序章 ハリボテの表でおはよう
誰そ彼に再会。
今は黄昏時。
お前は誰かと問う前に声がした。
「お巡りさん。この人、死んでるよ」
数分前のこと、近所の女子高生が交番に駆け込んできた。
公園で暴れている人がいると取り乱す女子高生をなだめ、現場に急行した俺は地面に静かに横たわっている男に駆け寄った。
腕時計で死亡確認をするより前に、無線で応援を呼ぶ前に、愛想のいい声がした。
「お巡りさん。この人、死んでるよ」
自分が警察官になるきっかけになった人物の、自分の心を乱し続ける存在の声だった。
「白崎……」
振り向いた先には長い黒髪を後ろで一つに結んだ細身の男が立っていた。
見覚えがある。そんな曖昧なものじゃない。もっと強烈で、もっと不気味な奴だ。
高校三年の夏。
突然失踪したクラスメート、白崎蘭。
「ひさしぶりだね」
記憶と寸分も変わらない声にぞっとした。
俺は白崎の誰にも不快な思いをさせることのない雑味のない活舌にとても引っかかりを感じていたことを思い出した。
「いままで……」
何年も囚われるように探していた存在が目の前に現れたとき、人は何も言えなくなるのだと痛感した。
何年も脳内に書き溜めてきた原稿用紙数十枚分にもおよぶ再会したら問い詰めるセリフの数々。
今、この瞬間は頭の中から一文字もなく、綺麗さっぱりなくなっていた。
「またね、駒形恵くん」
白崎は帽子を深く被り、つばがぐるりと進行方向に向いた。合わせて後ろで束ねられた黒髪が揺れた。
手を振られているようだった。
当時から印象的だった白崎の耳につけられている紫色のピアスが夕日に当たって光った。
初の警察風もの!じっくり書きます!