招待状(ヤンデレ気味 アステルとシンシア)
結婚式のあと、シンシアは手紙をもらうようになった。お茶会やパーティーのお誘いなどだ。それまでシンシアのことは噂にささやかれる程度だったが、結婚式で少しコルネオーリの社交界に存在が知られるようになったようだった。
ある朝、シンシアは夫のアステルに「手紙をもらうようになったんです」と相談した。アステルは一瞬、変な顔をしたが、シンシアにはいつもどおり優しく「城外の、お茶会やパーティーに行ってみたい?」と聞いた。シンシアは、一人ではとても参加できそうになかったので「アステルと一緒なら」と答えた。
アステルはこう言った。
「わかった。じゃあ、ぼくが選ぶから、シンシアにきた手紙を全部見せて」
シンシアは大人しく、夫に全部の手紙を渡した。アステルは手紙を読みながら、ずっと真剣な顔をしていた。
シンシアが「手紙の返事を書くのが大変です」と言うと、「メイドに代筆させるように」とアステルは言った。
「どうしてですか?」
シンシアは不思議だ。相手は気持ちを込めて書いてくださっているのだから、こちらももしお断りするのだとしても、気持ちを込めて返事を書かなければ、とシンシアは思っていた。
「そういうものだよ、自分で書いているお妃様なんていないよ」
「そうでしょうか?」
「とにかくぼくは、シンシアに直接書いて欲しくないんだ。シンシアが手紙を書きたいなら、ぼくに書いてよ」
(いつも一緒にいるのに?)
シンシアは首を傾げる。アステルの言ってることの意味がわからない、と思う。
手紙には、アステルが頷いてくれるようなパーティーは、なかなかなかった。結局、アステルが頷いてくれたのは、エルミスからふたりに宛てられた手紙だった。子どもが生まれてお披露目のパーティーをするから、来ないかという内容だった。
「じゃあシンシア、他の手紙はいらないよね。持って行ってしまってもいいかい?」
なぜかシンシア宛ての手紙を束にして、持って行こうとするアステルの白いローブの裾を、シンシアはつかむ。
「まって」
シンシアは少し勇気をだして、夫に言った。
「私、とっておきたいです。アステル」
「……どうして?」
アステルの青い瞳には、シンシアに隠そうとしているがーー不機嫌の色がある。
シンシアは気づかず、アステルに笑いかける。
「せっかくどなたかが、私にくださったものですから」
「……わかったよ、シンシア」
アステルはシンシアの机の上に、手紙の束を戻す。
「今度、ぼくもきみに手紙を書くね」
「いつも一緒にいるのに、書いてくれるの?」
「もちろん。ちゃんとシンシアを愛してるって、文章でもきみに伝えないと」
アステルは微笑む。シンシアの頬に手を添えて、キスをする。離れたあとで、シンシアの机の上の手紙の束をちらりと横目で見た。
(燃やしたかったのになあ)