表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イルマの東へ  作者: 月河未羽
第1章  王 弟
8/69

その夜



 アベルもリマールも、この山の植物をよく知っている。リマールの方は知りくしていると言ってもいい。その知識を生かして作られる、とても体にいいが質素な晩御飯を食べ終えると、ヘルメスをのぞく三人は長ソファーに座って、団欒だんらんの時間をとった。


 ヘルメスは作業場にいて、さっそく例の薬の製薬にとりかかっている。早急かつ安全に間違いなく仕上げなければならない。


 アベルとリマールがルファイアスの武勇伝を聞きたがり、その内容から、彼が有名である訳を自然と理解した。自分でそうとは少しも言わないけれど、彼は英雄だ。そして、その流れのままに、ルファイアスはアベルにたくさんのことを教えた。


 昔は国内外の往来おうらいが激しく、近隣国きんりんこくの敵が攻めてくることもよくあった。その時は、仕方なく武力で対抗していた。しかし一方で、先代の王はそんな戦いを決していいようには思っておらず、何とか変えようとしていた。少しずつ、着実に。そして今は、国境警備隊をさらに強化して厳重げんじゅうに警戒しつつも、優秀ゆうしゅうな人材を置き、話し合いで解決する場を作ることに尽力じんりょくしている。そうして、今の平和がある。それを北の統治者とうちしゃはぬるいと批判ひはんし、未だに対立している・・・というような政治的な内容まで。


 王にはなりたくないと断ったアベルだったが、ルファイアスの方ではどうしても未練みれんが残った。嫌だと言っても、そうもいかない事態におちいったその時は、形だけでもやはりこの国の秩序ちつじょを保つための切り札になって欲しかった。






 三角屋根のこの山小屋には、木梯子きばしごで登っていくロフトがある。そこがアベルとリマールの寝場所ねばしょで、その下の、つい立で仕切られているだけの小部屋がヘルメスの寝室だ。ルファイアスは、自らわらの長ソファーを選んだ。


 真夜中になっても、アベルは変に興奮してなかなか寝つけなかった。とにかくルファイアス騎士の声が、頭の中でずっと渦巻うずまいていた。


 そこでアベルは、あちこち向いてしまう意識を集中させ、あえて一つ一つ考えてみることにした。心の整理をつけられれば眠れるんじゃないか。そう思って。


 まずは小さい頃のこと。おじいさんとは血のつながりが無いと分かった時、自分はどうして一人になったのかとひどくなげいたことがあった。捨てられたのか、亡くなったのか、いろいろと推測すいそくもした。おじいさんはドンと構えていて、ごまかすこともうそをつくこともしなかったが、ちゃんと教えてもくれなかった。ただ、とても愛してくれていたけど、どうしても一緒には暮らせなくなったのだとだけ教えてくれた。それからは、その言葉で自分を納得なっとくさせて、なるべく考えないようにしていた。


 それが・・・こんなことって。


 王都のお城に行けば、兄だけでなく母親にも会える。正直、少し怖い・・・と思った。王様と王太后おうたいごう様だ。信じられない。雲の上の存在だったのに、肉親だなんて。


 でも、ルファイアス騎士が言っていた。兄は誠実せいじつ賢明けんめい。母は穏やかで優しく、亡くなった父も公正で偉大いだいな勇者だったと。


 僕は・・・?


 そうしてつらつらと考えていたら、アベルはやっと少し眠たくなってきた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ