訪問
日常の怪異。それは、日常に潜む隙間。その隙間から人間社会に何かが姿を現した時、人は恐怖を体験することになる。
夜の十時は過ぎていた。中村和樹はソファでくつろぎながらテレビを観ていた。階段から足音が聞こえる。二階で寝ていた妹の菜々美が降りてきた。
「ママとパパはまだ帰らないの?」
菜々美が言った。
和樹がソファから見ると、菜々美が階段のところに立っている。目を擦りながら眠そうにしている。
「ああ、そうだよ。旅行に行ってるんだ」
菜々美は部屋に戻ろうとしない。
「大丈夫だ。お兄ちゃんに任せろ」
和樹は菜々美と話すのがめんどくさかった。
「明日には帰って来るの?」
菜々美がまた訊いてきた。
「うん。だから早く寝ないとな」
和樹が言うと菜々美は「分かった」と言って、階段をゆっくり上がっていった。和樹は菜々美が階段を上がって部屋に入っていく音を確認すると安心した。
しばらくして、和樹がテレビを観ていると家のインターホンが鳴った。
「今度は何だよ」
和樹はそう呟いてから、時計を見た。もうすぐで夜の十一時になる。
誰だよ?
和樹はインターホンの画面を覗いた。誰も立っていない。
は?イタズラか
和樹はソファに戻った。しかし、インターホンがまた鳴った。和樹がインターホンを覗くがやはり誰もいない。このままでは、また妹が目を覚ましてしまう。和樹は玄関まで来た。
「あのう、誰ですか?」
和樹が尋ねた。相手から返事はない。
ドンドンッ
突然、玄関のドアを叩く音がした。
ドンドンドンドンドン
次第に激しくなっていく。
ガチャガチャガチャガチャガチャ
今度はドアノブでドアを開けようとしてきた。
ガチャガチャガチャガチャガチャ
和樹は恐怖で耳をふさいだ。しばらくして相手はドアを開けようとしなくなった。急に静かになって和樹はじっとした。何事もなくなってから数分が経ち、恐る恐る玄関のドアを開けて外を確認した。そこには何も存在しなかった。和樹がドアを閉めた後、
タタタタッ
後ろから誰かが走っていく足音がした。和樹は菜々美だと思って「菜々美?」と声をかけたが返事はない。和樹は階段を上がって、菜々美の部屋を開けた。菜々美はぐっすりと眠っている。部屋の時計を見るとちょうど0時になっていた。この日以降、度重なる怪異のせいで和樹と家族はその家を出ていった
(つづく)