ロアンとウィローのお茶会(82話の後日談)
ロアンとウィローは、ふたりでお茶を飲んでいる。
「ウィロー 先日は、嘘をついてごめんなさい」
「嘘?」
ウィローは目をまるくした。ロアンが嘘をつくというのが想像できないようだ。
「リアが熱がでていると」
「ああ」
ウィローは合点がいったようだ。
「大丈夫でしたか?」
「大丈夫って、何が?」
「……? いえ、リアが結構怒っていたので。ウィローに『真剣にお嫁さんになりたい』って伝えるって言ってたんですけど」
(ちょっとロアンをからかってみようかな)
とウィローは思う。
「押し倒されたよ」
「は?」
「リアってば情熱的だよね。枕で殴って押し倒してキスしてくるんだ」
「枕で殴っ……? 押し倒……? キ……?」
状況を想像して、ロアンは思考が停止する。
(枕で殴ったってことは、リアはそれを、ベッドの上でし……たのか?)
「……ウィローに手を出……違……手を出させようとしたってことですか?」
そうだとしたら、ロアンは怒りがわく。
(何が『真剣にお嫁さんになりたいと伝える』だ!)
「いや、ロアンが思ってるほどの考えはあの子にはないよ。ぼくがキスされたら困るって知ってたから、キスしただけなんじゃないのかな」
「ウィローの困ることをするってわかってたら、嘘に協力なんてしなかったのに……」
ロアンは悲しそうな顔をする。
「ぼくがわかってたから大丈夫だよ」
「え?」
「いずれ、なにかもう一回ある気がしてたんだ、警戒もしてたんだ。最近おとなしかったから忘れてただけ」
「もう一回?」
ロアンの頭に疑問符が浮かぶ。
「それで、ウィローは押し倒されてキスされて、リアに手を出したんですか?」
ロアンは混乱しつつ、聞く。
「手を出してたら、どうする?」
ウィローはロアンをからかう。
「ど、どうもしませんけど……ちょっとリアには早いかな、とは思いますけど」
ロアンは顔を赤くして目を背ける。
(ロアンは、さてはテイナとまだ寝てないな)
真面目なロアンのことだから、結婚するまで寝ないつもりなのかもしれない。『アステル』も人のことは何も言えない。
「……ぼくが可愛いリアに手を出すわけがないじゃん」
ウィローは両手を顔の横であげて笑ってみせる。
「押し倒されてキスされて1ミリも手を出していないんですか?」
「もちろん」
「はへー ウィローはすごいですね」
修行中の聖職者かなにかなのだろうか。どちらかというと、正反対に、魔物の疑いがあるのだが。
「リアはテイナに子どもの作り方を聞いたんだって」
ロアンは飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「でも、そのあとリアにどう聞いたの?って聞いたら『男女が裸でだきあうことだ』って言うんだ。『じゃあ、さっきの流れで子どもができたらリアはどうするの』って聞いたら『え!? 服着てるから……』ってごにょごにょ言うんだ。可愛すぎるでしょ」
「アホ以外の何者でもないじゃないですか……」
ロアンは呆れる。
「ぼく、かなり嫌がったんだけどやめてくれなかったんだよ。あやうく、もうちょっとでリアを触りかけるところだった」
「そんだけされてたら、触り返してもよかったのでは?」
「いやいや、ダメだよ。一回触っちゃったら、もっと触りたくなるでしょ。ダメだよ」
お茶を飲むウィローを見ながら、ロアンは首を傾げる。
「ウィローはさっきから、そういう経験がありそうな口ぶりですけど、私、ずっとウィローと一緒でしたし、でも恋人がいたそぶりなんて……いつそんなことがあったんだろう? って思うんですよね」
「ぼくの知らないきみがいるみたいに、きみの知らないぼくだっているよ」
ウィローはロアンにそう言って、微笑んだ。




