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イルマの東へ  作者: 月河未羽
第3章  旅の仲間
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護衛の依頼



 かしの木の高くも低くもない中途半端ちゅうとはんぱな位置に、それはあった。だいたい木で造られた中途半端なツリーハウス。外には途中とちゅうで折り返す、広くもせまくもない木造の階段。小屋は廃材はいざいも使って作られたようだが、それにしては案外しっかりしていて、広さは三(つぼ)あるかないかというくらい。いろいろ納得なっとくの中途半端な住処すみか


「本当にご兄弟で、貴族なんですか。」 

 原始的な小屋の床に腰を下ろすと、アベルがつい口にしていた。


「そうかどうかは、生まれた家が良かったってだけの話だ。」


 そんな淡々とした返事がすぐに返ってきた。

 思わず失礼な質問をしてしまったが、気分を害されたということはなさそうで、アベルはホッとした。


 それというのも、マットの上に無造作むぞうさに布団を乗せただけの寝場所に、小さな木製の座卓ざたく壁面へきめんに板を取り付けた棚にはわずかな食器、頭上に渡してある枝にはハンガーに掛けた服が何枚か干してある。あとは、すみの方に何か細かいものがごちゃごちゃと置かれてあった。何というか・・・間に合わせ、適当、自然体。この人からは貴族の気品が感じられないのである。


 ただ、このツリーハウスは悪くはなかった。開放的な大きな窓にはガラスは無く、木の扉がついているだけ。その窓から、雪のように白い滝が見えた。落差らくさは無いが幅が広く、絶え間ない水音を響かせながら、青く澄みきった川の滝壺たきつぼに流れ込む。その景色がツリーハウスにいて観られることが、何より素晴らしかった。


 アベルもリマールも、しばらく時を忘れてそんな窓の外に魅入みいっていた。その時、精悍せいかんな彼の顔が、少しほこらしげにやわらいでいるのが分かった。実家の領地にある大きなお城より、この原始的で小さな住処すみかにとても満足しているんだとアベルも納得なっとくし、共感できた。


 さて、そろそろ用件を伝えないと。


 リマールが、今日はここに来るつもりで、ずっと上着の内側にしまっていた例の手紙を引っ張り出した。


 レイサーは手を伸ばして、確かに手紙を受け取った。


 封はされていなかったが、それは最後にきちんと封筒に入れられ、内容もだいたい知っているので、二人ともこっそり取り出して読むという魔も刺さなかった。


 そう、内容はだいたい知っている。護衛ごえいの依頼だ。


 それを最初、あごに手を当てて難しい顔で黙読もくどくしていたレイサー。だがある時、なぜか妙なうすら笑いを浮かべて顔を上げた。


「了解。」

「え・・・。」

「なに。」

「いいんですか。」と、アベルは確認した。

「なんで。」

「いやあの・・・すぐには引き受けてもらえないかもって・・・言われてたので。」

「だって、あんた王様の弟だろ。」

「まあ・・・そうみたいですけど・・・。」

「なら、そういうことだよ。」


 さっぱり分からない。


 愛想あいそが悪いというのはなるほど、少し苦手なタイプかも・・・と、アベルは気後れした。でも助けてくれたし・・・悪い人ではないどころか、どちらかというと善人ぜんにんであることは分かる。そうでなければ、ルファイアス騎士だって紹介しないだろうし。


 でもとにかく、話が上手くいって良かった。剣の実力は分からないが、さっきその強さを垣間かいま見た気がした。やっぱり、一緒にいてくれるのといないのとでは、気持ちのうえでも旅の苦労が全然違ってくるだろう。


「ありがとうございます。助かります。」

「ああ仕事だからいいって。」


 何がどういうふうに書かれているんだ・・・?


 ここでレイサーが、「それ・・・王家の?」と、アベルの首のくさりに目をくれてきた。


「知ってるんですか。」


「ああ、見たことがある。俺の家は王家とも親しいから、何か式典が開かれる度に、その席でな。奴らともみ合いになっていたのは、それが原因か。」


「はい。」


「当然だ。そんな高価な宝石ぶら下げてたら、命がいくつあっても足りないぞ。お前たちじゃあ。」


「あの・・・鎖しか見られてないんですけど・・・その前にあなたが助けてくれたので。」


「なんでまた・・・兄貴も危ないことをさせる。それに、もしそれを取られたり、無くしたらどうなるんだ?」


 レイサーはアベルから視線を外してそれを言ったので、はっきり聞こえたがひとり言らしい。


「関所でこれを見せるように言われました。そうしないと、何かいろいろと問題があったり、面倒めんどうなことになるんだと思います。」


「なるほど。」と、レイサーはあきれたような声で言った。


「あの・・・首にかけないでいた方がいいでしょうか。」


「いや、落とす方が怖い。盗まれるなら捕まえられる自信があるが、無くしたら見つけられる自信はない。」


 それからアベルとリマールは、これまでのことと警戒すべき者たちの情報をレイサーに知らせた。


 聞き終えると、レイサーは難しい顔をして少し黙った。


模様もようのない灰色と黒の恰好かっこう・・・紋章もんしょうのない灰色と黒の武装ぶそうってことだろうな。悪事用の特殊とくしゅ部隊か?」


「そんな分かりやすい恰好で狙ってくるなんて・・・。」

 リマールが言った。 


 レイサーはアベルに目を向けた。

「あんたを始末しまつすることを、事務的に任務と考える堂々とした奴らなんだろう。ただ、一方で今後も同じようにそそのかされるやつとか、おそらく密偵みっていもいる。部隊の方は、かわしやすい代わりに見つかれば多勢たぜい襲撃しゅうげきされる。密偵なんかは、対抗たいこうできるが分かりづらい。どっちもどっちだ。」


 アベルもリマールもみるみる憂鬱ゆううつそうな表情になり、ここにしばらく沈黙が続いた。


 重くなった空気の中で、レイサーだけが一人平然としている。


 レイサーは腰を上げると、「まだ日が暮れるまでにだいぶ時間もあるし、出発しようか。準備をするから、少し待っててくれ。」と言って、すみにごちゃごちゃと片付けている物に手を伸ばした。








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