飲みくらべ (ウィローとロアン)
ウィロー15歳 ロアン13歳 旅路にて
ウィローと旅をはじめて、少したったある日のこと。立ち寄ったギルドで、ロアンは酔っ払いにからまれる。酒場はその酔っ払いが所属するパーティーの十数名が占領している。
「ここはガキがくる場所じゃねえんだよ」
「ガキじゃない!」
わあわあ言い合いになっていると、魔石を納品していたウィローが奥の部屋から出てくる。
紺色のローブを着たウィローは、意外そうな顔をする。ロアンの服の首元を掴んでいるガラの悪い酔っ払いに声をかける。
「ぼくの連れが何かしたかい?」
ウィローの声と姿の酒場にそぐわない雰囲気に、お酒を飲んでガヤガヤとしていた集団はひととき、静まり返る。
「悪かったね」
「……おまえも子どもじゃないか」
「ああ、ごめんね。勘違いさせて。
ぼくは若づくりなだけなんだ、実は、25歳なんだよ」
(ウィロー、何言ってるんですか!?)
ロアンは床に下ろされたあと、ケホケホとしながら、大柄な男に呑気に喧嘩を売り始める主人に慌てる。
「嘘をつけ嘘を」
大柄な男は、馬鹿にしたように笑う。
「子どもじゃないなら酒、飲めるだろうな」
「もちろん」
「はーん じゃあ、俺と飲みくらべろ。
お前が負けたら、奢ってもらおうか」
男は、ウィローが魔石の納品と引き換えに得た金銭の入った皮袋を指さす。
「じゃあぼくが負けたら、おじさんが奢ってね」
ウィローは美しく微笑む。
「ウィロー、まだ15さ むぐぐ」
「何言ってるのロアン、ぼく、25歳だよ」
ウィローはロアンの口を塞ぐ。
15歳はこの国でも、まだお酒の飲めない年齢だ。ロアンは小声でウィローに反発する。
「何、寝ぼけたことを言ってるんですか!
飲みくらべなんて危ないこと!」
「まあ、見てるといいよ」
ウィローと男は飲み比べをして、あっという間に勝ってしまう。パーティーのメンバーが、冗談だろう? という顔をして、面白がって次々に挑戦するが、ウィローは水かジュースを飲んでいるかのように勝ってしまう。まるで酔わずに、パーティーの一団をあっという間に酔いつぶしてしまった。
「ウィロー、すごい……本当にお酒強いんですね」
「小さいころ兄さんのを間違って飲んじゃったんだけど、ちーっとも酔わなかったんだ。
でも実は、美味しくもないんだ」
「美味しくないのにこんなに飲んだんですか?」
「そう。美味しくないものでおなかが膨れて嫌な感じだから、これから魔術でどうにかするつもり。
さて。ここは彼らの驕りなわけだから、ロアン、何食べる?」
ロアンは戸惑う。
ふたりは少し離れたテーブルに移ったとはいえ……酔い潰れた男たちが視界に入りながらご飯を食べるのは、食欲が進まないなあと思ったのだ。
「この死屍累々の環境で食べるのは、たいそう図太くはないですか?」
「図太く生きていこうよ、ロアン。
ほら、甘いものもあるみたいだよ」
ロアンは興味をそそられた様子で、メニューの紙を手にとる。ウィローはふふ、と笑った。




