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ロブスターは救われ、犬は管理される…クリスマスの夜、命の棚卸しが始まった

作者: 徒然生成
掲載日:2025/12/27

✦『ロブスターは救われ、犬は管理される』

― クリスマスの夜、命の棚卸しが始まった ― 


………


吾輩は犬である。

どうやら、

わしは最近、

ロブスター君と一緒に

えらく昇格したらしい。

だが、その分だけ、

わしの自由は

静かに、確実に、

失われていく――。


………


✦目次

1.ロブスターが人間側へ来た日

2.クリスマス、犬は家族になる

3.昇格とは、愛か、それとも管理か

4.トナカイはなぜ怒られないのか

5.SNSという裁判所

6.棚の国と、にじむ国

7.昇格の先で、犬が思ったこと

8.吾輩が見た、少し先の日本の夢


………


■1. ロブスターが人間側へ来た日


主人のスマホから、

冬のニュースが流れていた。


「イギリスで、

 ロブスターを生きたまま茹でる調理法を

 禁止する法案が成立間近です……」


画面には、

赤く染まったロブスターと、

立ちのぼる白い湯気。


それは料理というより、

裁判の煙に見えた。


「残酷だ」

「甲殻類だって痛みはわかる」

なるほど、と人間たちは頷く。


そして、こう続けた。

「代わりに、

 電気ショックで処理する機械を使えば

 問題ありません」


ただし、その機械は高額だ。

買える店と、買えない店が分かれる。


吾輩は犬である。

だから、匂いは得意だ。

これは慈悲の匂いではない。

線を引く匂いだ。


ロブスター君は、今日から

「ただの食材」ではなくなった。


人間さまという神に、

半歩だけ、近づけたのだ。


これは

有り難いことなのだ。


いや、書き間違えた。

ありがたいことなのだ。


■2. クリスマス、犬は家族になる


昨日までヨーロッパの街は、

クリスマス一色だった。


店先には、

犬用の七面鳥のぬいぐるみ。

瓶の形をしたおもちゃ。

「うちの子用」と書かれた札。


若い娘が笑って言う。


「この子、七面鳥が好きなの。

 本物は食べられないでしょ。

 だから、これでいいの」


そう、吾輩は、

その「この子」に他ならない。


プレゼントをもらい、

頭を撫でられ、

写真を撮られる。


どうやら吾輩の仲間の多くは、

家族の棚に完全に入ったらしい。


人間社会で言う昇格である。

間違いなく昇格。


だが同時に、

今まであった自由は

少しずつ失われていく。


昔、銀狐の交配研究を

テレビで見たことがある。


凶暴な祖先と、

比較的おとなしい祖先を掛け合わせると、

やがて人に懐く個体だけが残った。

――いわゆる、メンデルの法則。


そういえば吾輩も、

遠い昔は狼だったらしい。


その姿形は、

もう原型をとどめない。


だけど、

その友好性のDNAのおかげで、

人間に気に入られた個体だけが

今日まで生き延びた。


それを、

人間さまは「種の法則」と呼ぶ。


攻撃性――

つまりコルチゾールを下げ、

友好性を高めた者だけが、

生き残った。


吾輩は思う。

日本人も、

吾輩に少し似てきたのではないか、と。


アメリカさまや中国さまに、

嬉しそうに

しっぽを振っているではないか……。


■3. 昇格とは、愛か、それとも管理か


昇格してから、吾輩の生活は忙しい。


散歩の時間は決められ、

留守番の時間も決められ、

勝手に吠えると怒られる。


病院に連れて行かれ、

体重を測られ、

「太りすぎ」と言われる。


これが愛情だ、と人間は言う。


「君と暮らすために

 私は稼がないといけない」


「法律で、収入の制限というものが

 最近できちゃったからね……」


そんな人間さまの豹変ぶりに、

吾輩は思う。


「とかく人間社会は住みにくい」


昇格した理由は、

吾輩に自由を与えるためではない。

人間さまの期待なのだ。


彼らは、

吾輩のしっぽを振る姿が好きなのだ。

いわゆる「友好性」というやつだ。


ロブスター君も同じだ。

真っ赤になって虐待されない代わりに、

機械で安楽死させられる。


昇格とは、

人間さまの気まぐれにすぎない。


だけどかわいそすぎるから、 

吾輩は真剣に考えた。


「ロブスター 君のしっぽを、

 人間に向けて振ったら

 どうなるんだろう??」


やっぱり、笑えない(悲)。


■4. トナカイはなぜ怒られないのか


クリスマスのフィンランドの雪原で、

トナカイ君は気の毒に

ソリを引いていた。


観光客は笑い、

スマホを向ける。

だが、誰も怒らない。

「虐待だ」とは言われない。


ガイドは言った。


「トナカイさんは

 仕事をしているだけです。

 それに、私たちは

 彼の肉も普通に食べます」


なるほど。

トナカイ君は

労働と伝統の柵の中に入っている。


役割がある命は、

守られる必要すらない。


吾輩は深く、ため息をついた。


「牛君や豚さん、鶏さん、

 そしてトナカイ君……

 この世を儚んでいるだろうなぁ」


■5. SNSという裁判所


宿に戻ると、

吾輩の主人(67歳)は

SNSを眺めていた。


欧米の投稿:

「ロブスターを茹でるのは犯罪だ」


別の投稿:

「犬にプレゼントをあげるのは当然」


日本の投稿:

「ロブスターはダメで、トナカイはOKなの?」


日本人の声は伸びない。

断言しないからだ。


SNSは、

0か1しか置けない裁判所。


にじむ考えは、

すぐに溶けて消える。


吾輩はひらめいた。


「これは日本人以外の人々の間で、

 コルチゾールが

 増えているからに違いない」


最近の食料品値上げで、

スーパーの棚の食べ物には

大量の化学調味料が使われているという。


「日本人の主人が優しいのは……

 きっと、これだよね」


吾輩のこの説明、

案外正しいと思わない(笑)?


■6. 棚の国と、にじむ国


主人は言った。


「欧米は線を引くのが好きじゃ。

 内側の命は守るが、

 外の命は知らん顔じゃ」


「日本は、自分では線を引かん。

 海に囲まれとるからかもしれん。

 だから友好性が残っとる」


そういえば主人は、

仏教徒なのにクリスマスを祝う。


正月には、

神社と寺を同時に参る。


ごちゃ混ぜだが、壊れない。

これが、日本人の混沌だ。


■7. 昇格の先で、犬が思ったこと


ロブスターは救われ、

犬は管理され、

トナカイは働かされた。

すべて、人間の都合である。


だけど一つだけ、

人間の計算から外れた存在がいる。

それが、日本人だ。 


世界が

強さと正しさとスピードを競う中で、

日本人は

曖昧さと遠慮と友好性を

まだ捨てきれない。


それは、

時に「弱い」と笑われる。


でもね、

種の法則は残酷で、同時に正直だ。


最後に残るのは、

うまく争わなかった種なんだよ。


だけど 日本人の多くは、

誰もそのことに気がつかない。


■8. 吾輩が見た、少し先の日本の夢


その夜、吾輩は夢を見た。

十年後の日本。


コスパは改善されず、

断言は少なく、

誰も怒鳴らない。


人々は争わず、

距離を測り、

手を合わせて食事をする。


「いただきます。」

「ごちそうさまでした。」


吾輩は夢の中で思った。


日本社会は、

コルチゾールを失った代わりに、

友好性だけが異様に残った

社会を形成した。


それは弱さではない。

一つの進化形だ。


吾輩は犬である。


かつて狼だった。

それでも、

人に噛まなかったから生き残った。


それと同じことが、

今、日本人に起きている。


君はまだ気がつかないのか(疑)?

じゃあ、

あなただけ特別に教えてあげるよ…


■あとがき 


これは動物の話ではない。

生きとし生きるものの命を、

どこまで管理すれば

人間さまは安心できるのか――

その線引きの話である。


吾輩が、

メンデルの帳簿を静かにめくると、

彼の残酷で正直な言葉に出会う。


「争わなかった個体は、

 エネルギーを消耗しない」


「敵を作らなかった集団は、

 内部崩壊を起こさない」


「友好性が高い種は、

 環境変化に適応しやすい」


これが、あなただけに教える

吾輩の回答である。


吾輩は犬である。

祖先は狼だった。

その吾輩だからこそ、

確信している。 


日本人は、このままでも生き残る。

速くはない。

強くはない。


だけどね、噛みつかない代わりに、

長く続く社会。


それが、

この国のDNAなのだ。


「絶対に噛み付いちゃだめだよ!」


――終わり

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