ダンスの練習 (1周目 アステルとルアン)
ブロマンス〜ほんのりBLくらいです。
アステル19歳 ルアン17歳 秋
「ダンスの練習に付き合ってくれない?」
「え? 誰の話ですか?」
「きみに練習に付き合ってほしいんだけど」
「は?」
アステルの研究室を片付けに訪れたルアンは、机に本や紙を山盛りにしたアステルに声をかけられる。
「……婚約者様についてなんだけれど」
「またその話なんですね」
冬に14歳になったシンシア姫がくることが決定してから、アステルはその話ばかりで、ルアンは少々呆れはじめている。
「彼女は病を持っているから昼間のパーティーは免除されると思う。でも、初夏にある陛下の誕生日パーティーの夜の部には出なきゃいけないんじゃないかって気付いたんだ」
「アステル様、ダンス下手ですものね」
「ダンスなんて、ぼくの人生に不要だって思っていたんだ。パーティーは嫌いだから強制参加の初夏の陛下のパーティーか、エルミス兄さんにむりくり引っ張られたやつしか行かないから」
「私、アステル様が踊ったのを見たことがないですよ」
「そう、ぼくはパーティーで一度も踊ったことがない。『踊りましょう』って誘ってくる人間の誘い自体が煩わしいと思っていた」
「でも、彼女はもう妻になると決まっている人だし……14歳の女の子に恥をかかせるわけにはいかないだろう? 婚約者様に踊りたいって言われたら、断れないよ。断ったら可哀想だ。しかも彼女はあまり目が見えない、ぼくがリードして踊るのが確定だ」
「話はわかりましたが……」
ルアンは眉をひそめる。
「さっきなんて言いました? 私と踊るって言いませんでした?」
「そうだよ、ルアンと踊るって言ったよ」
アステルは面白そうに笑っているが、ルアンはふたたび、(はあ?)という顔をしている。
「なんでですか? だれかテキトーに女性を捕まえて、練習に付き合ってもらえば良いじゃないですか」
「そのテキトーに捕まえて、が問題なんだよ。これから婚約者様が来るっていうのに、他の女性に気を持たせるわけにはいかないだろう?」
「使用人とかは……」
「メイドだって、『花を贈る日』にぼくに花を持ってくる子もいるよ。やっぱり、気を持たせるわけにはいかないよ」
「真面目すぎませんか? アステル様は、エルミス殿下を見習ってもう少し遊んだらどうですか?」
「ルアン、ぼくがそういうの嫌いなの知ってるくせに……それにぼくを好きだって寄ってくる女の人ってちょっと、怖いんだよ」
(まあ、下心ありありだろうからなあ……)
アステルが幼少期から男女ともにアプローチを受けることがあり、(人の好意が気持ち悪い)、(人間って、何考えてるかわかんない)と気味悪がっていたのを思い出し、ルアンは考え込む。
「それで、ぼくは名案を思いついたんだ。ルアンと踊れば良いじゃん! って」
「意味がわからない。身長、私のほうが高いと思うのですが……」
「ぼくとそんなに変わらない」
アステルはムキになっているようだ。
チラ、とだけアステルを見て、ルアンは続けた。
「とにかく。私、14歳の姫君とは比べものにならない体格ですよ。ミルティア様と踊るのはどうですか?」
「母上はダメだよ。ダンスが上手すぎる。からかわれそうでイヤだし……それに比べてルアンのダンスはぼくと、どっこいどっこいだろ? だから、ちょうど良いかなって」
失礼な、とルアンは思う。
「それに、ダンスは大事な人と踊るもので、その練習なわけだから、ルアンがちょうど良いなって思ったんだ」
「……」
(なんだこの人)
最初に話をもらったとき、ルアンは何を気色悪いことを言い出したんだ、と思った。でも、今の言葉は『ルアンが大事だから練習にちょうどよい』と聞こえた。そんなことを言われたら、断れない気がするのだが。
(いや、やっぱりダメだろう)
ただでさえアステルと仲が良すぎると、騎士団のメンバーからも言われるルアンだ。それを「何を気色悪いことを言う」と、否定してきたルアンだ。
「お断りします」
「えー!?」
「アステル様に悪評がたつのが耐えきれないので……」
「なんで悪評がたつのか、ぼくにはわからないよ」
アステルはむすーとした顔でそっぽを向いた。




