リア14歳の誕生日の翌朝のウィロー(82-83話)
リアといやらしいことをしている夢を見た。
(ぼくって、最っ低……)
目が覚めて、かたいところに頭を打ち付けたくて仕方がない。もう何か大魔法を使うつもりでとりあえず自分のことを刺そうかなとも思う。
心の中でリアにも謝り、シンシアにも謝る。謝り続ける。
(本っ当にごめんなさい……)
原因は明らかで、リアに押し倒されてキスされたからだ。ウィローのことを(ある意味)襲ったあとで「襲っていいわ」とけろっとしていたリアのことを思い出す。
(良いわけがない……リアはどんなことをするか本当にはわかっていないからけろっとしてたんだ)
あのあと、リアと読書をしながら。
「リア、子どもの作り方を知ってるって言ってたけど、なんて聞いたの?」
ウィローが本をめくりながら、あらためて聞くと、リアは頬を真っ赤にした。本に目線を落として、ウィローのことを見ない。
「その……男の人と女の人が裸で抱き合うとできるって聞いたわ」
概ね合っているが、肝心なところが抜けている気がする、とウィローは思った。
「じゃあ、さっきの流れで子どもができたらリアはどうするの?」
「え!? 服着てるから……え!? キスするだけでも子どもってできるの? ウィロー」
「できないよ」
これは、どこまで理解があるか本当にあやしいぞ、とウィローは思った。
(こんなことだろうと思った……)
「ぼくがリアを襲ったら、できたかもしれないでしょ。リアの言う『襲う』って何」
「え、わ、私のしたようなこと?」
まあ概ね合っている、とウィローは思った。でもそこから先はリアには想像もついていないような気がした。キスだって口を狙って失敗したら頬にして、それしか知らない感じだった。
「リアは、ぼくに押し倒されてキスされたかったってこと?」
「え……えっと……押し倒すのはどうでもいいんだけど、」
(どうでもよくはないでしょ)
「キスはほしかった」
リアは頬を赤らめて言う。
(可愛い)
「まあ、しないけどね」
ウィローが目線を下げて本をめくると、リアは、露骨にガーンという顔をした。
(面白すぎる)
ウィローは笑うのをこらえて、リアに指摘する。
「悪いことをした子にごほうびがあるのはおかしいでしょう」
「あれってやっぱり、悪いこと? ウィロー」
「嫌がる人に無理にキスするのは、悪いことだよ」
「やっぱり嫌だったよね、ウィローは」
リアはしゅん、としている。
「きみが、ぼくに『ほっぺにキスしてもいい?』『口にキスしてもいい?』って聞いてたら、また違ったかもね。同意をとるのが大事なんだよ」
「ウィロー、ほっぺにキスしてもいい?」
「今日は、ダメ」
リアはまた、ガーン、という顔をしている。ウィローは堪えきれずに少し笑った。
同意をとるのが大事、だなんて。
(ぼくも勢いでシンシアを押し倒したことがあるくせに、よく言うよ)
リアにキスされて嬉しさがあったのも事実だ。嬉しいけれど、全力でリアを止めないといけない。嬉しさに流されたらダメだ。ああいう場面で一回、自分自身にリアへのキスを許したら、そのまま欲望に流されてキスし続ける気がする。リアが音を上げて、降参するまでキスし続ける気がした。
(それにあまりリアに構ってると、シンシアがヤキモチを妬くだろうし)
可愛いシンシアは夢に出てきてリアにヤキモチを妬いていたし、『可愛いリアを守らなきゃいけない』ことを考えても、絶対に手は出せない。
(ぼく自身からも、リアを守らないとね)
なのに夢に見るってことは、やっぱり理性と本能は別物ってことだ。リアは魅力的な女の子だから、仕方がない。でも仕方がないで流されることは、許されない。
(ぼくには見れないんだろうけれど、これからどんどん魅力的になるんだろうな、リアは)
シンシアの年齢のその先を生きていくリアのことを想像する。
(それで、ぼくがいないところで、誰かとあんなふうに……うーん、やっぱり吐きそう。死にたい)
リアは、村の人を攻撃するなとウィローに言った。でもウィローにとっては村の内外、関係ないのだ。リアのことをいやらしい目で見る人間、あの笑顔をおびやかす人間は、全員、殺してやりたい。……自分がそうなるのであれば、自分を含めて。
(あーー もう、本当に死んでしまいたい)
ウィローは起き上がって、研究することにする。こういうときは計算するに限る。計算すれば、雑念が消える。計算の序盤は、夢を思い出してたびたび悶えながらも、ウィローはだんだんと集中し、計算を重ねていく。




