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しょまのおまけ  作者: おおらり
後日談(後章)
24/46

タフィ村のは ろ うぃーん(アステル ロアン リア)

◯アステルの場合


 アステルはルーキスから突然、バスケットと仮装を渡される。

「どうぞ、アステルさま」

「なにこれ???」

「タフィでは、今日は仮装をして『お菓子をくれないといたずらをするぞ』と言って親しい者のところをまわる日です。元々はカタマヴロス様が、魔王城ではじめた文化をタフィのコミューンに取り入れたものです。お菓子がたくさんもらえますよ」

「本当!?」

 アステルは嬉しそうにする。ルーキスが用意してくれたのは狼男の仮装のようだ。アステルは耳としっぽをつける。

「私に練習でやってみてください」

「ルーキス! お菓子をくれないといたずらするぞ!」

「はい、どうぞ、アステル様」

 ルーキスは事前に用意していたお菓子の包みをアステルの手に渡す。

 アステルは目を輝かせる。

「ありがとう、ルーキス! ぼく、行ってくるね」



 授業が終わったあとのロアンしかいない職員室に、急にオオカミ男が現れる。

(今日は子どもたちも仮装して学校にやってきて大変だったな……)

 ロアンは、事前にテイナからタフィの文化を聞いたのでたくさんお菓子を用意しておいた。子どもたちに人気なのはやはり魔王様やタフィ様をモチーフとした仮装で、ツノや鳥の羽をつけている子が多かった。

(でも、魔王本人は、おおかみ男なのか……)


「がお! ルアン! おかしをくれないといたずらするぞ!」

「具体的には何をするんですか? アステル様」

「えっ?」

 アステルは考えていなかったようで、戸惑う。考えたあと、小さな声で言う。


「ぼく……ルアンのお菓子をぬすむよ」

「良いですよ、ぬすんで」

 ロアンの机の上には子どもたちに配ったあとのお菓子がバスケットに入ってたくさん置いてある。

「ほ、本当にぬすむよ? 良いの? 良くないよね」

 アステルが慌てているのを見て、ロアンは微笑む。

「あー 盗まれるのはやっぱり困るから、このお菓子をアステル様にあげましょう」

 アステルはホッとした顔をした。そしてロアンからチョコレートをもらうと、とっても嬉しそうな笑顔を見せた。

「ありがとう、ルアン!」

「どういたしまして」




 神聖医術院の机に向き合っているリアのところに、急にオオカミ男がやってくる。

「がお! シンシア! おかしをくれないといたずらするぞ!」

「いいわよ、いたずらして。アステル」

「ぇ?」

 リアはベッドに座ると、アステルに手を差し伸べる。アステルはその手をとるが、頬を赤らめる。

「え、ぇ? いたずらってベッドの上ですることじゃないよ もっと可愛いことだよ」

 リアはアステルの口にキスをする。

「シンシア! シンシアがぼくにいたずらしてどうするの?」

「おおかみ男さんが可愛くて、つい……」

「ぼくがおおかみになったらどうするつもり?」

「願ってもないわ」

 リアはアステルに微笑む。アステルは真っ赤になって――リアの口にキスを返して、さっと逃げ出す。

「あ、アステル! お菓子は!? ……行っちゃった……」

(アステルは相変わらずだわ。でも、そんなところも愛おしいのだけれどね)



◯ロアンの場合


 アステルが戻ってきて、ロアンにつけ耳とつけ尻尾を渡す。なぜか頬を赤らめている。何かあったのだろうか。

「ぼくはもう十分お菓子をもらってまわったから、今度はロアンの番だよ」

「ええ? 私もやるんですか? コレ……」

「もちろんだよ」


 ロアンは渋々、つけ耳とつけ尻尾をつける。

「アステル様、お菓子をください」

「え!? いたずらは!?」

「私はアステル様にいたずらできるような身分ではないので……」

「でももし、ぼくにいたずらしていいとしたら、ルアンだったら何をするの?」

 ロアンはいろいろ考えを巡らせる。

 すごく熟考したのち。

「アステル様ががんばって集めたお菓子バスケットをもらいますかね」

「それはダメだよ! はい、これ、ぼくが用意したお菓子だよ!」

 ロアンはアステルから謎のお菓子をもらう。

「なんですか? コレ」

「さっき、ぼくが焼いたクッキーだよ」

「何を焼いたんですか?」

「だから、ぼくが焼いたクッキーだよ」

「……ありがとうございます」

 なんだか黒焦げで歪なかたちで、食べられるのか? と疑問に思いながらロアンはアステルからクッキーをもらう。



 気乗りはしないが、アステルに引っ張られてロアンは神聖医術院に向かう。

「リア、お菓子をください」

「シンシア、ルアンにお菓子をあげるんだよ」

「ふふ! ロアンに耳としっぽがついてる 番犬みたい わんわん」

 リアはくすくすと笑う。ロアンはムッとする。

「忠犬と呼んでほしいですね」

「ルアンは狂犬だよ」

 アステルが後ろでぼそっとつぶやくのでロアンはジトーっとした目でアステルを見る。


「べつにいたずらしてもいいわ」

「な!」

 アステルが反応する。

「では、そうしましょう」

「え!?」

 アステルが慌てる。


 ロアンはリアの髪を三つ編みにする。

「可愛くしてね、ロアン」

「リアの髪ってほんっと結びにくいんですよね、かたすぎる。昔からですけどね」


 ふたりを見ながらふくれていたアステルの髪がいつの間にか背中まで伸びている。仲間はずれが嫌だったようだ。

「ぼくも結んでほしいよ」

「じゃあ、私が結んであげるわ、アステル」

 アステルの髪をリアが結んで、リアの髪をロアンが結ぶ。それぞれ、ひとつ結びを三つ編みにしている。


 髪型が完成するとリアは言う。

「じゃあ、今度は私ね! ふたりとも帰って良いわよ」

「え、ここ、ぼくの家だよ」

「アステルはここにいて良いわよ」



◯リアの場合


 リアは耳としっぽをロアンから譲り受けて、茶色のワンピースを着る。まず陰鬱屋敷に向かう。

「こんばんは、お父様」

「シンシア」

 ルーキスは相変わらず何を考えているのかわからない。おおかみ女の格好に特に反応はない。

「お菓子をくださらない? それか、いたずらさせてほしいわ」

「いたずらとはどのようなものですか?」

「お酒でも飲もうかしら」

 飲む気はないが、リアはそう言ってみる。

 ルーキスはため息をつき、無言で娘にお菓子の包みを渡す。

「ありがとう、お父様」

 リアは微笑む。


 

 リアは、学校に戻ったロアンを帰宅途中の道で捕まえる。

「がお! ロアン! お菓子をくれなきゃいたずらするわ!」

「リア、暗いなかから出てきてすることじゃない……あやうく叩っ切るところだった……」

「ロアン先生、刃物持ち歩くのやめたら?」

「せめて、短剣は持ち歩いていないと落ち着かないんですよね」


「いたずらって具体的には何をするんですか?」

「テイナに10代のロアンの恥ずかしい話をするわ」

「特に心当たりがないですが、アステル様と比べてリアはなんて悪い子なんだろう……」

「心の声がダダ漏れだわ、お兄ちゃん……アステルはなんて言ったの?」

「目の前のお菓子をもらうんじゃなくて盗むと」

「あはは、可愛い」

 笑っているリアに、ロアンは無言でクッキーを渡す。

「神聖医術院まで送りますよ」

「え? いいのに」

「むしろなんでこんな暗い時間までひとりでうろついているんですか? 危ないですよ」


 ロアンに付き添われて神聖医術院に帰ると、リアと同じ髪型のアステルは食卓に腕と顔をつけ、眠っていた。

「髪が長いと、女の人に見えるわ」

「そうですか? 私は全然そう見えないですが……アステル様はアステル様ですよ」


 リアは揺すり起こす。

「アステル、起きて、アステル」

「うーん むにゃむにゃ……」

 アステルの目の前におおかみリアの顔がある。

「わ!……可愛いよ、シンシア」

 目を覚ました瞬間、アステルは恋人の可愛さに微笑む。


「がお! アステル! お菓子をくれなきゃいたずらするわ」

「いたずら、していいよ」

「え!?」

「髪を結ぶくらいのことなら……」


 リアはニコッとすると、提案する。

「じゃあアステルにおんなのひとの格好してもらおうかしら?」

「え! いやだよ!」

 アステルは慌てる。

「髪が長いんだから、スカート履くくらい良いじゃない」

 リアがふくれると、アステルは急いで髪をほどく。と、サラサラ長い髪になる。

(ミルティアさまにそっくりだなあ)

 ロアンがそう思ったところで、アステルの髪がシュルシュルと、ロアンくらい短くなる。

 リアは目を丸くする。

「わ! かっこいい!」

「女のひとの服を着るのはいやだよ」

「似合うと思うのに〜」

「これで許して、シンシア」

 アステルの手にたくさんのクッキーがのったお皿があらわれる。

「手作りなら許すわ」

「もちろん、手づくりだよ」

「許すわ。ありがとう、アステル」

 リアは嬉しそうに微笑んで受け取る。ロアンは気づく。

(おれがもらったやつよりまともだ、焼き直したのかな?)

 焦げてつぶれたカエルみたいだったクッキーは、可愛いくまさんのかたちになっていた。



 ロアンが帰ったあと。

 リアは着替えて、お茶を入れてアステルと飲みながらくつろいでいる。

「アステル、美味しいわ、クッキー」

「どんな味がした? ぼく実は、味見する前に寝ちゃったんだ。1回目焼いたとき味見してセーフだなあって思って、2回目はもっと上手くできたから、大丈夫かなって思って」


 リアはアステルにちゅっとキスする。

「こんな味よ」

「……上手にできてよかったよ」

 アステルは頬を赤らめたあと、嬉しそうに微笑んだ。


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