表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しょまのおまけ  作者: おおらり
後日談(前章)
20/46

リア、16歳になり、ルーキスとお酒を飲む


「我が娘が酒に弱い?」

「はい」

 ルーキスは、書斎を尋ねたロアンと話をしている。

「16歳になったら絶対に飲みたがると思うんですけど、あまり飲んでほしくないので、まずルーキスさんの前で飲んで欲しいんです。失態を経験すれば、控えるようになると思うので」


 ルーキスは非常にめんどくさそうな顔をする。

「それは、私に何の得がありますか?」

「アステル様がすこやかに育ちます」

「ふむ……すこやかさが魔物に必要かはよくわかりませんが、アステル様のためにもなるのであれば、よいでしょう」


「私としても娘に醜態を晒されて、家の評判を落とされたくはない」

「魔王様が住んでるだけで評判は百点満点なのでは?」

「そうだとしても、ですよ」

 ルーキスがどこまで本気かがいまいち掴めず、ロアンは疑う。

(これ、実は、リアのために引き受けてくれていたりしないか?)


ーーーーーーー


「シンシア、16歳おめでとう!」

「ありがとう、アステル。これで一緒にお酒が飲めるわね!」

「ぼくはのめないよ、まだ13歳だもの」

 アステルはきょとん、とする。

「体は20歳なんじゃないの?」

「リア、何を期待しているかわからないですが、アステル様はお酒に強いです」

「え、そうなの」

「そうなの?」

 アステルも(初耳だよ)という顔をしている。


「それで、リアには今晩、ルーキスさんとお酒を飲んでもらいます」

「何が楽しくてお父様とお酒をのまなきゃいけないのよ!」

「楽しいとか楽しくないの話ではなく、タフィの習慣なので行ってきてください」

「そんな習慣、聞いたことないわ」

「アステル様にタフィ教の新ルールとして取り入れていただきました」

「書類にサインを書いたんだ、『アステル』って。手形をぺったんしたんだ」

「ふたりして何してるのよ! もう!」

「リア、ルーキスさんも飲みたそうでしたから、行ってきてください」

「お父様が? 本当?」

 リアはぷいっと目を逸らしながら言う。

「……なら、仕方ないわね」


ーーーーーーー


「シンシア、ルアンくんが貴女が酒に弱いのではないかと心配していました」

「そうなの?」

 ルーキスの書斎で、ルーキスが用意したお酒をリアは飲む。ひとくち飲んで、おどろく。甘めの果実酒のようだ。

「わ、美味しい!」

「何が良いのか考えて、リーリアも好きだった甘めのお酒にしてみたのですが」

 ニコ、とリアは笑う。嬉しかったからだ。

 リアは、ニコニコニコニコ、としはじめる。

「……シンシア?」

「とっても美味しいわ、パパ!」

「ぱ」

 リアの満面の笑みに、ルーキスは動揺する。

「ママが好きだったお酒だなんて、最高に幸せだわ」

「ま」

 リアはグラスに残ったお酒をぐいっと飲み干すと、向かいのソファーから移動して、ルーキスの隣に座る。ルーキスは娘の奇行に引き気味で、間隔を空けようとするが、詰められる。


「ねえ、パパ。パパっていつも私に冷たいよね」

「……」

 ルーキスは困惑している。

「いえ、冷たくしているわけでは……」

「もっと優しくして」

「……どうしろと言うのですか?」

 リアは、ルーキスに腕を広げてみせる。

「ぎゅってして!」

 ルーキスはすごく嫌そうな顔をする。

「身体接触は、あまり好きではありません」

「じゃあどうやって私は生まれたのよ」

「……」

「……リーリアを、私の好き嫌い以上に愛していたというだけのことです」

「じゃあ、娘も愛せるはずじゃない」

 リアは手を広げたままだ。ルーキスはハグには応えないが、さらっと告げる。

「愛しています」

「!」

 リアは目をまるくしたあと、にへら〜っと笑う。ルーキスの言葉が夢のように嬉しかったからだ。

「えへへ」


 ルーキスは困惑しながらニコニコニコニコ、とする娘を見ている。

「パパがハグが嫌いでも、私は好きだから、パパの嫌がることをするぞ〜」

「やめなさい、シンシア……?」

 無理くりハグされたことで、ルーキスはリアの体の熱さに気がつく。背中に手を添え、憐れみの目で見る。

「貴女、本当に酒に弱いのですね」

 ルーキスはリアの肩を押して離れる。

「充分、当初の目的は達成できたでしょう。もう、帰って寝なさい」


「やだやだ、もっとパパと一緒にいるわ!」

 リアは書斎を歩き回ると、その奥の部屋に勝手に入ろうとする――のを慌ててルーキスは止める。

「人の寝室に勝手に入るものではありません」

「だって、眠いんだもの」

「だから、帰ればいいと」

 ルーキスはイライラしている様子だ。

「わー パパのベッドだあ」

 リアは勝手にルーキスのベッドに寝転ぶ。

「……」

 ルーキスは、人に自分のベッドで寝られるのがすごく嫌そうだ。リアはぽんぽん、とベッドをたたく。

「パパもとなりでねて」

「何故」

「パパがとなりで寝てくれなきゃ帰らないわ」

 ルーキスはため息をつくと、黒い背広を脱いで椅子にかけて、リアのとなりに横になる。


「ルアンくんの話の意味がわかりました」

「?」

「我が主をすこやかに育てたいと。貴女、アステル様とお酒を飲むのはやめなさい」

「? うーん」

 リアはもう、寝落ちしかけている。

「ねえ、パパ」

「なんですか」

「眠くなったから、とんとんして」

「とんとんとはなんですか?」

「背中をとん、とん、ってたたくの。子どもの頃、ママがよくやってくれたの。でもパパにやってもらったことってないんだもの」

「ああ」

 ルーキスは(とんとん)を理解したあと、もうどうでも良くなってきて、リアの言う通りに背中を叩いてあげる。

 リアはうとうと、としている。

「ねえパパ」

「なんですか」

「大好きよ」

 ルーキスがリアの背中をたたく手が一瞬止まる。そのあと、また一定のリズムで叩く。娘が寝入ったと気づくと、ルーキスはため息をつく。

「おやすみなさい、シンシア。願わくば起きたときに、もう二度とお酒を飲みたくないと思ってくれると良いのですが……」



 翌朝、リアは目を覚ます。ルーキスのベッドの上で。となりに寝巻き姿のルーキスが寝ている。リアは悲鳴をあげる。

「お、おと、どうしてお父様と私が一緒に寝ているの!?」

「シンシア、耳に響く声を出すのはやめなさい。私は今、寝入ったばかりですよ」

 仰向けのルーキスは、目を瞑ったまま話す。

「私のベッドから出て行って!」

「何を言っているのですか、ここは私のベッドですよ。貴女が私のベッドで寝ているんです」

「な、なななんで!? そういえばロアンにお父様とお酒を飲むように言われたような……?」

 リアは起き上がり狼狽している。

「わ、私、昨日何をしたの!?」

「甘えていました、まるで赤子のように」

「甘えた!?」

「とんとんしてほしいと」

 リアは、顔から湯気がでそうになる。

 ルーキスは薄目を開けてリアを見上げる。

「シンシア、もう16歳なのですから、親離れしなさい」

「してるわ! 仕事もしてるのに!」

 リアは両頬に手を当てる。もはや、赤い顔というより青い顔をしている。

「私、もう絶対、お酒を飲まないわ!」

「そうしていただけると、たいへんありがたいですね」

 ルーキスは眠ろうとふたたび目をつむる。リアがバタバタと部屋を出ていく足音を聞いて、ようやく熟睡できそうだと、ルーキスは安堵する。



ーーーーーーー


「アステル、おはよう!」

「? シンシア、おはよ……」

 アステルが目を覚ますと、リアがベッドにしのびこんで、となりで寝ている。

「あの、アステルにお願いがあるんだけど、口直しさせてほしいの!」

「くちなおし……?」

 アステルはまだ寝ぼけており、むにゃむにゃとしている。

「私の背中をとんとんしてほしいの!」

「とんとんってなに?」

「え、知らないの? お母様にやってもらったことない? 背中をとんとんってするのよ」

「ぼくも眠いよ」

「お願いアステル、とんとんってしてみて」

「うーん とん、とん、とん……」

「アステル、寝ないで! アステルってば……」

 アステルはリアの背中に手を置いたままふたたび寝てしまう。すごい近い距離ですやっと寝てしまった。

(こ、これはこれで幸せかも……)

 リアは先ほどのことを忘れようと、目をぎゅーっとつむり、二度寝を試みる。目を瞑ると父の姿が浮かんできたが、となりで眠るアステルのことを考えて忘れようとする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ