ハッピーシンシア、その後(いちゃいちゃの攻守交代)
朝、シンシアが目覚めると、シンシアは昨夜のままの黄色いドレス姿で、なぜかコルネオーリ城のアステルの部屋で寝ていた。
「シンシア、おはよう」
……。
そして、なぜか、アステルはシンシアを押し倒している。アステルも昨夜と同じ服装だ。しかし、薄いグレーの背広は脱いで椅子にかけてあるようだ。アステルが白いシャツの襟に巻いていた青いタイは、ほどけて、襟についているだけだ。
アステルは白い袖をまくって、シンシアのことを両腕の間に閉じ込めている。
シンシアは真っ赤になる。
「アス……アステル、殿下? 朝、ですよ?」
「そうだね、朝だね」
「なにかあったのですか?」
「なにも覚えていないの? そう……」
アステルは目を伏せる。
そのあと、何か言いたげに、シンシアを見つめた。
「アステル?? なにか、怒っていますか???」
「怒っているわけじゃないよ。ただ、ぼくはきみに、いたずらしたい気持ちなだけ。もう一晩中、いたずらしたい気持ちだっただけ」
「あの、朝なんです、殿下……殿下???」
アステルは、シンシアの口に軽いキスをする。
シンシアは口を一文字に結んでいる。恥ずかしすぎるからだ。
「アステル、あの、恥ずかしいの。明るいから……」
「明るいところでするキスは、嫌い?」
アステルは微笑む。
アステルは、シンシアと両手を繋ぐ。両方、恋人繋ぎにする。アステルは起きあがるとともに、シンシアのことも引き起こす。シンシアはホッとする。がーー
アステルは、そのままシンシアに、何度もキスをする。長いキス、短いキスーー恋人繋ぎした手に、キスするたびに、ぎゅっと力を込めながら。
シンシアは、本当に恥ずかしくて、顔をそむける。アステルは、シンシアの頬にキスを落とすと、キスするのをやめる。
そして、繋いだ手をほどくと、言った。
「これは、仕返しだよ、シンシア」
「え?」
「ぼくはきみが昨夜、ぼくにしたことをしているだけ」
「え???」
記憶になく、ぽかーんとした顔のシンシア。
「きみ、お酒を飲んで酔っ払って、すごく……可愛かったよ」
「よ、酔っ払ったんですか、私!?」
(お酒を飲んだことも、味すら覚えていないのに!?)
「そうそう、こんなこともぼくにしたよ」
アステルは、シンシアの肩に頭を乗せて、首に擦り寄る。シンシアはもう、耳まで真っ赤だ。
「ほ、ほほほ本当に、そんなことをしたんですか?」
アステルは、こくりと頷く。
「とにかく、ぼくは、そんな状態から、きみが寝ちゃって。一晩中きみに触りたくて仕方がなかったのに、我慢していたわけ」
(触りたくて仕方なかったのに???)
アステルがそんなことを言うなんて、珍しい。
シンシアは頬を染めたまま、そっぽを向く。
「……夜のうちに、触ってくれても、よかったのに」
「ダメ。幸せそうに寝ているきみを、起こせないから」
アステルは、首を横に振る。
そのあと、いたずらっぽく笑いかけた。
「でも、もう、起きたよね?」
「だから、ぼくは今から、きみを抱くから」
シンシアは、朝一、アステルの顔を見上げたときーー(そういうつもりなの? 朝から? どうして? なんで?) と思った。でも話の流れから、アステルはただ、仕返しがしたかっただけなのかなーーとホッとしていたところだったのだが。
「アステル、私、昨夜、そこまではしてないんじゃ……」
「でも、誘った」
アステルは、シンシアの肩をそっと押して、シンシアをベッドに寝かせる。
襟の青いタイをとって、捨てる。
シンシアの白い髪に、それが落ちる。
シンシアは起きようとする。
「ねえ、朝なの、アステル。さっきからずーっと言ってるのだけど、朝なの。 明るすぎるの! 待って、お願いだからーー私の部屋に行くとかーー」
「いやだ、遠い」
アステルは、笑う。
「これも、きみが昨夜言ったことだよ、シンシア」
(昨夜の私は、本当に、何をしてたのー!?)
もう、お酒は飲まない。飲んだとしても、のまれないようにするーーと、シンシアは、心に誓う。




