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イルマの東へ  作者: 月河未羽
第3章  旅の仲間
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さすらい戦士 レイサー



 誰か男の人がいる。声は低いが若い。

 そちらへ首を向けると、人影が少し見えていた。


山賊さんぞくか? 俺の庭を汚すな。」 


 小枝を折り、やぶを掻き分ける音とその人影が近づいてきた。


 間もなくはっきりと姿を見せたのは、二十代とおぼしき一人の若者。


 その人を見たアベルは、あっと口を開けた。

 

 この人・・・似ている。髪の色は黒よりも少し青味がかっている気もするけど、瞳は同じ灰青色だ。あの紳士しんし的でハンサムな英雄騎士えいゆうきしの、目つきをちょっと悪くしたような顔。


 アベルとリマールの前に割り込んできたその若者は、じっと一味をにらみつけているだけだったが、背も高いし、きたえ方が違うと分かる体格で、ずいぶん戦い慣れていそうな貫禄かんろくを放っている。


 一味いちみもさすがに迫力はくりょく負けしたようで、あきらめるのは早かった。 数歩身を引いている親分は、若者の顔と体にちょっと目をやっただけで、あっさりと背中を返したのである。


「くそ・・・行くぞ。」


「おい、こら。」


 すかさず若者が呼び止めた。


「返すものがあるだろう。」


 舌打ちが聞こえたかと思うと、一番がっちりとして強そうな男が急に身をおどらせた。手に持っていたナイフをいきなり振り上げ、若者に飛びかかったのだ。


 それを、若者はすました顔でヒラリとかわした。流れのままに背後に回り込み、やすやすと刃物を握っている腕をひねり上げる。


 なんてあざやか ―― そして、強い!


 アベルもリマールも、思わず見惚みとれて息をのんだ。


「そういうことなら容赦ようしゃしないぞ。」


「いてて、ご、ご勘弁かんべんをっ。」

 男はなさけない悲鳴を上げながら、もう命乞いのちごいをしている。


 体格はそう変わらないのに、一番強そうなその男が全く相手にならないとは。もしかして見かけ倒し・・・なんてことは・・・とアベルはチラッと思い、連中に目を向けると、一様に目を見開いて驚愕きょうがくの表情。


 この若者の実力が遥かに優れているんだ・・・と、アベルは理解した。


 若者はつかんでいる男を突き飛ばすように解放してやり、厳しい目で連中を見回した。その視線が、最後に、背の低い男の手元へ向けられる。その男は両手を腰のあたりへ回していたが、何をしても無駄だと分かっている顔をしていた。


 親分が悔しそうに少しあごを動かした。その子分に、返してやれ・・・という合図を送ったのである。盗品とうひんの担当者は、両手の財布さいふを若者の方に差し出した。


 そのあと一味は、肩をすくめてすごすごと退散たいさんしていった。


 こうして、アベルとリマールと、そして若者だけになった。


 そこで二人は、あらためてじっくりと彼を見た。


 本当に、ルファイアス騎士から、大人の落ち着きというか、柔らかい感じを無くしたような雰囲気の若者だ。まず笑わない。今、笑う必要はないけど、人助けをしたのだから何か言葉をかけてくれるとか、初対面しょたいめんなんだし笑顔で挨拶あいさつとか・・・この人、やっぱりそうなのかな。


 いやお礼が先だと気づいたアベルは、自分の方から話しかけることにした。


「あ、ありがとうございます。あの ―― 」

「ほら・・・これ・・・おも・・・。」


 と、若者が財布を手渡してくれて、アベルの声はさえぎられた。


「困らないようにと、ある人が持たせてくれたんです。あの、あなたは。」


「通りすがりのさすらい戦士。それじゃあ。」


 なく片手を一振ひとふりして、若者は背中を向けた。


「もしかして・・・レイサーさんではないですか。」


 すると若者は立ち止り、肩越かたごしに振り向いた。


「なんで俺の名前を知ってるんだ。」

「ルファイアス騎士から手紙をあずかっています。」

兄貴あにきから? じゃあ、ある人っていうのは・・・。」

「はい。」


 その若者・・・レイサーもまたアベルとリマールをまじまじとながめて、首をひねった。


 自分に会うための所持金しょじきんにしては多すぎるし、そもそも何の用だ? わざわざ、こんな弱そうな少年二人を寄越して・・・。この前(兄貴と)会った時には、特に何も言われなかったが・・・。


「お前たち・・・俺の家にくるか?」









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