた瞬間、ほんの少しだけ安堵したように目を細めた。


 その表情が痛かった。


「よかった……いた」


「あ、うん」


 さっきまでの異様な熱は、ほんの少し薄れているように見えた。男の言った「進行は止める」が本当なら、これ以上ひどくはならないのかもしれない。信じたくはないが、今はそれを信じるしかない。


「ごめんね、急に追いかけたりして」


 その謝罪に、胸の奥がずきっとした。


 あなたは悪くない。


 そう言いたかった。けれど、言えば全部吐いてしまいそうで、俺は変な笑顔を作ることしかできなかった。


「いや、こっちこそ、ごめん。ちょっとびっくりして」


「……うん」


 彼女は自分の手を見つめ、少し困ったように眉を寄せた。


「わたし、自分でも変なの。頭では落ち着かなきゃって思ってるのに、風上くんのこと考えると、すぐ苦しくなって」


 やめてくれ。その説明がいちいち生々しくて心に刺さる。


「少し、距離置いたほうがいいかもな」


 俺は慎重に言った。


「そのほうが、お互い落ち着くと思うし」


「……そうだね」


 彼女は頷いた。頷いてから、少しだけ寂しそうに笑った。


「でも、たぶん、すぐ会いたくなる」


「そこは気合で耐えてください」


 思わずそう返すと、彼女は小さく吹き出した。いつもの倉岡七海らしい、ごく普通の笑い方だった。それを見て、余計に昨日の俺の軽口ひとつでどれだけひどいことが起きたのか思い知らされる。


「風上くんって、面白いね」


「今のところ面白い目にしか遭ってないけどな」


「ふふ」


 その笑いが少しでも自然に戻ったことに、俺は安堵していいのか罪悪感を深めるべきなのか、判断がつかなかった。


 その日の授業は何も頭に入らなかった。


 教科書を開いても字面が滑る。先生に当てられても反射でどうにかする。昼休みには工藤に囲まれ、「説明しろ」「何があった」「昨日の夜に何した」と尋問されたが、「俺が一番知りたい」としか返せなかった。完全に本音である。


 放課後になるころには、倉岡さんの様子も少し落ち着いたらしいという噂が流れ始めていた。朝の一件は当然ながら爆速で校内に広まり、俺の机に何人かがわざわざ様子を見に来るという、望んでもいない有名税が発生した。たぶん俺の高校生活で、今日以上に注目を浴びる日は今後そうそうない。あってほしくもない。


 帰り道、商店街のあの場所をわざと避けて遠回りした。意味がないとわかっていても、そうしたかった。家に着いて、母親に「今日は妙に静かね」と言われ、「人生について考えてた」と返したら、「テスト前?」と聞かれた。そこは平和だった。平和なのに、俺の中だけが夜を待っていた。


 迎えに来る。


 あの男はそう言った。


 冗談で済めばいい。幻覚でも夢でもいい。そう願いながら夕飯を飲み込み、風呂に入り、部屋に戻った。時計の針が進むたびに、胃のあたりが重くなる。


 十一時を回ったころ、部屋の隅の影が、ゆっくりと揺れた。


 窓は閉まっている。


 カーテンも動いていない。


 それでも影だけが水面みたいに波打って、じわじわと広がっていく。


「……マジかよ」


 その呟きを最後に、俺の部屋から音が消えた。


 エアコンの送風音も、遠くを走る車の気配も、階下で母親が見ているテレビの微かな笑い声も、全部。


 静寂の中心で、黒いものが立ち上がる。


 フードを被った男が、闇の底から這い上がるみたいに姿を現し、いつもの低い声で言った。


「時間だ」


 俺はベッドの上で膝を抱えたまま、人生最大級に嫌な顔をした自信がある。


「キャンセル料って高いですか」


「支払いは済んでいる」


「何でだよ」


「お前の軽率さでな」


 うるさい。ほんとうにその通りだからうるさい。


 男は長い袖の下から手を差し出した。その手の向こうにある影は、床の上に落ちたただの暗がりではなく、どこか別の場所へ口を開けているように見える。底がない。深さの感覚だけが狂っている。


「来い」


「来たくねえ」


「知っている」


「知ってるならもっと配慮しろよ」


「配慮している。お前の肉体はこの世界に残す」


「さらっと怖いこと言ったな」


「壊れぬよう保管もする」


「荷物みたいに扱うな」


 俺は笑いそうになった。笑うしかなかった。


 怖い。


 たぶん、これが本音のど真ん中だ。


 学校帰りに変な男へ絡まれたと思ったら、翌日にはクラスメイトどころか学校中の注目を浴びる騒ぎが起きて、その元凶と再会したら異世界へ行けと言われ、拒否権は実質なく、今から魂だけ送り出されるらしい。これで平静でいられるやつは、精神構造がすでに人間を卒業している。


 それでも、行くしかない。


 倉岡七海の顔が浮かぶ。


 朝の、あの困ったような笑い方が浮かぶ。


 軽口ひとつで誰かの人生を壊しかけた責任を、見なかったことにはできない。


 俺は深く息を吸った。吸ったところで勇気なんか湧かない。心臓はうるさいままだし、手のひらもじっとり汗ばんでいる。けれど、立ち上がるくらいはできる。


「ひとつだけ聞く」


「何だ」


「向こうで俺が死んだら?」


「そのときはそこで終わりだ」


「フォローが雑!」


「安心しろ。簡単には死なぬ器だ」


「精神的安心材料になってないんだよ」


 俺はベッドから降り、床に広がる影の手前まで歩いた。近づくほど空気が冷たくなる。深夜の部屋のはずなのに、冬の屋外みたいな冷え方だ。影の表面が液体のように揺れている。


「ほんとに戻ってこられるんだろうな」


「契約を果たせばな」


「その言い方やめろ。信用できない」


「お前は信用しなくてよい。生き延びることだけ考えろ」


 その台詞だけ、少しだけまともに聞こえた。


 まともに聞こえてしまったのが癪だった。


 俺は差し出された手を見た。取れば、たぶん本当に終わる。いや、始まるのか。どっちにしても、元の生活と同じ地平には戻れない。


 指先が震える。


「……あとで絶対、文句言うからな」


「いくらでも聞いてやる」


「クレーム窓口が本人なの最悪だな」


 そう言って、俺は黒フードの手を取った。


 皮膚に触れた感覚は、人間の手の温度ではなかった。冷たいわけじゃない。熱いわけでもない。触れた途端、自分の体温がどこかへ引き抜かれていくみたいな、不自然な無機質さだけがあった。


 視界がゆがむ。


 床が消える。


 部屋の輪郭が、紙を水に落としたみたいに溶けていく。


「ちょ、おい、これ酔う、酔うって!」


「すぐ慣れる」


「慣れたくねえ!」


 叫んだはずの声が、途中から自分の耳に届かなかった。


 暗闇が口を開ける。


 落ちる感覚ではない。もっと、世界そのものからつまみ上げられて、どこか別の箱へ放り込まれる感じだ。手足の感覚がばらばらになって、頭の内側に無数の鐘が鳴る。


 遠ざかる意識の中で、黒フードの男の声だけが、妙にはっきり聞こえた。


「ようこそ、風上瞬太」


 その声は歓迎というより、獲物を檻へ入れた管理人の調子に近かった。


「世界の裏側へ」


 そこで俺の意識は、完全に途切れた。


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