草はらにて (ウィロー、ロアン、リア)
「わあ〜〜!」
森をぬけると、草はらがあった。どこまでもどこまでも続くような気持ちのよい草はらだ。
(こんな綺麗な場所、見たことがないわ!)
リアは旅をはじめてから、何度も同じことを思っている。
「ピクニックにちょうど良さそうな場所だね」
「すこし休憩にしましょうか」
ウィローとロアンとリアは、簡単な食事をして休憩にする。そのあと、リアは花の名前をあれこれロアンに聞いている。ロアンは道中買ったちいさな図鑑を見ながら、リアに花の名前を教える。
少し離れたところに、初夏に咲く白い花がたくさん咲いていて、ロアンはリアに花かんむりをつくる。リアは嬉しそうに微笑む。ロアンに教えてもらいながら、リアは自分の手でも花かんむりをつくろうとする。
ロアンとリアが休憩場所に戻ると、ウィローは草はらに仰向けに寝そべっている。リアは手に作りかけの花かんむりと、花かんむりに使う花の束を持っている。
「ウィロー、遠くに農家のようなものを見つけました。なにか買えないか偵察に行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ウィローは寝そべったままロアンに言う。離れていくロアンの背中を見ながら、リアは聞く。
「私も行ってもいい? ウィロー」
「ダメ」
ウィローは起き上がるとリアの手をとって、リアの小さな体を捕まえる。
「きゃ」
リアは寝そべっているウィローのうえに、両腕でぎゅーと捕えられる。ウィローの体にむぎゅうとほっぺたがあたる。
「……ウィロー?」
「リアは、ぼくとおひるねする係ね」
「私、眠くないわ」
リアはもがいて脱出すると、ウィローのとなりにすわる。
ウィローはリアを見上げ、黒い髪に映える白い花かんむりに気づく。
「可愛い花かんむりだね、リア」
「似合ってる?」
「とても似合っているよ」
「ロアンがつくってくれたの」
「そう……ロアンが」
ウィローはしばし沈黙のあと、リアに手を伸ばして微笑んだ。
「リア、ぼくがこわい夢を見ないように見張っていてくれる?」
「わかったわ」
リアはウィローの手をとり、軽く手をつなぐ。リアはしばらく目を閉じたウィローを見つめたのち、寝たかなと思い、そっと手を離す。
花かんむりの続きをつくる。
「できた!」
リアがウィローのとなりに寝そべって出来上がった花かんむりを嬉しそうに見ていると、いつの間にか、ウィローが横向きになってリアのことを眺めている。
「眠れないの? ウィロー」
「うん……もうひとつ、可愛い花かんむりができたね、リア」
ウィローは微笑む。
「これは、ロアンにあげるの」
「……そっか」
ウィローは残念そうな顔をした。
「ウィローも花かんむりが欲しかったの?」
「花かんむりが、というより……リアが作ったって聞いて、いいなあって思ったんだ」
リアは顔を輝かせて、その場から立ち去ろうとする。
「私、ウィローにも作ってくるわ!」
「あ、待って、リア」
ウィローは起き上がり、白い花がたくさん咲いていた場所へ駆けるリアの後を追う。
リアは気づき、振り向く。
「……ウィローも行くの?」
「うん」
ウィローはリアの姿に目を細める。
「寝てていいのに」
「心配だから」
「ウィローって本当に過保護ね」
リアは花かんむりを手に、微笑みかける。
「ぼくの大事なお姫様が迷子になったら困るからね」
「迷子になんてならないわ!」
「すぐなるよ、きっと」
「今まで一度もなってないのに〜」
そんな会話をしながら、太陽の降りそそぐ草はらを、リアがウィローを振り返り振り返り歩き、ウィローはそんなリアを嬉しそうに見ながら歩く。
「……で、ふたりして迷子になったわけですね」
「ごめんごめん、ロアン、怒っているよね」
「どこまで行っても草はらで、わかんなくなっちゃったの」
「まったくリアはともかく、ウィローはどうして迷子になったんですか。もう大人なのに!」
(花かんむりをつけたリアが可愛くて見てたら迷っただなんて、言えないな……)
「リアと一緒だっただけ、よかったよ」
「私は一緒じゃなかったんです。美味しいものを手に戻ってきたらふたりがいなくて、ずっと待ちぼうけだった私の身にもなってください!
ふたりのことをすごく、探したんですよ!」
ぷいっとしながら、ロアンは言う。
「ごめんね、ロアン」
「心配かけてごめんなさい、ロアン」
(でも、ウィローとふたりの冒険も楽しかったな)
リアはちらっとウィローを見ると、ウィローもちらっとリアを見た。リアはすこし背伸びして、ロアンの頭に花かんむりをのせる。
「これ、ロアンにつくったの。だからご機嫌なおして!」
「似合っているよ、ロアン」
「……まあ、もういいですけれどね。リア、花かんむりがつくれるようになって、よかったですね」
「うん!」
リアの満面の笑みに、ロアンも少し機嫌をなおしたようだった。ウィローも3つめの花かんむりを手に持ち、嬉しそうにしている。そんな昼下がりのこと。