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しょまのおまけ  作者: おおらり
一周目
5/44

騎士団の訓練 後編(ブロマンス風味のアステルとルアン)


 訓練後、ルアンは王国騎士団の同僚から声をかけられる。


「おい、ルアン。俺、アステル殿下に睨まれた。こえーなあの人」

「いつ、どこで」

「さっき、すぐそこで。アステル殿下が女の人を連れていて、首を伸ばして見ていたら気づかれたんだ。すぐ礼をしたんだけど、女の人をローブで隠してさ。睨まれてしまった」

「……」

(アステル様、来たのか)

 ルアンは意外だった。

 絶対に来ないと思ったのに。


「連れていたのは、すんごい可愛い、小柄な女の人だった。アステル殿下に妹君なんていたっけ? いないよな? ってことは、彼女なのかな?」

「……婚約者様ですよ」

「はー! なるほどね。俺は、お忍びデートを見ちゃったわけね」

「お忍びデートにしては距離が近すぎるでしょう」

 魔術院からここまで歩いて本当にすぐだ。


「アステル殿下の婚約者、可愛いかったなあ。喋ってみてえし、俺にもあんなふうに笑いかけてほしー」

 正気かよ、とルアンは同僚を見る。

「殺されますよ」

「ルアンでもそう言うってことは、やっぱアステル殿下っておっかないってことだよなあ。おまえ、よく、あの人の下でやれてるよなあ」

「……」


 確かにシンシア様が絡むと最近、嫉妬深すぎてこわいのだが。


(アステル様の下につく以外の選択肢は、私にはそもそもない)


 アステル様の下を離れるなんて考えたこともない。きっと、死ぬまで一緒だ。アステル様が年老いて魔術院の院長先生とかになって、そのときにルアンに護衛騎士が務まるかわからないが……そのときだって何らかの形でそばにいると思う。

 それが良いとか悪いとか好きとか嫌いとか考えたこともない。だってもうアステル様のそばにいることは日常だったから。ルアンにとっては、アステルとずっと一緒にいることが、自然なことだ。


ーーーーーーー


 しかし午後、アステルの研究室を尋ねると、アステルはルアンに機嫌悪そうな視線を向けたので、ルアンは(ウワー!)と思った。


「ルアン、シンシアを騎士団の見学に誘ったの?」

「誘ってません!」

「ふぅん、そう」


 アステルは机に向かい椅子に座っている。何か書いていた途中のようだが、ルアンが来たのでやめたようだ。指で机を一定のリズムでコツ、コツ、と叩きながらルアンと話している。


「……シンシア様、訓練について何かおっしゃっていましたか?」

「『ルアン、とってもカッコよかったですね!』って笑っていたよ」

 カリ、とアステルは机に爪を立てる。


(シンシア様、やめてくれー! アステル様の機嫌を損ねることをしないでくれー!)

 ルアンは心の中で叫ぶ。


「シンシアにはぼくがいるのに。ぼくは、シンシアをしっかり守れないとでも思われているのかな。だから騎士団の訓練を……」

 アステルは早口でぶつぶつと独り言を言っている。ルアンは、恋をすると人間はこうも頭が悪くなれるのか、と呆れる。


「アステル様、本当に……シンシア様が絡むとどうしてそうなってしまわれるんですか?」

「そうって?」

「どうしてそんなに、あた……いえ、嫉妬深くなってしまわれるんですか?」

「嫉妬深い?」

 アステルはぱちぱちと瞬きをしながら、ルアンのほうに体を向ける。

「だれが?」

「アステル様がですよ!」

 気づいていなかったのか、とルアンは思う。


「ぼくは、ただ、シンシアとずっと一緒に居たいだけだよ……シンシアのことがすごく大切で……手放したくないだけ。離れていってほしくないだけ」

「シンシア様は、離れていったりしませんよ」


(シンシア様は、そもそもアステル様の魔法がなければ、外を歩けない身なのに)

 ルアンは心の中で思う。

(大恩あるアステル様のもとを離れるなんて思えない。シンシア様は、私と一緒だ。……アステル様が恐れているように、シンシア様が他の人間に懸想して、アステル様を傷つけるようなことをするならーーそれこそ、私にとっても敵だ)


 ふと、アステルに聞いてみる。


「アステル様は、私のことは、誰か他の人の従者になるかもとか考えたことはないんですか?」

「?」

 アステルは眉をひそめる。

「何の話? 引き抜きでも受けているの?」

「受けていませんけど」

「ルアンが引き抜きを受けたとしても、ルアンはぼくのもとを離れないだろう」

「自信があるんですね」


「……違うとでも、言うの?」


 ルアンを見上げたアステルはーー不安そうな顔をしていて、やけに幼く見えた。


 『シンシアに離れてほしくない』という話をするときのアステルは、年相応の男性の顔だった。しかし『ルアンが離れるかもしれない』という話のときは、幼い少年の顔つきだった。


「いいえ、ずっとおそばにいますよ」

「そうでしょ」

 アステルは微笑む。

「ぼくは、きみのことを心から信頼しているからね」


「じゃあ、シンシア様のことは信じていないってことですか?」

 アステルは痛いところをつかれた顔をした。

「そういうわけじゃない。でも、シンシアが可愛すぎるから、心配になってしまうんだよ……」

 アステルはため息をつく。

「可愛いし、無防備だし、可愛いし、何考えているかわかんないし……可愛いから心配だよ」


 『可愛い』が多すぎる気がするが、『何考えているかわからない』は、まあ、そうだ。


(そう思うとアステル様とシンシア様って少し似ているな……いや、シンシア様はこんなに嫉妬深くはないか)


 同僚が「こわい」と言うように、最近、アステル様はシンシア様に恋をしてから、おかしくなっているところはあるけれど……。


(そこも含めてアステル様だから、おれはそんなアステル様を支えないといけないな)


「……何、ルアン? ぼくの顔に何かついてる?」

「いいえ、なんでもありませんよ」

 ルアンは微笑む。

「なんで笑うのさ」

「なんでもありませんって」

 そう? と訝しげなアステルを見ながら、ルアンは思う。


(やっぱり、アステル様のそばにいるのが、私にとっての日常だなあ)


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