聖なるどんぐり(トゥリ、ミーロ、アステル)
どんぐりがすごい速さで大木から落ちてきて、ミーロの腕を掠めた。
「痛っ」
ミーロの腕に傷がつき、ミーロは手を当てて回復魔術を用いながら木を見上げる。
銀髪に紫色の瞳の少年が木の上から、にやにやしてミーロを見ている。ミーロは怒る。
「トゥリフェローティタ、こら!」
「どんぐりを降らせるのって一度やってみたかったんです。楽しいいいい」
「これただのどんぐりじゃない……何これ!? なんで魔王城の庭に聖なる樹が生えてるの!?」
ミーロは降ってきたどんぐりに神聖力がこもっているのに気づいて驚愕する。トゥリが込めたわけではないようだ。
トゥリは木の枝に腰掛けて、足をぶらぶらしながら笑っている。
「ミーロは当たっても大して痛がらないからつまらない。次はたくさん落として、下を通った魔物を穴だらけにしたいなあ〜」
恍惚として語るトゥリ少年に、ミーロはぞっとする。
「とうさまああああ」
ミーロは執務室に駆け込み、アステルに泣きつく。
「とうさまあ! トゥリフェローティタをなんとかしてくださいよ! 貴方の子でしょう!?」
「? 違うよ、ぼくの子はきみだよ」
アステルは紙の束をまとめながら、何言ってるの? という様子だ。
「あいつほんと頭おかしいですよ!? △×◻︎◯◻︎×△ですよ!」
「何かあったの?」
ミーロはトゥリが聖なる樹にのぼって、『聖なるどんぐり』を加速させて落とし、魔物を痛めつけようとしていると話す。
聖なるどんぐりで遊ぶのをやめさせて欲しい、と訴える。
「というかあの木はなんですか!? 父様、気づいていましたか?」
「アサナトスの花畑の近くにあるどんぐりでしょう?」
「そうです」
「昔からあるよ。神聖力の高い、聖女か聖人かが下に眠っているんじゃない?」
「魔王城の庭になんでそんな危ないものが……」
「昔、ルーキスに聞いたけどルーキスも知らなかった。魔王城が建つ前からあるのかもね」
アステルとルーキスが長年放置してきたなら、きっとダメなのだろうと思いつつもミーロは聞く。
「切ることはできないんですか?」
「アサナトスの花って育つのに微量の神聖力が必要なんだ。神聖力のないぼくたちが花を育てるのに、あのどんぐりの木が必要なんだ」
ミーロはがくっと肩を落とす。『がっかり』と顔に書いてある。
「まあ、ミーロ。トゥリにはぼくから話してみるよ」
「約束ですよお?」
ミーロはぺそぺそしている。余程どんぐりが痛かったようだ。
アステルはトゥリを執務室に呼ぶ。
「トゥリフェローティタ、聖なるどんぐりの木で遊ぶのをやめなさい」
「はい、アステル様」
次の瞬間、シュンッと音がしてアステルの横髪を聖なるどんぐりが掠める。アステルの髪が2、3本落ちる。
きゃはっ と嬉しそうな声がした。
「アステル様はどんぐりの木で遊ぶなって仰られましたけど、どんぐりで遊ぶなとは仰られていない」
アステルは静かに話す。
「……べつに、ぼくになら構わないよ。最初にどんぐりを使ったのは、ぼくだから」
「?」
「でも、聖なるどんぐりにトゥリの神聖力があわさると弱い魔物には致命傷になりかねない。
どんぐりで遊ぶのは、ぼくだけにして」
「はい、アステル様! では……」
トゥリはアステルの近くまで行く。
トゥリは手のひらに乗せたどんぐりを、アステルに差し出して良い顔をした。
「食べて、アステル様」
さすがにアステルも驚く。
トゥリはどんぐりを指でつまんでアステルの口元に近づける。
「食べて、吐血してください。はい、あーん」
「いやだ、食べないよ」
「血を吐くのが嫌なんですか?」
「違う、かたちが嫌なんだ。ぼくはリスじゃないんだから、トゥリフェローティタ……」
アステルはふ、と笑った。
「ぼくに食べさせたかったら、どんぐりをクッキーにしたり、お料理をがんばらなきゃね」
後日、ミーロは魔王城で料理の本を見ているトゥリフェローティタに遭遇する。
また後日、バケツに水を入れてどんぐりをさらしているトゥリフェローティタを見る。
ミーロは呆れながら声をかける。
「聖水でも作っているの?」
「違います。どんぐりをクッキーにして、アステル様にあげるので」
「魔王に毒を盛るつもりってこと?」
「アステル様が食べたいそうなので、作っているだけですよ」
父様も物好きな……と思いながら、ミーロはどんぐりを選別するトゥリフェローティタの後ろ姿を眺める。




