タフィの町わんちゃんコンテスト
「おじいちゃん! 今度、ルアンを一日おかりしても良いですか?」
城の廊下で、アステルはミミ少年に話しかけられる。ミミの足元でルアンは(出かけられるのが嬉しい)という顔でしっぽをぶんぶん振っている。
「何をするの?」
「これにでるんです!」
「わんちゃんコンテスト……?」
どうも、飼い主と愛犬で出る催しのようだ。
アステルは心のなかに、嫉妬渦巻くのを感じた。でも、タフィの町には行きたくなかった。
最近のタフィ教徒の前に顕現したくなかった。無遠慮に五体投地されるのが嫌だった。
ミミは孫だ。子どもはともかく、孫には優しくしなければならない。
「わかった。ミミ、ルアン、楽しんできてね」
ミミとルアンは、さっそく受付で引っかかる。
「あの、失礼ですが……あなたのパートナーは、犬ではないのではないでしょうか……」
「そんなことないですよ!」
「わん!」
「えっと……」
対応に困る受付に、ミミは持ってきた犬の図鑑をめくって見せる。
「このおっきいわんちゃんです! ソリ引いてるやつ」
「わん!」
「えっ えーっと……」
受付の男は他国の魔物の知識が乏しく、参加を許してしまう。
しかし、審査員の目は騙せない。
「14番はどう見てもメガロパゴス・リコスじゃないか……?」
「巨大化される恐れがあるので、棄権扱いにしますか?」
「いや待て! 紺色の狼だなんて、魔王様の伝説のようじゃあないか 新年に縁起が良い」
「そうだそうだ! タフィ教徒は棄権を認めないぞ!」
タフィ教徒の熱い視線を感じながら。
ミミとルアンはそれはそれは頑張った。
ルアンは普通のわんちゃんよりはだいぶだいぶ賢いので、障害物競走もすごいはやさで駆け抜け、おやつ探し競争もすごいはやさで見つけた。
ルアンは楽しそうに生き生きしていたし、ルアンが勝ちまくるのでミミも楽しかった。
誰が見ても一位だったが、ルアンは魔物だとバレていた。だからミミの期待した賞は得られなかったが、審査員はタフィ教徒たちの感情を重視した。突き刺さる視線に負けたのである。
表彰式でミミは壇上にのぼり、ルアンのためにメダルをもらう。『特別賞』と書いてある。ルアンもとなりで嬉しそうにおすわりしている。しっぽをぱたぱた。
(お役に立てましたかね?)
その姿を「神々しい!」「魔王様の伝説の狼のようだ!」とタフィ教徒たちも涙を流して感動し、拍手する。
ミミとルアンは喜びいっぱい幸せいっぱいに魔王城に帰ってくる。ミミは固有の魔術が強すぎる弊害なのか他の魔術の腕がいまいちなので、ルアンの転移魔術で帰ってきた。
すると城の中は、がやがや。騒然としていた。
「え……何かあったのかな?」
「わん……」
ミミには聞こえないが、ルアンの耳は声を拾う。
「ミーロ様にも困ったものだ」「いや、ミーロ様は恐らく魔物の世界のことを案じて……」「とはいえまた牢に入られるとは」
「おかえり」
珍しくアステルはいつもの黒いローブを着ていない。襟付きのゆったりとした白いシャツにゆったりとした白いズボンを履いている。ラフな格好だ。
手の甲にちいさなトカゲのシンシアを乗せて、疲れきっている。シンシアは眠っているようだ。
ルアンは嬉しそうにアステルの周りを駆け回る。しっぽをたくさん振る。
(アステルさま、何かありましたか?
それよりほら、見てくださいよミミの手の中のもの!)
アステルは、得意げなルアンを撫でる。
「おじいちゃん、何かあったの?」
「そんなことより、ルアンのコンテストはどうだった?」
「特別賞だったよ! 犬のおやつをたくさんもらったから、おじいちゃんにあげるね」
「なにか、ルアンにあげたかい?」
「ううん、まだ。だって何かあげるなら、飼い主のおじいちゃんに聞かないと、ダメだと思うもの」
アステルは感嘆する。
「ミミは良い子だねえ……」
(どうしてミーロとこうも違うんだろう……)
「おじいちゃん、メダルもゲットしたんだ!
ルアンの部屋に飾ってあげてよ」
アステルがルアンを見ると、ルアンはミミのほうに鼻先を向けている。
「ミミ、それはミミが持っていると良いよ。
今日の日の記念にね」
「え、いいの? やったあ!」
ミミはルアンに抱きつき、ルアンも嬉しそうにする。
よかったねえ、と微笑ましく見ながら。
(今日はぼくも、わんちゃんコンテストに行けば良かったなあ……)
と思うアステルであった。




