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しょまのおまけ  作者: おおらり
未分類の話(しょま)
43/46

「ただ、それだけ」(宗教ホラー回)

あらすじ: タフィ教は宗教。アサナシア教からしたら邪教。やや後味悪いホラー回です。


 ロアン29歳の夏。


 ロアンは最近、言葉遣いの乱暴な生徒がクラスに入ってきて、どう導けばよいのかを悩んでいる。アルデンバランの拷問で兄弟を亡くした子どもで、授業態度が悪い。指摘すると「うるさいバカ、死ね」というようなことを言ってくる。

 ある日、剣技の授業中。他の子どもに教えている最中に石を投げられて、腕に痣ができた。


 その日の夕方、神聖医術院にごはんのお裾分けに行った際に、アステルがロアンの腕の痣を見つける。

「なにこれ」

「家でトーリと遊んでいて、ぶつけてしまったんです」

「そうなの……気をつけてね、ルアン」

 アステルが回復魔術を試みるが上手くいかず、リアが神聖力を用いると痣は綺麗に消えた。アステルは変な顔をしている。回復魔術が失敗したせいだろうか?



 その翌日、子どもがロアンを罵った瞬間、子どもの口が開かなくなり、なぜか子どもは窒息しかける。


 ロアンは慌てて駆けつける。ロアンには魔力が一切ない。魔力の動きや痕跡にも気づけないので、原因がわからない。

 クラスの生徒が20人、魔力を持つのは15名ほど。


「誰がこの子に魔術をかけた? 

 だれか、魔力の動きが見えたか?」


 みな、静かだ。表情もいつもどおり変わらない。授業を聞くときのようにきょとんとロアンを見つめている。


 クラスで一番年長の、しっかりした子どもが口を開いた。

「仕方がないですよ、ロアン先生。

 この子、村に歓迎されていないもの」

「村に?」

「はい」

 年長者の子どもは、なんてことない様子でそう言った。



 ロアンは授業中に子どもが窒息しかけたことの説明のために、子どもと一緒に家庭を訪問し、謝罪する。家の戸口で、父親は怪訝な顔で「うちの子どもはいじめられているのか」と聞く。ロアンは「いいえ、違うと思うのですが……原因究明につとめます」と返答する。


(魔術が原因だから、アステル様かルーキスさんを頼って調査してもらうのが良いだろうか?)

 そんなことをつらつら考えるが、その日はもう疲れきってそのまま寝てしまう。



 翌朝、子どもは全身、痣だらけで登校してくる。ぶたれつづけたように顔が腫れあがっている。子どもに理由を聞くと、答えない。

 子どもは人が変わったように怯え切って、暴言を吐いたりしなくなる。授業態度も真面目になる。ロアンは不気味に感じる。


 授業終了後に呼び出すと、子どもはロアンにひどく怯え、許しを請う。


「ロアン先生、ごめんなさい。

 先生に今までひどいことをしていたことがパパにバレて、ぶたれたんです。

 これからは、絶対に先生にひどいことをしません」


(ぶたれたってレベルじゃないだろう、コレは)

 ロアンは心配になる。


「私が原因で痛い思いをさせたんだね。

 私は気にしていないから、お父さんにもう君をぶたないようにと言ってあげよう」


(昨日、訪問したとき、子どもを愛している様子だったのに……どういうことだ?)



 ロアンは再度、家庭を訪問する。

 昨日と異なり、家の中に通されてお茶と果物がでてくる。

 そしてものすごい勢いで、父親は謝罪をする。


「先生に酷いことをしていたなんて、本当に申し訳がたたない。どうかうちの子を許してください」

「許すもなにも、怒っていませんよ」


 父親は懇願する目でロアンを見た。


「先生が怒っているかどうかは関係ないのです」


 ロアンはわけがわからない。


「どうか、うちの子を許すと仰ってください、そうでなければ私は我が子を殺すしかありません」


 父親のとなりに座る子どもは、青ざめた顔をしている。


「ちょっと待ってください。どういうことですか?」

「許してください」

「先生、ごめんなさい、許してください」

 謝り続ける親子に、ロアンは困惑する。


「もちろん、許します。

 許しますが、わけを聞かせてください」

 ふたりはホッとした表情を見せるも、わけを話してくれることはなかった。ずっと謝り続けるふたりに、気味の悪さを覚えてロアンは「本当に気にしないでください」と言って家をあとにする。



 翌日から、平和な日々が訪れた。

 荒れていた子どもは最初、怯えた様子だったが、心を入れ替えたように過ごすうちに友達にも恵まれ楽しそうにしている。


 しかしロアンは、子どもが窒息しかけたときのおだやかなクラスの様子や、家庭を訪問したときの必死な親子の様子が忘れられなかった。


 

 次の休日、テイナのもとにリアが遊びにきた。ロアンは刺繍をしているふたりに先日の一件をぼやく。


「そういうことがあって、なんだか気味が悪い」


 テイナとリアは顔を見合わせる。


「アステルが何かしたんじゃないの?」

「え?」

「そんなに怯えるなんて、おかしいでしょ。

 アステルが何かしたと考えるのが自然じゃない?」

「アステル様が何かしたって……いったい、なにを?」

「なにかはわからないけれど、アステルが小言を言ったりしたんじゃないかしら」

「小言を言ったくらいでこんなことになりますか?」


「ロアンはタフィ教徒じゃないからこのあたりの話が伝わらないのよねえ」

 ねー とテイナとリアは顔を見合わせた。

 テイナが説明する。


「あなた、タフィ教徒にとって、魔王様は絶対の存在なの。タフィ教徒は魔王様に信仰を捧げるかわりに魔王様の魔力に守られていると考える。

 あなたが思っているより魔王様を崇拝しているし、重んじているお家があるの。

 そういうお家で、たとえば、魔王様が『子どもが悪いことをした』と指摘したら、もう大変よ。

 その親御さんは、子どもがアステル様に殺されると思って、殺される前に折檻しました、と伝えたのではないかしら」

「そんな馬鹿な」


 温厚で優しいアステルが『子どもを殺す』と脅すとはロアンには思えなかった。それに、アステルが一枚噛んでいるとすると、教室で子どもを窒息させるような魔術をかけたのはアステルという疑惑が生まれるではないか。

(アステル様に限ってそんなことはありえない)



 そこにちょうど、アステルがやってきた。果物を腕いっぱいに抱えて、村でもらったのだと顔をほころばせながら。

 ロアンがどう聞いたらいいか迷っていると、リアがアステルに聞いた。


「アステル、ロアンのためにタフィ教徒の家に行った?」

「うん……内緒にしたかったんだけど、行った」

 アステルは正直に答えた。

 ロアンは心臓がぎゅうっとなった。


「アステル様、子どもを窒息させようとしたのはアステル様なんですか?」

「ううん、違う。ぼくは頼んだだけ」

「頼んだ?」


「ぼくの友達のルアン先生がきみのクラスの子にいじわるされている? って聞いたら、みんな、『うん』って言ったから、『やめさせてほしいんだ』って。

 朝、遊んでいる子どもたちに頼んだだけ。教室には入っていない」


 ロアンは背筋がぞっとした。


「結果、どうなったかを見に、きみのあとをついてその子の家には行ったよ。

 そしたら何故かきみが謝ってたから、きみが帰ったあとに『ちがうんだよ』って話はしに行ったの。『ルアンが悪いんじゃないよ、その子が悪いんだ』って。『ぼくの友達のルアンをその子がいじめたから、クラスの子どもたちがやめさせようとしたんだ』って。

 そうしたら『魔王様、この悪い子を殺すべきでしょうか?』って聞かれたから、『殺すほどのことじゃないよ』って言った。

 ただ、それだけ」


 テイナが笑う。

「全身あざだらけにもなるはずね」


 呆然としているロアンに、リアが説明する。

「アステルにその気がなくても、タフィ教徒にとってアステルのすべての行動は、重すぎるの。

 魔王のお友達をいじめて、魔王が家にやってきた。魔王様の『殺すほどのことじゃない』は、つまり、半殺しにしろと言ったも同じだわ」


「アステル様、それを理解していて仰ったんですか?」


 ロアンの表情に、アステルは困った顔をした。


「ぼくは、ルアンに酷いことをしている子がいるって知って、やめさせたかっただけ。

 ぼくがちょっと言うだけで、大変なことになるかもしれない……ってことはわかってたけど、ほかに方法がわからなかったから、言っただけ。

 ただ、それだけだよ」


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