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しょまのおまけ  作者: おおらり
エピローグ後
33/46

ルーキスがミーロを叱る話

ぎりぎりムーンに行かないBL感ある話。

エピローグ後の魔王城。ミーロからみて養父がルーキス、実父がアステル。


 ルーキスがアステルの執務室に入ると、金色のさらさらとした髪の青年がアステルの机で眠っている。ルーキスは眉間に皺を寄せて声をかける。


「ミーロ、」

「!」

 寝たふりをしていた青年は起き上がる。サラサラの金色の髪は顎の近くまで伸び、人間の耳をしている。金髪碧眼の見た目はアステルそのものだが、魔力の質が異なる。ルーキスのしかめ面を見て、青年はにこ、と笑った。魔物らしい、美しい笑顔だ。


「ルーキスお父様は、騙せませんね」

 ミーロの声は、アステルよりも低い。

「そりゃあそうです。アステル様はどこです?」

「さあ? ボクも知りません。ボクを身代わりにして、どこへ遊びに行かれたのでしょう? 

 父様(とうさま)の真似をして机で寝たふりをすれば、多くの魔物は近寄ることすら恐れ多いと避け、この部屋に入ることすらしません」


 ミーロは自らの両耳をもむ。すると本来のミーロらしい、すこし尖った、エルフのような耳があらわれた。


「ミーロ、ちょうどよい。貴方にも話があったのです」

「はい」

 ミーロはルーキスに促されてアステルの執務室のソファーに座る。ふたりは向かい合う。


「貴方、アステル様の評判を貶めるのはやめなさい」

 ミーロはわらった。

「父様の評判を? このボクが?」

「先日、アステル様と寝たと訴える大柄な魔物が魔王城に来て……運悪く本物のアステル様を見つけてしまった。家庭菜園で見知らぬ者に求愛されて、相当困ってらっしゃいましたよ」


 ミーロは楽しそうだ。

「それは父様、さぞや気持ち悪がっていたことでしょう」

「ええ、『ぼくにそんな趣味はないのに』『ぼくにはシンシアだけなのに』と嘆いておられました」

「ああ、可哀想な父様……でも父様も、ボクだって気づいておられるはずです。でも父様は、何も言えないのです」


「だってボクは、父様のためにそれをしているので」

 ミーロは優雅な仕草で胸に手をあてる。

「父様に敵対する人間、魔物、そのなかでも御しやすそうな者と寝てるだけの話です。ボクは魔王城の諜報部員ですから」


 何も間違ったことはしていない、というミーロのきらきらした瞳に、ルーキスはため息をつく。


 ルーキスはミーロが赤子の頃から知っている。それなりに……不器用ながらも可愛がってきたつもりだ。ミーロは幼い頃は、気が小さい魔物で、金髪碧眼の可愛らしい容姿も相まって、みんなに愛されて育ったといえる。

 それが、こんな『目的のためなら老若男女、種族を問わず、だれとでも寝る』ことで評判の、どこか欠けた魔物に育ってしまった。


(何故なのか)

 ミーロはミミックだが、ミミックと知っている者はほとんどいない。だいたいの者がサキュバスかインキュバスだと誤解している。

 何故ミミックなのに、こんな育ち方をしたかの理解が、ルーキスにはできない。

 ミミック種はみんな『騙して』何かを手に入れることに喜びを感じるようだが、ミーロにとってのそれは情欲であり、本人に言わせれば愛でもあるという。


 ルーキスはミーロを睨む。

「……ミーロ、貴方の口止めが軽いから、アステル様に変な噂がたってしまう。反省なさい」


 ミーロはふふ、と笑う。

「むしろ父様はシンシア様しか知らないのですから、父様に噂が立っているのは笑えますよね」


「つまり、ルーキスお父様も、寝るなとは仰らないということですね?」

 ミーロはルーキスに笑いかける。

「父様のために、口止めをしっかりしろと仰られたいんですね、わかりました」


「ミーロ……貴方が嫌ならいつだってそんな仕事はやめてよいのです。ですが、貴方……」

 ルーキスは、黒い髪をかきあげる。

「老若男女、人間でも魔物でも、喜んで寝ているでしょう?」


 ミーロは満面の笑みで笑った。

 この笑い方はアステルそっくりだとルーキスは思った。


「はい、その通りです、ルーキスお父様!」


 そのあとのミーロの魔物的な表情は、ルーキスにはクヴェールタを彷彿とさせた。


「ボクの容姿が役に立つのは、だれかを喜ばせられるのは、ボクにとってこの上ない喜びなのです」



「ボクは機会があればルーキスお父様とも寝てみたいですね。最長老、長寿の魔物って興味があります」

「お断りします、気味の悪いことを言わないように」

 ルーキスはミーロに呆れ果てる。


「ミーロ、貴方、まさか、アステル様と寝たいとも思うのですか?」

 途端にミーロは幼子のような顔をして、頬を赤らめてもじもじした。

「……父様はダメです」

 もじもじ、と両方の指先をつんつんして合わせながら、ミーロは目線を泳がせる。

「いえ、そりゃあ……求められて、父様と寝れたら幸福かもしれませんが……そんなことは起こりえません。だって、父様はボクを愛していない」

「そうでしょうか?」

「だってボクは、不義の子だから」


 ふたりの間に沈黙が流れる。


「ミーロ、ですが、愛なくして育てることができるでしょうか?」

「ぼくの幼い頃の話なのであれば……シンシア様と、ルアンおじさまは、ぼくを愛してくださっていました。特にシンシア様は、実の子でもないぼくを、本当に可愛がってくださった。今でもぼくは、シンシア様には頭が上がりません。

 でも父様は、ボクを愛さなかった。いつも愛してるフリだけで、心の底からは愛さなかった」


「今も、ボクは、父様の役に立たなければ、何の価値もない、ただの一介の魔物にすぎません」


 ルーキスはなんとなく、ミーロがこう育ってしまった原因は、アステルにあるのではないかと思う。


 ルーキスは掠れる声で、ミーロに聞く。

「私は?」

「? ルーキスお父様は、ちゃんと、愛してくださっていましたよ?」

「そうですか」

「はい、そうですよ」

 柄にもないことを聞くルーキスに、ミーロは微笑む。


(しかし……ミーロという良い名をつけたのは、アステル様ではなかっただろうか……)

 ルーキスは親子とは難しい、と思いながら、アステルに瓜二つな青年をぼんやりと眺める。


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