ルームメイトの余談
ひとつ前の話の余談です。
ロアン32歳の冬。
ロアンは学校の職員室で、一冊の本を前に考え込んでいる。
本のタイトルは『魔王の倒し方』。
故国コルネオーリの魔術研究者が書いた、魔王アステルを倒すための魔術研究の本である。
(これはアステル様も読んでおいたほうがよい本だろう)
アステルを倒そうとする者がこの本を参考にするのであれば、読むことは必須だろう。
しかし、ロアンは悩む。
淡々とした文章の裏に、著者の魔王への憎しみが滲み出ている。これを読んでしまったら、アステルは傷つくに違いないと感じたのだ。
「え、打倒魔王の魔術研究の本? 発売前に読んだよ」
「発売前に!?」
おそるおそる話をふったロアンに対し、アステルはけろっとしている。
「ルーキスが持ってきてくれたんだ」
(ルーキスさん、どういう情報網を持っているのだろうか……)
チラ、とロアンはアステルに目を向ける。
目が合うと、アステルはニコっと笑った。
「すっっっごく面白かったよ! ぼくの寿命を縮める一助になってくれそう!」
ロアンはずっこける。
「あと、この本を書いた人はぼくのこと大好きなんだなあって思ったよ。ぼくを倒す方法をずーっと考え続けてくれているんだねえ」
「ぼく、この人に興味がある。会いに行ってみたいよ」
「やめてください! 危ないから」
「えー? そうかなあ。案外、仲間になってくれるかもよ」
ニコニコしているアステルに、ロアンはため息をつく。
(心配したんですけどね……まあ、アステル様がごきげんなら、いいか)




