第4話 『初仕事』
あれから一週間後
他の研修もこなしながら、あのことについて色々試された。
そして一つ分かったことがある。
どうやら異世界人である俺の血はモンスターを暴走させてしまうみたいだ。
そして俺も身体の調子が少しおかしい。
誰かにみられているような…いや誰かをみている?
とにかくそんな感覚がするのだ。
ミーミル相談してみると、急にこっちの世界にきてあんなこともあったんだからまだ身体が慣れていないんじゃない?と笑いながら心配された。
まぁ目まぐるしい日々だし見えない疲労が溜まっているのかもな…。
ミーミルはしばらく落ち込んでいたが直ぐに調子を取り戻した。
あの件に関しても警備員とボレロが難しそうな顔で話していたのを見かけたが、こちらに共有されなかったのでおそらく上の話だろう、ということで余計な詮索はしないでおいた。
この一週間、俺に関してはと言うと…
覚えることが多くて大変だった。
特に罠だ。
罠はもちろん分かりやすく目立っている訳でもなく
分かりにくいように設置されているので最初のうちは何回も引っかかりそうになったが、アビゲイルにコツを教えて貰ってからは引っかかる確率が半減した。
とてもありがたかった。
あの件以降も度々モンスターの収容所や飼育場に訪れ、ダンジョンガードの手入れの仕方等を教えてもらった。
もちろん血が出ないよう細心の注意を払って。
ミーミルは「スライムを処分しちゃうなんて、もったいないよねー、ほんとかわいそうだよ」などと不貞腐れていたが、見た感じ元気そうだ。
この一週間でだいぶミーミルの警戒が薄れた。
あれだけ警戒していたのにちょろ過ぎないかと思うかもしれないが、彼女はボレロとアビゲイル以外の人と深く話したことは無い。
普段はモンスター達と一緒にいるからだ。
それに俺は異世界人、未知というものは誰しも怖いもの。しかし知ってしまえば大したことないのだ。
そしてさらに数日が経ち、初仕事がやってくる。
冒険者達が来たのだ。
だが、スライムもボスもいなくて大丈夫だろうか…
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ボレロ視点
久しぶりにオブザードの姿を見ました。
やはり何度見てもおぞましいですねぇ、まぁそんなことは良いです。それより…
「オブザード、あのスライムをあそこまでやる必要があったのでしょうか…巨大とはいえスライムですよ?、臨時のボスにでもしてしまえば良かったのでは…」
「いいヤ、あノスライムはコのダンジョンの理カラ外れていタ。
おそらく異世界ノ血を取り込んダ事でエラーが起こっタのだろウ…。
どっちにシロ、俺ノ管轄外となってしまっタのナラ、すぐに処分しなケレバならなイ。
最悪、このダンジョンを乗っ取らレ兼ねなイからナ…。」
「はぁ、そうですか。
ならシャト君も処分ということになるのでしょうか?」
「いいヤ、やつがこちらニ来た時コソ警戒していたガ、先日、腕輪を通シテ俺ノ魔力が繋がっタ。
アイツも時期に自覚するト思うガ…まぁその事ハその時でイイ…。
恐らク大丈夫ダ。」
「よく分かりませんが、まぁ大丈夫なら安心ですねぇ、せっかくの新人を失わずにすんだのですから。…ん?おや、冒険者がこちらに向かってきていますね、数日あればこちらに着くといったところでしょうか…。
準備をしなければいけませんねぇ、では、失礼します。」
そう言ってオブザードとの報告会は終わった。
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シャト視点
よし、今日は初仕事!今回は冒険者達の成長が目的らしいのだが…ボスもいなければ、序盤のスライムもいない。
ってことでダンジョンガードとチムデビルを駆使してボスフロアにたどり着く前にいい感じに疲労させ撤退させるらしい。
俺の配置は第二階層、俺の役割はチムデビルに指示を送り、隙を見て罠を発動させ、できる限り時間を稼ぐ事らしい。
新人の俺からすれば中々ハードな内容だ…が、俺に任せて貰えるチムデビルは五チームの内、一つだけ、ちなみに一チーム四匹だ。
そして罠もとても単純なやつ。
蓋を開けてみるとこんな感じだ。
期待されてないのか?と思うかもしれないが当然だ。
一週間研修で学んだだけの素人には勿体ないくらいの大仕事だ、下手に期待されて大役を任され失敗するくらいならこっちの方がむしろ良い。
第三層にはミーミルが控えており、残りのチムデビル及びダンジョンガード達に指示を送る。
アビゲイルが第二、第三層階層を指揮し、俺たちに指示を送ってくれる。そして予期せぬ事態の対処係でもある。
ダンジョンの裏側には各層の至る所に通信用のパイプがあり、そのパイプの蓋を開けて喋ることでそれぞれ繋がるパイプの先と連絡が取れるわけだ。
とまぁ、こんな感じの配置だ。
よし!仕事の始まりだ!
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数時間後、
冒険者達の声が聞こえる。
第一階層は攻略したみたいだ。
本当は一階層にはスライムがいる予定なのだが、今回は罠だけだ。
それにしてもやけにでかい声だな、そんな大声を出して魔物が寄ってくるかもしれないとかいう警戒心はないのか?
まぁ今回は冒険者の成長らしいし、駆け出しの冒険者達なのかもな…。てか、そういやアビゲイルに話を聞いた時はなんとも思わなかったが成長ってなんだ?
成長させたらいつかこのダンジョンを踏破できるくらい強くなって帰ってくるんじゃ…。
まぁ後で改めて色々聞くか…。
すると俺の持ち場のパイプから声が聞こえてくる。
「シャトさん聞こえていますか?こちら第三層アビゲイルです。ミーミルもいるよー。」
パイプから二人分の声が聞こえる。
ミーミル静かにしてくださいという声が若干聞こえた。
「現在、第一階層を抜けて第二階層まで来ていると思います。」
「はい、先程声が聞こえてきました。」
「おそらく彼らは今日中に第二階層を抜けて第三階層の大広間まで来るはずです。
ですが、それは困るので第二階層で足止めしてください。
もう少しでミーミルのチムデビル達が交戦し始めるはずです。
それに援護する形で動いてください。」
「了解です!」
「では、よろしくお願いします。」
ミーミルが何か最後に言おうとしていたがそこで通信は切られてしまった。
多分どうでもいいことだろう。
よし、チムデビル達と最終確認だ。
そう言って俺は自分のチムデビル達を集合させる。
チムデビル達は「チム」しか話さないが、こちらの言葉は分かるらしい。
俺はチムデビル達にもう一度作戦を伝える。
作戦はこうだ、他の四チームに俺のチムデビル達をそれぞれ一匹ずつ配置させ、それぞれのチームを援護させる。
チムデビルは沢山いようが基本四匹行動と知られているので五匹で行動していれば不意を突けるだろう。
しかしチムデビルもなんの意味もなく四匹で行動している訳ではなく彼らの連携の限界が四匹までであるからだ。
なので五匹目を入れたら逆に崩壊してしまうのではないかと思うかもしれないが、俺の考えは違う。
見かけは完全に五匹だが、認識としてはたまたま他のチームに配置が被っているだけの別チームだ。
だからたまたまそのチームの援護をしている風に動いているだけで、行動自体はそのチームと別だ。
分かりやすく言うと、小さな円で動いているのが別チーム、それを囲うような大きな円で動いているのが俺のチームという訳だ。
まぁ、俺は軍師でもなんでもないので戦闘に関しては何も分からないが、まぁ何とかなるだろう。
早速戦闘が始まった。
最初はチムデビルの連携に翻弄されつつも、冒険者達が押していたが、不意の五匹目が出てきたことで劣勢になっていった。
よし、今のところ順調だ。
四チーム+一が交代交代に冒険者達へ攻撃を仕掛ける。
俺も罠を作動させ、冒険者達の足止めやチムデビルの援護に徹底した。
一時間ほど経っただろうか、攻防一体の状況に冒険者達は第一階層へ撤退し、第一フェーズが幕を閉じた。
よしっ、とりあえず成功だ。
監視通路からチムデビルに召集をかけ、通信パイプのある第二階層管理室へと戻る。
戻ると早速パイプから声が聞こえてきた。
「シャトさんご苦労様でした。一時休憩をとり、次の指示を…凄いね!シャト!チムデビルの犠牲がこれだけなんて、何したか分からないけど…モガモガ。
ミーミル後にしてください…。
シャトさん次の指示ですが、冒険者達が戻ってきたら様子を見て再び戦闘を、戻って来ないようであれば一度三層管理室へ合流してください。」
「どれくらい冒険者を待てばいいですかね?」
「そうですね、二時間ほど何も無ければこちらに来て下さい。そして、やってきたとしても二層で休む様でしたらこちらに来てください。
どちらの場合でもこちらに来る時はチムデビルに監視をさせておくのを忘れずにお願いします。」
「分かりました!」
そう言って通信が終わる。
ふぅ、
この戦闘で一チーム分が犠牲になったが、本来の犠牲の半分だという。
冒険者が駆け出しというのもあるが、俺の作戦も活きたのだろう。
ミーミルやアビゲイルなら犠牲無しで上手くやれるのだろうか…。
そんなことを思いつつ監視通路でチムデビル達と冒険者が降りてこないか見張る。
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冒険者視点
「ここのダンジョンはクラスBだからと気を張っていたが拍子抜けだな!、第一階層には何もいなかったぞ」
大柄の男が意気揚々と話す。
背中には大きな剣を背負っている。
「気をつけてください、こういうダンジョンは一階層目で油断させて、第二階層で畳み掛けて来るんですよ、」
帽子をかぶった魔法使いらしき男が剣士の男に反論する。
「そうだよ僕達はBランクパーティだ、本来自分たちの一つ下のクラスのダンジョンが推奨されているのに集会所のやつらにかっこつけたいからって見栄張ってさぁ、しかも僕達はBランクになったばっかだよ?」
小柄で軽装備、シーフらしき女も剣士の男に文句を言う。
「ハッハッハ!推奨が一つ下なだけで、行ってはいけないことはないだろう?ならば大丈夫だ!
なんせ俺たちは沢山のクラスCのダンジョンを攻略してきたからな!一つ上がったくらいどうって事ないさ」
大柄の剣士の男はそう言って笑い飛ばし仲間を鼓舞する。
「そうだといいんだがねぇ〜。」
腰に剣をぶら下げている男が曖昧な返事を返す。
剣士二人、魔法使い一人、シーフが1人の四人パーティだ。
「よぉし、この階段を下れば第二階層だ!
さっきはああいったが、みな気を引き締めて行くぞ!!」
「おお!」
大柄の剣士の男の掛け声を元にパーティが呼応した。
第二階層
「みなさん、チムデビルです!一体一体はどうって事ないですが、集団行動に気をつけて!」
「ああ!そのくらいクラスCダンジョンでたくさんみたよ!」
そう言って大柄の剣士の男を筆頭に戦闘が始まる。
数十分後、
「おい、なにかおかしいぞ。
いつものチムデビルにしちゃ戦い辛い!」
「お前の気のせいじゃねぇのか?いつも酒ばっか飲んでるから剣も酔っちまったんだよ」
もう一人の剣士の男がすかさず大柄の男の援護に入る。
「いや、さっきから見てたけど僕もおかしいと思う。
チムデビルは沢山いたとしても基本四匹でまとまって攻撃する。
今までだって相手をしてきたのに戦い辛いと感じるのは五匹目がいるからだよ!
ほらあそこ!ほかのチムデビルと重なって分かりづらいけどいるだろ?」
先程から戦闘周囲を駆け回りながら戦っていたシーフの女がそのおかしさを話す。
「確かにそうですね、それに…うおっ!。
このようにチムデビルが意図的に動かしているのか足場が動くなどの罠や仕掛けがさらに戦闘を困難にしています。一度撤退するべきです!」
魔法使いの男がダンジョンの仕掛けに翻弄されながらも後衛で前衛を援護している。
「よぉし!俺が殿をつとめる!
みんな通路を引き返し、階段を登って第一階層へ!
そこで作戦を立て直す!急げ!!」
そう言って大柄の男が大剣を振り回す。
「なぁに、俺も前衛だ後衛が退くまでは戦うぜ」
もう一人の剣士も残って戦っている。
「お二人とも!後は任せました!」
「死ぬんじゃないぞ!一応煙幕を渡しとくから、僕たちが行ったら使って」
そう言って魔法使いの男とシーフの女は退却した。
「よし、そろそろか、ふん!
俺達も行くぞ!」
そう言って大柄の男が大きく剣を薙ぎ払い、同時にチムデビル立ちに向かって煙幕を投げる。
「おうよ、」
そして二人も第一階層へ撤退した。
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シャト視点
冒険者達が撤退してから一時間後、
見回りをさせていたチムデビルのうち一匹が管理室へ戻ってきた。
「チムチム!」
チムデビルがなにか言っている。
「ん?どうした?」
「チム、チムゥ!」
ついてこいと言わんばかりにジェスチャーでアピールしてくる
俺は仕方なくチムデビルの後を追いかけた。
監視通路のさらにその先、先程の戦闘跡近くまで来てしまった。
「ほらチムデビル、俺こんなところ来ちゃだめって…
冒険者達に見つかっちゃうかもだろ?…」
「チム!チム!」
何かを訴えかけるように俺を見てさらに奥の狭い通路を進んでいく、
「分かったよ…あでっ!」
その狭さゆえに頭をぶつけてしまった。
思わず目を瞑り尻もちをつく、
「いてて…おいチムデビル…少しは俺の事考えて…ん?」
目を瞑っているのに景色が見える。
なんだこりゃ、目を開けてみる。
うん、さっきまでの通路だ。
「チム?」
チムデビルが心配そうに、そして不思議そうにこちらを見ている。
立ち上がってもう一度目を瞑って見る、あれ今度は真っ暗だ。
何だったんださっきのは。
そう思ったが先に進む。
とうとう冒険者ルートに来てしまった。
別に来ては行けないというルールは無いが、冒険者が来ている場合見つかる確率が高いので危険なのだ。
「チム!チム」
チムデビルが全身を使って指している方を見る。
「ん?…。あっ!」
暗くてよく分からなかったが、先程の戦闘場所の少し奥、深さが少し深くなっているとこに一匹のチムデビルが倒れていた。
ミーミルのチームの死んだと思われていた一匹だ。
おそらく気絶しているのだろう。
なるほど、これを発見したのか仲間思いなやつだな
だがどうしようか、助けようにも結構深いので助けることが出来ない…よし
「チムデビル!ほかの仲間を呼んできてくれ
一チームならこいつを持ち上げられるだろう」
「チム!」
そう言って急いで飛んでいった。
このやり取りをしていた時、腕輪に刻まれた文字がぼんやり点滅していたが気づかなかった。
「よし、俺も見つからないうちにさっさと戻るか、
冒険者達の気が変わって戻ってくるかもしれないしな…」
そう言って監視通路に戻ろうとした時
「おい!誰だ!!」
遅かった…。
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