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日常の怪  作者: 奇奇
2/2

電話

佐藤真理子は仕事場を出ると一件の留守電があることに気づいた。親友の千恵美からだった。千恵美とは女子校からの付き合いだ。真理子は住んでいる最寄り駅で電話をかけ直すことに決めると電車に揺られて帰っていく。揺られながら真理子は一日を振り返った。今日は金曜日。一週間の仕事が終わった。最近は仕事が増えていて真理子は忙しくて、ついつい休みの日でも仕事の事ばかり考えてしまっていた。だけど、今日の千恵美からの留守電は真理子を元気にした。千恵美からの電話はだいたい遊びの誘いだからだ。真理子は胸を躍らせながら、電車のまもなく到着のアナウンスを聞いた。


真理子は駅から歩きながら、鞄に入ったスマホを取り出して千恵美に電話した。電話の発信音が耳元で聞こえる。

プルルル プルルル

しばらくして、発信音が消えて少しの雑音が聞こえてきた。

「あっもしもし!」

真理子が言うと少しの間があって

「真理子!」

千恵美が驚いた声で言ってきた。

「わっ私だけど、どうかした?」

真理子が尋ねる。

「どうかした?じゃないよ!大丈夫なの?」

千恵美が声を上げて言ってきたが、真理子には何の事かさっぱりだった。

「ごめん、何の事なのか分からないんだけど」

真理子が言うと電話の向こうで千恵美がため息をついた。

「無事なら良かった!最近、真理子と電話しても

ずっと独り言ばかりだったから」

「えっ」

千恵美が言ったことに真理子は咄嗟に声が出た。

「私達、今日が久しぶりの電話だよね?」

真理子の発言で二人の間に沈黙が流れる。

「えっ違うよ!私達、昨日も一昨日も電話したじゃん!」

やっぱり、千恵美は変なことを言っている。

「どんな電話だったの?」

真理子が訊いた。千恵美がさっき、真理子が独り言ばかりだったと言っていたが千恵美と電話した覚えすら全くない。それは、仕事で疲れているからとか関係ない。

「本当に覚えてないのね」

千恵美が言ってきた。

「うん」

真理子が頷く。

少し間があってから千恵美が言い出した。

「あのね、私が一昨日電話した時に真理子は最初何も言わなかったの。だけど途中から真理子の独り言が聞こえたんだ」

「独り言って何を言っていたの?」

真理子が千恵美に訊いた。

「いや、何を言っているかは分からなかったの」

「そうか」

「でもね、昨日電話した時は独り言も言っていたんだけど真理子が急に変な声を出して」

真理子はだんだん気味が悪くなってきた。こんな全く記憶にないことなんてあり得るのだろうか?真理子はふと閃いた。千恵美に「ちょっと待って!」と言うと、鞄からメモ帳を取り出す。真理子はよくこれからする事をメモ帳に書くのだ。もしかしたら、会社に居る時に千恵美から電話があってメモ帳にその事を書いたかもしれない。真理子はメモ帳を素早くめくっていく。でも、そんなメモはどこにも書いてなかった。真理子がしばらく黙っていると

「どうした?何かあったの?」

千恵美が心配そうに訊いてきた。

「大丈夫。何でもない」

真理子の声から千恵美は良くないことを察したようだった。

「そう・・・・・・」

千恵美はそう言ってしばらく黙り込んだ。ちょうど真理子は住んでいるアパートの階段を上がっていた。真理子はさっき千恵美が言っていたことの続きが気になった。

「そういえば、私が変な声を出したって?」

千恵美が「うん」と頷く。

「うーうーうーうーうーうーうーってずっと」

千恵美が言った。その時、真理子は止まった。自分が住んでいる号室のドアがすぐ先の方に見えた。だけど、自分の号室のドアを開けて白いドレス姿の髪の長い女性が入っていくところを見てしまった。まるで幽霊のようだった。真理子はさらに恐ろしい事実に気づく。ドアの鍵をかけたはずだ。なのに、その女性はドアを開けて入っていった。真理子が怖くて固まっていると「どうしたの?」と千恵美の声がスマホから聞こえた。真理子はしばらく声を出せなかったが、小さい声でようやく口を開いた。

「何でもない。切るね」

「えっちょっと」

千恵美が言ってきたのを気にせず電話を切った。


玄関のドアの鍵はかかっていた。真理子は恐怖が全身に走ったのを感じた。ドアを開けて部屋に入る。さっきの白い服の女性は中に居る。玄関を過ぎて、廊下を歩いてそのまま正面のドアを開けて中に入るとキッチンやダイニングの部屋だ。部屋はとてつもない静かさだった。真理子は女性を探した。それから、トイレや寝室も徹底的に探すが見つからない。ダイニングに戻ってくると真理子は後ろに気配を感じた。降り向こうとしても怖くてなかなか出来ない。探してた女性はすぐ後ろにいる。だけど、普通の人間ではないと真理子は感じた。絶対に幽霊だ。寒気がする。真理子は女性を探したことを後悔する。外に避難した方が良かったと思った。だけど、もう遅い。振り向くと女性の幽霊が部屋に立っていた。その顔に生気を感じられない。真理子は腰を抜かして床に尻餅をついた。幽霊は床から足を浮かせてゆっくりと真理子に近づいてくる。そして何かぶつぶつと言っている。その声が「うーうーうーうーうー」に変わった。真理子は帰りの電話の千恵美の声を思い出す。今、まさに幽霊が出している声だった。女性の幽霊は真理子のすぐそばまで近づくと真理子に手を伸ばした。


数日が経って、千恵美は真理子のアパートまで来ていた。階段を上がり真理子の住んでる号室がある階まで上がる。そして真理子の号室まで来た。千恵美はインターホンを鳴らす。応答はない。

「真理子・・・・・・」

千恵美は呟いた。ここ最近真理子とは連絡がとれていない。千恵美は思い切って玄関のドアノブを握った。その時、ドアの中から「開けないで」と真理子の声が聞こえてきた。千恵美はドアノブから手を離して、その場を立ち去った。           終








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