アステルとイリオスで話してるだけの話(BL感ある)
あらすじ:イリオスはアステルの親友の男色を疑い、ロアンは秘密のお友達の男色を疑う。
イリオスとアステルは、アズールの街でごはんを食べる。イリオスは魔術で顔を変えているが、アステルにはイリオスに見えているようだ。
ごはんを食べたあと、ふたりは並んでアズールの街を歩いている。
「眠くなっちゃった」
アステルは目をこすっている。
「そういえば、イリオスはどこに泊まっているの?」
「アズールの教会に泊まっています」
「そりゃそうだよね」
「そういえば、ぼくの親友が、おかしなことを言うんだよ。きみのこと、お友達ができたんだよって言ったら、きみのベッドで寝るなってぼくに言ったんだ」
アステルは笑い話のように話したが、何の話かまるでわからず、イリオスは目をぱちぱちとする。
「親友は、男性ですよね?」
「うん、そう。5歳から友達で、ずっと一緒に住んでて、家族みたいな感じ。親友が結婚して、家を出たんだけど……」
「ぼくの親友は、ぼくがひとの寝床で寝ることをすごく警戒しているんだ。以前、ひとの寝床で寝たら噛むって言われて、本当に噛まれたことがあるんだ」
イリオスは興味を示す。
「噛まれた? どこを」
「左肩」
「痛かったですか?」
「とっても」
イリオスは考えた末に、聞く。
「それは、アステルに男色の気があるから怒られたということですか?」
「男色ってなに?」
「男性が好きなのかと聞いています」
アステルは笑いながら手を横に振った。
「ないない。ぼくの恋人はすっごく可愛い女の子だよ」
「では、その親友に男色の気があるのでは?」
「え……? 普通に女の人と結婚して、子どもがいるんだよ」
アステルは眉をハの字にする。
「男色じゃないと思うけど……でもね、ぼくにすごく過保護なんだ」
「アステルの親友は、アステルの警戒心が薄いので、かわりに警戒しているということですね」
「ぼくって、警戒心うすい?」
「ええ、そう思います」
(そうではなかったら、私と遊ばないでしょう)
イリオスは、その親友のことを不憫に思う。アステルの親友が人間だか魔物だかは知らないが、そんなに大切にしているアステルのとなりを歩いているのが、人を虐めることにしか興味がないようなイリオスだからだ。
となりを楽しそうに歩くアステルの笑顔を見て、イリオスが考えることといえば、いつどうやって血の色を確認しようか、とか、そのときに神聖力を当てるチャンスはあるかどうかとか、首を絞めてみたいが、流石に逃げるだろうな、とか、そんなことばかりだからだ。
「だれかととなりで寝るのって、添い寝するのって幸せなのに、それをぼくの親友は、みんながみんな、その――性的なこと? 目的だって思っているのかな?」
「アステルは見た目が良いですからね」
(見た目が良くて警戒心が薄いから、暴力の標的にされやすいと、その親友さんは考えているのでしょう)
そしてその考えは合っている。
ただ、イリオスは性暴力には興味がなかった。誰かと性的なことをするなんて、ゾッとするからだ。
イリオスはアステルに打ち明けてみる。
「アステル、私は添い寝が嫌いです」
「え!」
アステルは目をまるくする。
「子どもの頃から誰かのそばで寝ることを、幸せに思ったことなんて一度もありません」
「え!? 寄せ集まって寝るのが、幸せじゃないの?」
(寄せ集まって寝る?)
アステルの中にいる魔物の正体は寄せ集まって寝るような獣なのか、とイリオスは考える。
「私は生きものが苦手ですから、人と同じベッドでは寝たくありません」
「人間も生きものに入るの?」
「人間が一番苦手かもしれません」
「イリオスは、人の体温とか、触られるのも苦手ってこと?」
「そうですね」
イリオスは話す。
「握手も好きではないです、もちろん、ハグも好きではありません」
「でも、信者に求められたときに握手をしているのを見たよ」
「本当に嫌で嫌で仕方がないと思いながら、しています」
「よくあんな笑顔で握手ができるねえ。じゃあ、キスも嫌いなの?」
「嫌いです」
「それは恋人いたとき、大変だったよねえ」
イリオスは特に何も言わなかった。
(でもそんな風で――寂しくないのかな、イリオスは)
アステルはイリオスの話を聞いて、ルアンが言った『人の寝床に入らない』は、いろんな人がいることを思ったら、正しいことなのだな……と感じはじめる。
ーーーーーーー
翌朝、タフィのコミューンで。
朝、アステルは学校に向かう途中のロアンとすれ違う。
「おはよう、ルアン」
「おはようございます、アステル様」
「ねえルアンって、男のひとが好きなわけじゃないよね?」
「えっ?」
すれ違いざまに今日の天気を聞くように、アステルがとんでもないことを聞いてくる。
「アステル様、私、妻も子どももいるんですよ」
「そうだよね」
アステルはさらっと返答して、じゃあまたね、と去っていく。
あとに残されたロアンは(なんであんなことを聞いてきたのだろう)(例のお友達の影響だろうか)(やっぱりアステル様の秘密のお友達は男が好きなのか?)(その人は、アステル様が好きなのでは?)と、やたらと心配になりながら学校へ向かう。




