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しょまのおまけ  作者: おおらり
一周目
2/46

お酒を飲んだハッピーシンシア(いちゃいちゃ夫婦)


 エルミスの子どもの誕生日の食事会に、アステルとシンシアは参加していた。結婚したあとすぐのことだ。本当に家族しかいない食事会だからと、アステルはシンシアを伴って参加した。


 エルミスが、シンシアのグラスに「16歳おめでとう」とジュースを注いだ。

「美味しいですね!」

 シンシアがびっくりしたように笑う。

 ……そのあとのことだ。


 シンシアの顔が真っ赤だ、とアステルは気づく。足取りもふわふわしている。

「シンシア?」

 シンシアはアステルにもたれかかってくる。


「うーむ、アステル。お前の嫁さんは酒に弱いな」

「兄さん、シンシアにさっき注いだ飲み物はお酒だったの?」 

(断りもなく、なんてことをしてくれているんだ、この兄……)

 アステルはエルミスを冷ややかに見る。


「あんまり飲ませないほうがいいな。こんなの一人でパーティーに行かせたら格好の餌食だぞ」

「一人で行かせることなんて一生涯ないよ」


 そもそもパーティーに行くこと自体、シンシアに断らせ続けているアステルだ。


「まあ、酒に弱いと早めにわかってよかったな。今日はもう、さっさと帰ったほうがいいな」

 エルミスはそう助言する。


 シンシアは、アステルの服の袖口をひっぱる。

「何? シンシア」

「おいしかったです、もっと飲みたいです」

「ダメだよ、シンシア」


 シンシアは、ニコニコニコニコとしている。

(なんだこの……何? 可愛いすぎる なにこれ?)

 シンシアは、ずーっとニコニコして上機嫌でアステルを見ている。

(でも兄さんの言う通りだ……無防備すぎる。他の人に見せたくないし、シンシアだってこんなの見られたくないでしょうに)


 シンシアはアステルに擦り寄ってくる。

「……」

「はやく帰れ、アステル」

「そうするよ、兄さん」

「私、まだ、帰らないわ」

「いや、帰るよ、シンシア」


 エルミスの前で敬語だったのも忘れている状態なので、とにかくシンシアを連れ出して酔いを醒まさせないと、とアステルは思う。




 アステルはシンシアと手をつなぎ、城の廊下を歩く。

 すると急に、シンシアが廊下から続く一室の扉を開けて、アステルの手をひいて連れ込んだ。

 だれかの衣装部屋のようで、薄暗い。エルミスの妃の一人のだろうか? ひと気はない、が……

(なんで???)

 アステルは混乱する。アステルはお酒に強いので、お酒に弱い人間の考えることがまるでわからない。


「シンシア?」

 シンシアは、ドアを背に立つアステルと手をつなぐ。恋人繋ぎで。そのままアステルの肩に頭を乗せて、擦り寄ってくる。それから急に笑顔を見せる。


「アステル、いま、わたし、すっごく幸せな気持ちです!」

「……よかったね、シンシア」

「だから、こんなこともできちゃう!」


 シンシアはつま先立ちになって、アステルにキスをする。何度も、何度も。長いキス、短いキスーー 

「まってまってまって」

 アステルはシンシアの両肩をおさえてキスをやめさせる。シンシアはニコニコしているがーーアステルがキスを返してくれない、と気づくと寂しそうな顔をした。


「……ダメなの?」

「ダ、」

(ダメじゃない。正直嬉しい、なんだこの……なにこれ???)

 未だかつてない積極的なシンシアに、アステルの顔は真っ赤だ。

(でも、場所がダメでしょう、これは)

 知らない人の衣装部屋でいちゃいちゃするのはちょっと、と理性を働かせる。

 はやく完成しろ、帰還の魔法。


「私はアステルが好き」

「いや、そうじゃなくて……それはわかってるんだけど、」

「ね?」

「ね? じゃありません」

 アステルに抱きついて擦り寄り、甘えてくるシンシア。このまま、ここで、いちゃいちゃしたいという気持ちにかられるがーー理性が邪魔をする。

(いやだって、どこで止まれるかわかんないし……)

 

「シンシア、ここじゃダメだよ」

「どうして?」

「どうして、って……シンシアの部屋じゃないから、」

「私の部屋まであとどのくらい?」

「それは結構、かかるけど……」

「イヤ」

「イヤ、って……」

 アステルは困惑する。


「……わかった、ぼくの部屋に行こう。近いから。それならいいかい?」

「うん」

 満面の笑みでニコニコしながら、シンシアはアステルに抱きつく。


(今後、絶対にぼくの前以外で飲ませない。絶対に。)

 アステルは心に誓う。




「着いたよ、シンシア ってーー」

 シンシアは、すごく眠そうな顔をしている。

 嫌な予感がしつつ、アステルはシンシアを抱き上げると、ベッドにおろす。シンシアはアステルの手をとってーー恋人つなぎにして、ベッドにアステルも招く。願ったり叶ったりなのだ、が、

「アステル、」

と満面の笑みで笑いかけたあと、シンシアは、そのまますやすやと寝入ってしまう。


 横向きで寝入ったシンシアのとなりに、アステルは仰向けになる。

 ため息をつく。


(こんなおあずけの食らわされ方ある? これはもう、寝ているシンシアにいたずらしても許されるんじゃない?)


 となりを見ると、シンシアは幸せそうにむにゃむにゃと寝ていた。


(だーめだ。起こせない、これは)


 アステルは悔しがりながら、もう自分も寝てしまえ、と、寝ようという努力を重ねる。

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