お酒の入ったチョコレート(ロアリアウィロ いちゃいちゃほのぼの)
アズールの家 夏
部屋の扉を開けると、居間でロアンとリアがふざけあっている楽しげな声が聞こえた。特にリアのキャッキャ、キャッキャとした声だ。
ウィローはお茶の入ったコップを手に、居間へと向かう。
ソファーで、大笑いしているリアを、ロアンが押し倒していた。
ウィローは思わずコップを取り落として、床につく前にコップの動きを魔術で停止させる。
「本当にやめろって!!!」
ロアンは怒っているようだ。
(心臓が止まるかと思った)
ウィローは冷静に……冷静になれないのだが、ロアンの二の腕を掴んで、リアから引き剥がそうとする。しかしロアンももう、体格ががっしりしてきているので、振り向かせることしかできなかった。ロアンの顔は真っ赤で、怒りすぎていて、涙目に近い。
「何があったの?」
「あ、ウィロー! 大好きだよー!」
リアがロアンの下から抜け出てきて、ウィローに抱きつく。自重をすべてかけて倒れ込んでくる。ウィローは床に座り、リアを抱き止める。リアの体が熱い。リアはニコニコニコニコしながら真っ赤な顔でウィローを見ている。……。
「なんでリアがお酒を飲んでいるの?」
ウィローはわけがわからず、ロアンに聞く。
まだ飲むには3年半、早いはずだ。
「午前中にリアと買い物に行って、最近よく家のことを手伝っていたから何か菓子でも買ってあげようと思って……そしたらリアの選んだ菓子に、お酒が入っていたみたいで」
ロアンはニコニコしているリアをにらむ。
「さっきからハグしたりキスしたりしてくるんですよ! ほんとやめろよなこの」
ウィローはロアンの口をふさぐ。
「ロアン、リアに汚い言葉を使わないで」
立ちつくすロアンを見上げ、ウィローは聞く。
「リアに、キスされたの?」
「されました」
「返して」
無茶苦茶なことを言う。
「おれが、返してほしいですよ! でも、口にはされてません! 避けたから」
「じゃあいい……いや、よくない……いいか……」
ウィローは手で自らの髪をぐしゃ、とする。
「ウィロー!」
ちゅ、とリアはウィローの口にキスをする。
「いや、避けましょうよ!?」
ロアンは驚愕する。
「いいんだ、多分、リアの記憶には残らないから」
「記憶に残らないからって、リアのファーストキスをあなた」
リアはウィローに抱きついて、おなかにすり寄る。
「かっわいい……猫みたい」
「はやく回復魔法をかけてあげてくださいよ」
「うーん」
「……ウィロー?」
疑いのまなざしでロアンは、回復魔法を渋るウィローを見る。
「だって菓子を食べたのは、結構、前でしょう? もうそろそろ寝るよこの子。いいよ、ほっとこう。可愛いし」
「おれはもうこいつ近づきたくありません」
ロアンは(リアに汚された!)とばかりの顔をしている。
「呼んでくれたらよかったのに」
「攻防がすごすぎて呼ぶ暇なかったんです」
「うらやましい」
「……ウィロー?」
ロアンは再度、主人に対して疑いの目を向ける。
ウィローはリアを抱き上げて、ソファーに一緒に座る。と、リアはウィローの膝に甘えるうちに、すやすや眠り始める。
(可愛い。可愛すぎる……動けなくなった)
「ロアン、一個お願いがあるんだけど、ぼくの机の上にある本を持ってきてくれない?」
「……」
無言でウィローの部屋(相変わらず片付いていない)に入り、ロアンは本をとってきてウィローに渡す。
「ありがとう」
「……」
「そんな目で見ないでよ、傷つくなあ」
ウィローは苦笑いをする。
ウィローはソファーに座り、横向きに眠るリアの頭を膝に乗せている。本を片手に、リアの頭にもう片方の手を置いて。本当の猫みたいに、たまに、リアの頭を撫でている。
(血の繋がらない異性の家族の距離感としてこれは……どうなんだ?)
ロアンはジトーっとした目でウィローを見つつも、なんだか幸せそうなウィローの様子に、やめるようにも言えず。
(まあ、起きたときにリアが狼狽するなら……おれとしては、いいか)
さっさと起きろ、そして狼狽しろ……とリアに先ほどの恨みのこもった念を送りながら、ロアンは幸せそうに本を読むウィローと、その膝で寝ているリアのことを眺めている。