源内機関
平賀源与は目覚めた。
すっかり爆睡していた。
んーと伸びをする。
気付けば未済書類の山。
否。
竹簡でない事を此処は感謝すべきだと源与は想い鎮める。
パピルスに、エジプトの先代の叡智に気力の総てを投じて陳謝し源与は再び指を奔らせる。
たいぷらいたー。
南蛮の、珍物の一品に彼女は目を付けた。
これぞ!天祐と。
以後、平賀機関の生産性は爆発的に向上した。
と、想いたい。
或いは自分も太閤が、おほさか、に、でも産まれ落ちて居ればこうしたやくたいもない傾奇者の道外しとは無縁の安閑な生を過ごしたやも、と、源与は想う事もある、このお江戸の、“くうき”が悪いのだと。
だいたいが、三州のせいなのだ。
あの狸めが。
天下分け目ここ一番の大事、で、泥首など晒さずかっきりこの邦を握って居れば、
~西は豊臣、東は佐竹、中を保つは今日(京)も菊~、
などと半端な日ノ下にはならず、三島全て開けたもっと、こう、つまり今のこの邦は、だから手前のような男女も出て来てしまう。往時の片田舎、江戸を立派に拓いたあの手腕があれば、もっと綺麗に開いていた筈なのだ、そうだろうとも。
と、源与は朝の恒例行事、水を使いつつの尾篭だから止まない骸弄りで憂さを晴らすと、それでもうばさりと気は直し、ととんと軽い足取りで職房へ降りていく。
落首に云う、
『織田がつき、羽柴が食いし天下餅、つまんで旨しはひとり佐竹』
だが、史料を当たると当然、どうも事情はそう単純なものでもない。
「太閤大乱」の戦後処理は混迷を極めた。
まず東軍総司令官たる徳川家康が最前線である関ケ原で戦死、随行幕僚の家臣団もまた、その尽くが追い腹、主君の死に殉じるか小早川の出し抜けに慌てて続いた島津他が散々に刈り尽くしてしまった。
~西は豊臣、東は佐竹、中を保つは今日(京)も菊~。
ぴんぽんぱんぽ~ん。
朝餉の準備が整いました。
うんめー。
谷甲州が唸る。
谷甲州。
浮田清兵衛、二代目。
滑空自然飛行を極めた初代に続き、人類初の動力、人為飛行を目指す、否。
人が空を飛ぶ!。
ありえん、無理無謀だからこそ。
「お前、『うんめー』以外の食感ねーのかYO! このボキャ瀕が!」
混ぜっ返すのは麒麟児。
坂本龍馬。
「あんだよ」
「思わず江戸弁が出ちまった、ぜよ」
「ぜよ」
口真似をするのは、大石英司。
大石氏は、日本の氏族。清和源氏義仲流と称した信濃国大石郷の大石氏は室町時代に関東地方で活躍し、戦国時代には武蔵国の守護代となる。氏族。関東管領上杉氏のもと、四宿老(長尾氏・大石氏・小幡氏・白倉氏)の一人に数えられ、代々武蔵国の守護代を務めた。藤原秀郷の後裔(沼田氏と同族とされる)といい、信濃国佐久郡大石郷に住んでいたことから、大石氏を名乗ったといわれる。また、これらとは別に平安時代初期編纂の『新撰姓氏録』に記される古代氏族にも大石氏はあるが詳しいことは定かではない。 室町時代初期、大石為重は初代関東管領の上杉憲顕に仕えた。彼には男子がなく、1334年(正慶3年)に、縁戚関係にある木曾義仲の後裔と称した大石信重(木曽家教の三男、家村の弟)を婿養子として迎え、実際の藤姓木曾氏の庶家となったという。信重は観応2年(1351年)、挙兵した南朝方の新田義宗との笛吹峠の合戦で先陣を勤めた。その戦功として、1356年(延文元年)武蔵国入間・多摩の両郡に13郷を得て多摩に移住し、二宮(現・あきる野市)に館を構えた。また、「武蔵国目代職」にも任じられた。1384年(至徳元年)、信重は浄福寺城(現・八王子市下恩方町)を築城した。応永年間には叔父(養叔父)の大石能重(為重の弟)が武蔵・上野・伊豆各国守護上杉能憲に仕えて守護代を務めた。1458年(長禄2年)、大石顕重(信重の玄孫)が高月城(現・八王子市高月町)を築城し、二宮から本拠を移した。15世紀末期頃の禅僧・万里集九の著作、漢詩文集『梅花無尽蔵』巻六の「万秀斎詩序」に、武蔵国守護の家臣に、木曾義仲十代の子孫・大石定重がおり、武蔵国20余郡を掌握しているとの記述がある。1521年(大永元年)、定重は高月城の北東1.5kmに滝山城(現・八王子市丹木町)を築城し本拠を移転した。
その後の大石氏
1546年(天文15年)、関東に進出した後北条氏の北条氏康が河越夜戦で大勝する。その結果、扇谷上杉氏は滅亡し、関東管領山内上杉氏は関東から追われ、越後国の長尾景虎を頼る。主家上杉氏の没落により、大石定久は北条氏康の三男・氏照を娘・比佐の婿に迎えて、自らは戸倉に隠居した。領地支配を守護上杉氏に頼りすぎた大石氏はほかの守護代のように領域支配に失敗し、戦国大名への脱却をできなかったといえる。小田原征伐により後北条氏が没落すると、大石定久の実子大石定仲と養子大石定勝は佐竹氏に仕えた。
英司にぜよ、と揶揄された龍馬は流石に鼻白む。
甲州には甲州の分があるのか、も。と。
もちろん精魂尽き果てた源与は厨房で爆睡中。