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イルマの東へ  作者: 月河未羽
第2章  旅立ち
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旅立ち ― 薬剤師 リマールと共に



 出発の朝をむかえた。実際、2週間と3日かかった。


 外へ出てみると、吹き過ぎていく風はゆるく、空はおだやかに晴れ渡っていた。今日は雪原せつげんを横切り、山を一つ越えて、明日の夕方までにふもとの森へたどり着く予定を立てている。その計画通り順調に進めそうだ。


 何としても届けなければならない例の薬は小瓶こびんに入れ、緩衝材かんしょうざいとして厚く布で包み、さらに小さな巾着袋に入れて、リマールがズボンのベルト通しにくくりつけている。緑と黄色が混ざってにごったような色の粉薬だ。実際に服用する時には、その副作用ふくさようおさえる薬など別の数種類を一緒に飲むことになるので、薬剤師は、医師から診断結果を教えてもらったりに指示されてから、患者かんじゃに合わせて調合しなければならない。ちなみに、ヘルメスは優れた医師でもあった。


 長い旅に出るのだから、二人はほかにもいろいろと準備している。アベルは使いれた弓と矢筒やづつ背負せおい、水筒を肩から斜めに掛けて下げ、ほかに小道具類を担当した。リマールも水筒を同じように肩に掛け、短剣を腰にび、二人分の薄いハーフケットと食料、それにわずかな着替え、そして簡単な治療道具をリュックに入れている。ルファイアス騎士から手渡された路銀ろぎんは、分けてそれぞれがふところかくし持った。


「家族に会って気持ちに変化がみられた時は、素直すなおに自分の本心にしたがいなさい。」

 別れぎわに、ヘルメスがそんな言葉をアベルに送った。


 自分のことは気にするな・・・そう言われたような気がして、アベルは不意に気づいた。アベル自身はここへまた戻ってくるつもりでいるので、そうしんみりした気持ちになることはなかったのだが、考えてみればいつ戻れるのか。アベルがまだ知りない事情や都合つごうが、向こうへ行けばいろいろと出てくるかもしれない。その間に、本当の家族とずっと暮らしたくなるかもしれない。だが、これまでアベルにとっての家族は、ヘルメスただ一人だった。これからだって気持ちのうえでは家族のままだ。長い間、会えなくなる。もしかしたら、もうずっと・・・。


 急に涙がこみ上げてきて、アベルはおじいさんに抱きついた。


 ヘルメスもしっかりと抱きしめ返し、「わしはずっと、ここにいる。」とささやいて、赤子をあやすようにアベルの背中をとんとんと叩いた。例え離れて暮らすことになっても、会いたくなったら来ればいい。


 アベルはそっと離れた。


 リマールが、「行ってきます。」と言って軽く頭を下げる。


 さあ、出発。


 二人は、軒先のきさきで見送ってくれるヘルメスに手を振りながら、しっかりと歩きだした。 








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