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しょまのおまけ  作者: おおらり
エピローグ後
34/46

ミミの名付け

エピローグ前後。曇れます。


 魔王城の謁見の間に、人間の子どもの姿をした魔物が連れて来られる。子どもはボロ雑巾のような姿で、暴力を振るわれた跡がある。

 子どもは、人間と魔物の混血だ。ボサボサの髪は、小麦色と珊瑚色の中間色だ。青緑色の瞳をして、耳が、とんがっている。


「人間の村ひとつ、幻術でおかしくさせたらしい」

「村ひとつ!?」

「すっげえ」

「この子の母親がこんな化け物は手に負えないと、魔物に引き渡したって話だ」


「ちがう!!!」

 

 周囲の魔物の声に、ボロボロの子どもは声を張り上げる。


「みるからに、アステル様に似ていらっしゃる。血を引いていないわけがない」

 魔物たちの興奮した様子は、新たな仲間が強い魔物だという確信からなのだが、子どもには伝わらない。


 なぜなら子どもは、人間でいたかったからだ。



 そこに魔王がやってきて、配下の魔物たちは跪く。子どもは、巨大な魔物の気配に怯える。子どもの怯えに気づくと、魔王は魔力をおさめる。

 魔王アステルは、玉座に座らずに子どものすぐそばまできた。そして屈むと、子どもと目線を合わせようとする。子どもは顔をあげる。

 子どもは、アステルの瞳にあるのは、憐憫だと感じた。


「みんな、下がるように。この子とぼくと、ルーキスとミーロだけで話をさせてほしい」


 魔物たちは謁見の間から出ていく。



「ミーロ」

 アステルが振り向くと、壁にひとりの魔物が立っている。

「なんですか、父様」

「きみの子だ、どうみても」


 ミーロと呼ばれた金髪碧眼の魔物を、子どもは見上げる。子どもは魔物の美しさにびっくりし、惚れ惚れともする。耳の形が子どもにそっくりだ。

(このひとが、ボクのパパ?)


 しかしミーロは、冷たい声で言った。

「心当たり、ありません」

「きみは心当たりのない落とし胤ばかりでしょう」

 アステルは呆れ声だ。


 ルーキスが口を開く。

「ミーロ、育てなさいとは言わない。

 名前をつけてあげなさい」

「……」


 ミーロは、男の子のすぐそばまで来る。

 アステルと異なり、立ったまま、見下ろす。

 子どもは父親の目を見て、ぞっとした。

 まるで羽虫でも見るかのような目だったからだ。


「じゃ、ミミで……だってどうせ、ミミックです」


 子どもは、深く傷ついた顔をした。


「ミーロ!」

 アステルは立ち上がると、息子に怒鳴る。

「なんですか、父様」

「この子がどんな気持ちでここに来たか、どんな気持ちで今、きみと対面したのか、わからないの?」


「はい、わかりません」


 ミーロと呼ばれた魔物は興味なさそうに、ローブを翻すと、去って行こうとする。

 去り際に、アステルにこう言葉をかけた。


「父様がボクに興味を示さなかったみたいに、ボクも、その子に興味はありません。強くて父様に役立つ者になるというなら……つまり、同胞になるのであれば、別ですが。

 野垂れ死ぬなら、その程度の魔物だったというだけの話でしょう」


 アステルは、困惑している。

 ミーロが去ったあと、困惑しながらもミミに向かい合うと、回復魔術を行使する。腫れと痣のない、綺麗な顔になったミミに、小さな声でつぶやいた。

「……ごめんね」




 ミミは、冬の魔王城の庭で泣いている。

 すると、もふもふした紺色の犬がやってきて、ミミのとなりに座った。大きな犬は、あたたかく、冷え切ったミミの体をあたためてくれる。

「キミは、何?」

 犬はミミの涙をなめる。

 ミミはおどろくが、そのうちにくすぐったくて笑いだす。

「なんて名前? ボクの友達になってくれる?」



「ルアンくんですよ、ミミ」

 黒いスーツを着た男が、ミミの後ろに立つ。

 謁見の間でルーキスと呼ばれていた人だとミミは気づく。ミミの父親だというあの男に「名前をつけるように」と命じていた。

 なのできっと、偉い人だ。


「ルアン?」

「ルアンくんは、アステル様の親友です」

(親友? 犬が魔王の親友?)

 ミミは首を傾げる。


「ミミは、人間の世界に近いところで暮らしたいと思いますか?」

「そんなこと、できるの? ボクは魔物なのに」

「ええ。タフィのコミューンという町があります。そこであれば、魔物であっても、人間らしく暮らすことも可能です。

 私と一緒に、そこで暮らしましょう」

「貴方は誰?」

「私はルーキス。もう年寄りですので、ちょうど、引退したいと思っていたところです。アステル様はごねるでしょうが、貴方は理由にちょうどいい。貴方にとっても、私にとっても利のある取り引きだとは思いませんか?」


「私は、貴方の養父になりましょう。父というには、少々、年老いすぎていますがね」


 ミミはその後、ルーキスは父ミーロの養父でもあったと知った。さらに祖父アステルのことも12歳から知ってるという。

(本当に、すっごくおじいちゃんだ!)

 ルーキスは厳しかったが、ミミに魔物の世界のことを教えてくれた。ミミは、タフィの町で残りの少年期を過ごすこととなった。


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