「ちょっと、お兄ちゃんって呼んでみようかしら」「やめろ」
後日談前章あたり。ロアン18歳、リア14歳
エルミスとアステルがアズールの家の庭で仲睦まじそうに遊んでいる。
「エルミス兄さん!」
アステルが『兄さん』と呼びかけるたびに、エルミスは嬉しそうだ。
(エルミスはアステルが好きすぎるけど、アステルもそっけないのかと思えば、なんだかんだエルミスが好きなのよね)
仲睦まじい兄弟なのだ。
(「アステル!」「兄さん!」ひしっ……って感じ。愛に溢れているわ)
兄といえば、リアにも兄のような存在はいるのだが。
(エルミスとアステルみたいな関係ではないのよね)
決して仲が悪いわけではないのだが、そっけない兄なのだ。
その兄、ロアンは昼食を準備しているようだ。手伝おうかと思い、リアは台所に行く。
ロアンはエルミスが来ているとやや機嫌が悪い。前回、エルミスが来たときに『仲悪いの?』と聞いたら、『あの方が私を一方的に嫌っているだけですよ』と言ったが、とてもそうは見えない。どちらかというとリアの目にはロアンが嫌っているように見えるのだ。
無言でロアンの調理を手伝うも、機嫌悪そうなロアンに、リアは横から体をぴとっとくっつけてみる。
「ごきげんなおして、ロアンお兄ちゃん」
野菜を切っていたロアンの動きが止まる。
(……?)
不思議に思ってリアがロアンを見上げると、顔を真っ赤にして固まっている。リアは新しいおもちゃを見つけた気持ちになる。
「なに照れてるの? ロアンお兄ちゃん」
「リア、やめろって。刃物持ってるんだから、危ない」
「ロアン兄さん!」
リアは、アステルの口調を真似する。ロアンは堪えきれずに吹き出す。ぷるぷるしながら刃物を置く。
「ほん、本当にやめろって、リア、ちょっと」
「ロアンお兄さま! ごきげんなおった?」
立っていられなくなりしゃがみこみ、ロアンは真っ赤になって片手で笑いを抑えている。その肩に両腕をまわして、リアはロアンの背中にハグをする。
エルミスが帰ったあと。リアはまた、ロアンで遊ぶ。
「ロアンお兄ちゃん、一緒に遊ぼ〜」
「リア、もう本当にやめましょう」
ロアンは慣れてきたようで、表面上は冷静に対処する。驚いたのはアステルだ。目をまあるくしている。
「え!? いつから兄妹になったの!?」
「ずっと兄妹みたいなものだわ、ねえ? お兄ちゃん」
ロアンはもう、リアを無視している。
「いいな〜 ぼくもシンシアにお兄ちゃんって呼んで欲しいよ」
「え!?!? 絶対にダメ!」
「えー?」
アステルは眉毛をハの字にする。
(アステルをお兄ちゃんと呼ぶなんて、絶対に絶対にダメ!!!!)
しかし、リアはうまい言い訳が思いつかずに変なことを言う。
「だ、だって、どちらかというとアステルが弟でしょ!?」
アステルはちょっと考えて、リアの両手をとって、満面の笑みを向ける。
「シンシアお姉ちゃん!」
「それもなんか違う!」
「シンシアお姉ちゃん、大好き!」
「ち、違うのにダメって言えない! あわわわわわ」
両手を握られているので逃げることもできず、真っ赤になってアステルから目を逸らしているリアを見て、ロアンは心の中でアステルのことを応援する。
(アステル様、いいですよ! もっとやっちゃってください!)




