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実は、邪神でした。  作者: 夕陽 八雲


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第2話 邪神の生まれ変わり

 ―—15年前。


 栄華を極める王都。その外れにある、ならず者の巣窟となっていた場所にとある宗教団体があった。

 その宗教団体は【邪神】を祭り、邪神の復活とともに人間の世は終わるという終末思想を掲げて、密かに活動していた。

 なぜ人間の世を終わらせたいのか、その具体的な目的と正確な活動は不明である。王国と繋がりの深い宗教団体『教会』はその宗教団体を邪教として危険視し、団体の壊滅とその団員達を拘束するため、数人の聖騎士を邪教の本部へと送り込んだ。

 魔法的防御力に優れた鎧を身に纏い、邪教の本部へと乗り込んだ聖騎士達。

 だが、そこで恐ろしいものを目にすることになる。

 建物内はいたる所に血溜りがあり、何かの儀式の生贄に使用されたのか、解体された魔物と動物、そして…人間の一部が祭壇らしき場所に置かれいた。

 惨たらしい光景の中、激しく抵抗する邪教の団員達と乱戦を繰り広げ、次々と団員達を捕える聖騎士達。

 その場から、教祖とみられる男が逃走し、それを一人の聖騎士が追いかけた。

 とある広い部屋に辿り着くと、教祖は床に大きく描かれた魔法円の前に立ち、なにかを召喚する魔法を発動しようとしていた。


「来たれ、大いなる創造神の一柱よ!おお、地獄の底より顕現し、その御業でこの世を破滅へと至らせたまえ!」


 教祖の声に応じる様に突如黒い霧が部屋中に広がり、魔法円が怪しげな光を放つ。


「な!?」


 地獄の底の…創造神…

 この団体が終末思想であり邪神の復活を望んでいる事、そして先程の教祖の文句。その二つの事から瞬時に、あり得ない最悪の展開を想像する聖騎士。


「しかし、まさか…っ」


 空気が体で実感するほど濃く重くなり、儀式場をおどろおどろしい黒い霧が充満し、これからとてつもなく不吉なことが起きようとしてることを聖騎士に予感させる。


「出でよ、邪神…【ベルゼファール】!!その誉れ高き御姿を我に見せ…—」


 召喚の成功を確信して気が最高点にまで高揚する教祖だったが、魔法円から現れた黒く巨大な手によりその体を強く握り潰された。

 グチュッという湿った音とともに、噴き出た大量の血が部屋全体を赤く染め上がる。


「…っ」


 爪が伸び、黒い体毛で覆われた獣の足の様な巨大な手が開く。

 一瞬にして物言わない肉塊になった教祖だったものが床にぼとりと落ちて、水を吸って湿ったスポンジから漏れ出す様に、その体から流れ出た赤い液体が床に広がる。


「な、なんだあれは…。まさか、本当に邪神なのか!? 」



 突如現われ、一瞬で教祖を握りつぶした巨大な手に、戦慄する聖騎士。

 どこからか低く苦痛に身悶える様な唸り声が響く。まるで地の底から聞こえてきたかのような唸り声が、聖騎士の体の芯を震わす。

 部屋中を漂う黒い霧が、魔法的防御力に優れているはずの鎧を通り抜ける。熱を持った不快な黒い霧が肌に触れる感触と鼻に届く硫黄と血の匂い。その匂いが鼻孔から伝わって舌に痺れを感じさせる。

 聖騎士は、黒い霧に触れただけで五感全てを侵されるような感覚と言いようの無い不安に陥っていた。

 その場で感じる全てのものが恐ろしくなり、精神までも蝕む様な黒い霧は邪悪な気配そのものであると確信した。


(ここにいたら、…殺される!)


 この場を離れようとするが、脚がすくんで動けない。勇猛果敢で百戦錬磨と称される聖騎士だが、その評価すら些末に思えるほどの強大で邪悪な気配がその場を覆っていた。

 死を覚悟した聖騎士だったが、巨大な手は周囲に充満させていた黒い煙とともに魔法円へと引っ込む様に消えた。


「一体…、どうしたんだ?」


 おどろおどろしい雰囲気だった儀式場が、教祖の死体と赤い血だけを残して、静かな空間へと変わる。

 先程まで悪夢を見ていたのかと、真っ黒な白昼夢から目を覚ましたように静寂に包まれた部屋で茫然と立ち尽くす聖騎士。


 ─オギャアー!


 聖騎士の耳に、泣き声が届く。


(この泣き声は…魔法円の方からか!)


 不審に思い、警戒しながらも巨大な手が消えた魔法円へと近づく。


「えっ!?」


 するとそこには、魔法円の中央に横たわる赤ん坊がいた。


「オギャア、ンギャアー」


「何故、赤ん坊が!?」


 さらに近づこうと魔法円に足を踏み入れる。

 すると、全身を何かが駆け巡るように悪寒が走り、体を獣の鋭い牙で貫かれるような想像が脳を過った。

 先程まで感じていた恐怖が蘇り、赤ん坊の方に目を向ける。

 聖騎士の目が見開らかれ、総毛立つ。

 赤ん坊の体から黒い霧…あの邪悪な気配が立ち込めていたのだ。

 聖騎士は気付く。まさか…、こいつは…——


「…邪神!」


 なぜ赤ん坊の姿に…。召喚魔法が失敗したのか?

 解らず困惑する聖騎士。

 だが、一つだけ確かなことな事はわかる。

 今この場で、確実にこの赤ん坊を殺さなければならないという事だ。

 腰の鞘から剣を抜く。

 向かい風のように正面から邪悪な気配を受けつつ、聖騎士は赤ん坊に近づいた。

 魔法円の中央に辿り着き、その場に横たわって泣き続ける赤ん坊を見下ろす。

 赤ん坊から醸し出される邪悪な気配を間近で強く感じ、恐怖で振るえて崩れ落ちそうになる膝を踏ん張らせる。

 赤ん坊が泣き止んで、その小さな瞳で聖騎士を見上げる。


(…普通の人間の姿をした赤ん坊だ。)


 一見すると、…いや、どう見ても人間の赤ん坊にしか見えない。邪神だと知らなければ、このまま連れて帰って教会で保護するだろうと考える聖騎士。

 だが、赤ん坊が放つ邪悪な気配がその可能性を消す。


(教会に連れ帰っても、この子はそこで殺されるだろう。ならば、今この場で自分の手で葬ってやる!)


 剣を振り上げる聖騎士であったが、ふと何故か家を出る時いつも寂しそうに自分を送り出す妻の顔を思い出した。

 子供が出来ず、悩んでいた妻。

 ここのところ邪神を祭る宗教団体の調査とその支部の壊滅の任務で忙しく、そんな妻に寄り添ってやれていない。

 今回のような危険な任務でいつか自分が死んだとき、妻は一人になってしまうのだろうか。

 もし私達夫婦の間に子供がいれば、私がいなくなっても妻に寂しい思いをさせることは無い。


 …この赤ん坊に身よりはいないはず…—


(ってバカな…ッ、何を考えている!)


 こいつは邪神だ。邪悪な気配に当りすぎて恐怖のあまり気が狂ったか?

 そう自分に言い聞かせて雑念を払うと、赤ん坊の腹に突き立てようと剣の先を下に向ける。

 不思議そうな顔で聖騎士を見る赤ん坊。


「ぐっ…」


 邪神だとわかっていても、無防備な赤ん坊の命を奪うという罪悪感が湧き上がる。


(……っ、すまない!)


 感情を抑え、両手で逆さに持った剣を一気に下に降ろす。

 しかし、その切っ先は赤ん坊を突き刺すことなく途中で止まった。


「うう~、きゃはは」


 赤ん坊が笑ったのだ。


「……………」


 その無垢な笑顔を見た聖騎士は静かに剣を横に置くと、ゆっくり両手を赤ん坊へと伸ばす。

 不思議な事に赤ん坊が笑った途端、先程までその小さな体から立ち込めていた邪悪な気配は消えていた。

 聖騎士の腕に、純粋な人間の姿をした赤ん坊が抱きかかえられる。


「きゃっ、きゃはは」


「はは…、私はそんなに可笑しな恰好に見えるのか?」


 楽しそうに笑う赤ん坊の頭を愛おしく優しく撫でた後、聖騎士は赤ん坊を布で包んだ。そして、その赤ん坊…邪神を抱えて、急いでその場を去った。




 ───15年後の現在。


 俺、『トウヤ・ヘルフィールド』は王都から離れ、王国の東側の地方に位置する『ヨミノ町』に半年ぶりに帰省した。

 王都から数時間列車の乗り継ぎをし、駅からしばらく歩いて道路が整備されていない森を越えると、緑が覆い繁る山々に囲まれたその町に到着する。

 瓦屋根の家々や低く建てられた店が点在した町の中央を澄んだ川が流れ、それをまたぐ様にいくつもの湾曲した橋が架かっている。

 道を見守る様に立つ木々から、そよ風で揺れ動く葉の音と小鳥の囀る声が聞こえる。

 このヨミノ町はまさに、自然の風景の中に溶け込んだ小さな町である。


 実家に帰ってきた俺は近況報告もそこそこに居間へと通され、

 父『オウル・ヘルフィールド』から15年前の話…俺を拾った時のあの出来事について聞かされた。

 本当の親子じゃないというだけでも驚きだが、さらにそれを上回る事実に頭が真っ白になる。


「…俺が、邪神?」


 にわかには信じがたい話だが、目の前で話す父の真剣な表情から嘘ではない事がわかる。

 父は温厚で真面目な性格であり、突拍子も無い事を平然と言う人ではない。ましてや、家を飛び出して半年ぶりに帰ってきた息子に「お前は邪神だ」なんて冗談は普通言わないだろう。


「…母さんには二人だけで話をしたいからと、少しだけ出かけてもらった。お前が邪神だという事は、母さんには言っていない。」


 日の光が差す窓に目を向けながら父が言う。広い居間には、俺と父の二人だけ。

 居間は、『タタミ』という東側地方の伝統的な床材が敷き詰められ、部屋の周りは同じく東側地方の伝統的な『フスマ』という戸で家内の空間を仕切っている。


「お前の事は、聖騎士の任務中に拾った孤児だという事にしてある。」


「…そうなんだ。」


「ああ。だが、心配するな。例え血は繋がってなくとも、私達はお前を大事な息子だと思ってる。」


「…うん、ありがとう。」


 正直、その事実を受け止めていいのかわからず頭が混乱していたが、父の言葉に気持ちが落ち着いた。

 父の話ぶりからして、やはり本当の事らしい。

 聖騎士になると言って田舎を出て、王都の魔法学校に入ったのに…、そもそも実は俺、邪神だったのか…。

 もう一つ、気になる事を聞いてみる。


「……ところで、父さん」


「なんだ?」


「父さんって、聖騎士だったんだ…」


「うむ!父さんは実は昔、聖騎士だったんだぞ~。」


 すごいだろ、と得意げな顔をする父。

 父はヨミノ町で教師をしている。真面目で誠実で熱心に授業をし、生徒や町の人達からも慕われている。

 温厚な性格でもあり、普段家では母と穏やかに過ごしているいるため、戦闘等の荒事に関わる聖騎士に就いていたとは意外だ。

 さらに言えば、今俺が通っている『王都中央高等魔法学校』の卒業生でもあるという。

 まさか、こんな近くに俺の憧れの聖騎士がいたとは。


「いやぁ、私が元聖騎士だっていうのは隠していたのだが、まさか息子のお前が聖騎士を目指して王都に行くと言った時は驚いたぞ。やはり、血は争えないな。」


「いや、俺と父さんは血は繋がってないでしょ」


「え…、何でそんなひどいこと言うんだ!?…親への反抗期?」


「さっき、本当の親子じゃないって話してたじゃん!」


 それも、実は息子は邪神でしたという。


「あ、ああ。そうだったな…グスン」


 なぜか涙目になる父。


「まったく手のかからないよく出来た息子のお前がついに、反抗期を迎えたのかと思って少し感慨深くなってしまった。…いつでも、クソオヤジって言っていいんだぞ?」 


 言わないよ。というか…


「よく出来た息子って言うのは言い過ぎだよ。反抗期程じゃないけど、俺は父さんの反対を無視して、王都に行ったからね。」


 半年間家にも帰らなかったし、連絡もしていない。勝手に家を出たので、俺は気まずくなって親に手紙の一つも書けず、住所すら伝えずにいた。

 そのため俺に届いた手紙は学校に届けられ、先生から渡されたのだ。


「…私が何故、王都の魔法学校に行くことを反対したか、今の話を聞いたらわかるな?」


「…うん。」


 教師であり教育熱心な父が、何故教育レベルの高い王都中央高等魔法学校への入学を反対したのか謎だった。

 当時はいくら聞いても理由を聞かされず反対されたため、自分の実力を認められていないような気がして悔しさで家を飛び出したが、先程の話を聞いてようやく父の真意を理解した。


「王都には私が所属していた『聖騎士』の本部、そしてさらにはその聖騎士を監督し命令を下す、王族お抱えの宗教団体『教会』の総本山がある。」


「教会…」


 ―—『教会』。


 王国の西側の地方から発祥した宗教団体である。その歴史は古く、王国設立からすでに在ったとされ、その総本山は王都の中心地にある。

 その教義は()()()であり、【世界創生の四神】の一柱『人間と動物を創った神』を最高神として、他の神を最高神に仕える『聖霊』と定めている。

 そして『魔物を創った神』を世を滅ぼす邪神と定め、邪神によって生み出された魔物は危険で悪の存在だとしている。

 もともと『聖騎士』は魔物退治を目的に教会によって作られた役職であったが、いつしか王国を守ることを使命とし、その使命のために魔物のみならず、悪しき魔法使いやその組織を抹消して治安維持を目的とする公安職になった。


「トウヤが邪神であることはまだ誰も知らない。だが知られれば、教会はすぐにでも聖騎士を送り、お前を抹殺するだろう。」


 俺の頬に汗が伝う。


「私は赤ん坊だったお前を連れて逃げ、妻と共に名を変えてこのヨミノ町で正体を隠して暮らしてきた。今まではバレずにやってこれたが、王都にいればいつか教会があの日の出来事…邪神の復活を知った時、お前の正体に気づくかもしれない。 」


(父さんはそれを危惧し、俺を王都に行かせたくなかったのか。)


 確かに、王都に居続けるのは危険だ。優秀な魔法の使い手には、変身した者の正体を見抜く力を持つ者や、嘘か本当か前世を視ることが出来る者もいるという。

『聖騎士』であれば何らかの力で隠れた敵を暴き、『司祭』であれば近くにいる邪悪な気配を感知することが出来るという。

 魔法学校も危険だ。『王都中央高等魔法学校』には優秀な生徒が集まる。その中の誰かが邪神だと知らなくとも、俺を不審に思うかもしれない。


「そういう事だ、トウヤ。もう、王都には行くな!学校のほうには、私から連絡して退学の手続きをしてもらう。」


(…確かにそいうことなら、仕方がない)


 聖騎士を目指したかったが、このまま王都の魔法学校にいても、いつか聖騎士に殺されてしまう可能性がある。

 それに俺が邪神だと知られれば、赤ん坊だった俺を助けてくれた父さんと育ててくれた母さんに何かの処罰が下るかもしれない。

 両親に迷惑をかけるわけにいかない。そう思い、学校をやめる決心を父に伝えようとする。


「わかった。父さん、俺…—」


「お取込み中の所、失礼しちゃうわよ?」


 ガラっと襖が開けられ、大きなフードを目元まで被ったローブ姿の人物が居間に入って来た。

 見るからに怪しい見知らぬ人物の突然の訪問に、驚く俺と父。


「どなたかな?他人の家に勝手に入る込むとは…」


 何か文句を言いかける父に、怪しい人物はローブの内ポケットから円い枠に囲まれた幾何学模様のペンダントを取り出して見せる。


「…っ!?その印はっ!」


 ペンダントを見た途端、父が声を上げてその場で立ち上がる。


(なんだ?あのペンダントの模様は)


 見たことない代物だが、父の様子からしてただ事ではない事はわかる。


「貴様、まさか…」


「そう…。私はあなたが聖騎士だった頃、本部を襲撃され、《《邪神》》様を奪われた宗教団体の生き残り…」


(なに!?)


 邪神…俺が生まれた宗教団体の生き残りだと?


「【ベルゼファール】様を祭る宗教団体『暁の福音』。私はその教祖の娘だ!さあ、邪神様を返してもらうよ!」

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