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しょまのおまけ  作者: おおらり
マヴロス開拓記
47/57

魔物に伝わる子守唄 後編(ミーロとアステル)

急にBLになります。


 静まり返った魔王城の廊下に、靴音が響く。


 アステルの調子が悪い時期は多くの魔物に暇をだしている。身の回りの世話をする者と衛兵が、数えるほどしか残っていない。


 ミーロはアステルの部屋に近づくほどに、嫌な緊張感がひりひりと胸をさすのを感じた。



 廊下の先、アステルの部屋の前に、まるまって眠っている魔物がいた。ミーロはホッとした。


「ルアンおじさま」

 紺色の狼はぱち、と目を覚ますとミーロに近づき、体をすり寄せる。ミーロはしゃがみこむと、手でルアンの首まわりを撫でる。

 ルアンはかなしそうに鼻を鳴らす。


「おじさますら部屋に入れないのに、ボクが入れると思えない」


 それを聞いてルアンは、その場でくるくるとまわるとぐうぐう眠るフリをした。

 ミーロはピンとくる。


「父様、今、寝てるんですか? それなら入れるかな……」


 部屋の結界は、慎重なアステルが構成したとは思えないほどボロボロで、ミーロはすぐに解く。

 が、解いた者を攻撃する仕掛けがあり、ミーロはチリッと魔力にダメージを感じた。

 ミーロだからなんともないが、魔力の少ない魔物なら致死量のダメージだ。



 部屋に入ろうとした瞬間、床が異様に煌めいていることに気づく。部屋の窓がすべて割れ、硝子が床の全面に散乱している。窓の面積と硝子の量が合っていない。窓を修復しては何度も魔術で割ったか、割ったあとに倍にしたのか……いずれにせよメッセージ性があった。『入ってこないで』だ。


 ミーロは怯むが、むかつきもした。

 ミーロの大好きなルアンが、荒れ放題の部屋を見て、悲しそうに『伏せ』しているからだ。


(父様はおじさまには結界が解けないってわかってた。でももし、入っちゃったら、硝子でおじさまのふかふかの肉球が傷つくじゃあないですか……許せない、絶対にだ)


 靴に念のため保護魔術をかけ、部屋に入る。アステルはベッドの上でまるまって眠っていた。何故か、アサナシア教の聖典が近くに転がっている。

 ミーロは呆れてため息をつく。


(父様は350歳を越えても赤子みたいなものだ。子守唄でちょうどいいのかもね)



 ミーロはベッドに腰掛け、ルーキスの言った通りに、母の声色で歌を歌う。


 アステルは泣き疲れた顔で寝ていたが、ミーロの歌を聴くと表情がやわらいだ。すやすや……しかしすぐに目を覚ますと飛び起きて、呆然とした。


「クヴェールタ……」


 アステルに突然、肩をつかまれて揺さぶられて、ミーロは歌うのをやめる。


「ミーロ、クヴェールタに会ったの!? いったいどこで……」

「父様が何を仰ってるのかがわかりません。300年前にいなくなった罪深い魔物と、ボクが、どうして会うことになるんですか?」


 アステルはしゅん、とした。


「それならどうして」


「ルーキスお父様が歌っていた唄に聴き覚えがあったので、赤子の頃の記憶を再現してみました。ルーキスお父様に似ていると褒められたので、父様にも聴いていただこうと思い、参りました」

「ルーキスが歌ぁ? またまた、冗談でしょう、ミーロ」

 アステルはくすくす笑う。


「でも、その話が本当なら、ぼくは納得する。

 クヴェールタが育児放棄なんてするわけないもの」

「え?」

「ずっと変な話だなあって思っていたよ、きみを育児放棄したなんて。ルーキスにきみを連れて行ってもらえるように、そう見せかけたんじゃないかな? 彼は幻術がとても得意だったから」


 ミーロは、勇気をだす。


「父様は、あの、母と……母のことを聞いても構いませんか?」

「もちろん、構わないよ」

 アステルはさらりと応じた。


「クヴェールタは、可愛くて、とても面倒見の良い魔物だったよ。ぼくの一番のお気に入りの毛布で……ずっと友達だった。りんごをくれたときから」

「りんご」


 ミーロの青い瞳がキラっと輝いて、アステルの同じ瞳とかち合う。


「りんご!?」


 ミーロの名前は、りんごという意味だ。


「そう、りんご。シンシアには内緒にしてね、嫉妬しちゃうだろうから……。

 はじめての魔王城を不安がる幼いぼくに、クヴェールタは手品みたいにりんごを出してなぐさめてくれたんだ。

 きみとはじめて会ったとき、ぼくはそのときのことを思い出した。手品みたいに、赤いほっぺの男の子が出てきたから」


 懐かしそうに話すアステルの横顔を、信じがたい気持ちでミーロは見つめる。


「父様はボクに、テキトーな名前をつけたんだと思っていました……」

「古今東西の物語を読んでいるぼくが、息子にテキトーな名前なんてつけるわけがないじゃない」

 アステルはふくれる。ミーロは、それは子どもの頃に話して欲しかった……という気持ちだ。



 ミーロは、思いのほか落ち着いているアステルに伝える。

「父様、おじさまが悲しそうなので、床の硝子は掃除してください」

 アステルが指をかざすと、すべての硝子がパッと消えた。窓の硝子も元に戻っている。


 いいぞ、いい調子だぞ、とミーロは思う。アサナシア教の聖典に目をやる。


「それからこれは……これは誰かに見られる前にしまって……なぜアサナシア教なんですか?」

 

(まずいことを聞いた)


 酒に酔わないアステルが、素面で静かに泣き始めたのでミーロは、触れてはいけない話題だったと気づく。350歳代とは思えない美しい泣き姿で、父は泣く。


「ぼく……シンシアが見つからないなら、改宗しようかと思って……」

「え、ダメですよ。父様はタフィ教の生き神なんですから。ダメに決まっているじゃあないですか」

「でも、シンシアが見つからないとき、こんなにも苦しい。ぼくもシンシアも楽園に行けたら良いのに……」

「何言ってるんですか? 不老不死の父様を想って母様もがんばって転生してくださるのですから、」

「シンシア、どこにいるの……?」

「父様、落ち着いて」


 ミーロは泣くアステルの背中に手を置く。

 ミーロはイライラして……ムラムラもしてきた。


(おかしい時期の父様ってやりたい放題だ。ボクもやりたい放題させてもらおう。

 父様のペースに巻き込まれないほうが、父様も元気でるでしょうし)


 ミーロはそっ……とアステルをベッドに押し倒す。


「父様も以前、仰っていたようにアサナシア教の聖職者って同性愛者だらけですよ。父様、食べられちゃいますよ、ほら、こんなふうに……」


 ミーロはアステルの横髪をひと束すくうと、金色の髪にキスをする。

 アステルの青い瞳が歪む。


「――は違った」

「え? 父様、なんですって?」


 ミーロがアステルにキスするように顔を近づけたので、アステルはすかさずミーロの股間を全力で蹴ろうとする。避けられる。が、アステルは魔術でミーロを壁まで吹っ飛ばす。


「痛あっ♡」


 騒ぎを聞きつけて、ルアンがアステルとミーロの間に駆けてくる。


 ルアンは怒っているアステルを見上げる。

 ルアンは綺麗になった床を見る。嬉しそうに尻尾を振り、くるくると駆け回る。

 ルアンはミーロの頭に前足をポン、と乗せる。(ミーロ、おいたはダメですよ)というように。ミーロがアステルにいたずらしたときの対応としては、だいぶ優しい。


「う……おじさま……」

(おじさまがボクの苦労をわかってくれている! 労ってくれている!)


 ルアンは怒っているアステルのところまで行く。アステルは、ルアンに小声で謝ったあと。紺色の毛並みをもふもふしながらミーロに話す。

「歌に免じてあげるから、今日はもう帰って、ミーロ」


 ミーロは、言われなくても帰りますよっと、立ち上がる。

 部屋を出る背中に、アステルが声をかけた。


「また歌って」





 ミーロは足取り軽く、歩く。


「ミーロ」

 

 由来を知った自分の名前を口に出す。


「ミーロ いい名前だな」


 ミーロは機嫌よく、子守唄のメロディーを口ずさみながら、夕暮れの光差す魔王城の廊下を歩いていく。


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