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第3話 『研修・後編』

 喧騒と共に目が覚める。

 まだ寝起きで意識がはっきりしていないが、誰かが部屋の扉を叩いている。


 「…ト、シャト!起きて!。

 大変なことが起きたの…

 スライム達が!スライム…達がぁ…」


 俺の返事もなしに部屋に入り込んできた

 ミーミルだ。

 彼女は目に涙を浮かべている。


 そこではっきり目が覚めた。

 緊急事態だ。


 「ど、どうしたんですか?

 とりあえず落ち着いて何があったか話してください」


 「今日の…朝、昨日の所をも、もう一度…。

 確認しようと思ったの…

 そ、そしたら…そしたらぁ」


 そこまでいうと彼女は泣き出してしまった。

 俺を警戒していた昨日とはまるで別人のようだ。

 いやいやそんなことを思ってる場合じゃ…


 「すみません、シャト君。今朝我々もなだめていたのですが…」


 そう思っていると続けてボレロも入ってきた。


 「昨日のことは聞きましたよ、大変でしたねぇ。

 もちろんあれは事故みたいなものですので気にしなくて大丈夫ですよ。」


 良かった、入社そうそうクビにならずに済んだ…ってそんな場合ではない。


 「いえ、そのすみませんありがとうございます。

 …それでボレロさん、一体何があったんですか?」


 「ええ、朝早くにミーミルが凄く焦った様子で尋ねてきましてね…」


 ボレロの話で事の詳細が分かった。

 昨日のことが気になったミーミルは翌日、早くから現場に赴いたそうだ。


 しかしどうも様子がおかしかった、スライムの飼育場だけやけに静かだったらしい。

 不安に思った彼女はスライム達に声を掛けるが反応は無い。

 こんなこともあるか、とこの時はまだ寝ているだけかと思っていたそうだ。

 その間に他のモンスターのチェックも兼ねてスライムたちが行動を開始するのを待っていた。


 だかいつまで経っても一向に気配がない。

 他のモンスター達が行動し始めたのにだ。

 生き物の気配に敏感なスライム達がこれを感じ取っていないはずがない。


 流石におかしいと思い、スライムの飼育場の中に入るとそこには何もいなかった。


 ただ彼女も働き始めてもう一年だ。

 たまに脱走しているというケースは度々あった、そういう時は大体、成体スライムの収容所にいる事が多いので今回もそこだろうと思っていた。


 しかし収容所の方も…いなかった。

 さらにいなかったのは幼体だけでなく成体も全て消えていた。残っていたのは血のような赤黒い跡だけ…。


 そして現在に至るというわけだ。


 うーん、話を聞いてもイマイチぴんとこない。

 仕方ない、だってここに来てまだ3日目だもん。


「おや、珍しいですね。

 一年ぶりくらいですか、オブザード。」

 そうボレロが壁の方を見て呟く。


 なんだ?俺もつられて壁の方を見る。

 すると壁の一片が闇に包まれ、そこから一つの大きな目が覗いている。

 目と言ってもリアルな目ではなく壁画に描かれているような抽象的な目だ。


「今回のスライム失踪…。()()()()()()という事ですか?」


「嗚呼、異常事態ダ…。緋黒のスライムガ、全スライムヲ呑み込ミダンジョン内を逃走してイル。

 捜索を求ム。」


 闇から発せられた声はまるで脳内に直接語りかけてきているかのように響く。

 ところどころ違和感があるがこの声には存在感があり、無視することができない。


「あなたでも対処できない事態を…我々が力になれるでしょうか。」


 そうか、こいつがボレロさんが言っていた『警備員』というやつか。

 3人が対処できない異常事態に対応するという、

 けど確かに警備員でも対処できないなら、俺たちに何ができるんだろうか


「そうではナイ…。ソイツは俺ノ目を何故カ掻い潜ルことができてイル…。

 故に存在ハ感じるが居場所ヲ特定することがデキナイ。

 よって異常事態と判断シタ。

 居場所が分かれバ後は俺が、対処スル…。」


「そうですか、まあ貴方が異常だと判断したのならば従いましょう。」


「だが気ヲつけロ、俺の目を掻い潜れるヤツはそういなイ…。

 発見シタラ壁か地面を三回叩いてクレ…。』


「なぜです?貴方の()なら私たちがどこにいるかわかるでしょう?」


「ヤツが移動した際に残る跡は、ジャマーとなり俺の目を妨害してイル…。

 居場所ガわからナイのもその内の一つダ。」


「なるほど、わかりました。迅速に解決しましょう。」


「感謝スル…。…、…。そこのオ前…。」


 ふと俺の方に視線が向けられた気がする、なんだ、異世界人もやっぱり異常事態だったか⁈


「シャトです…。な、なんでしょうか〜。」

 ぎこちない笑顔を闇に浮かぶ目に向ける。


「お前ハこちらの世界へ来テ、身を守る術ヲまだ習得できてイナイ…。

 故に今回の事で死ぬかもシレナイ。

 異世界人とはイエ、お前はここデ働く事ニなっタ…。

 働く者ガ減るのハ良くない事ダ…、俺も人が死ぬのハ見たくナイ。


 持っておケ…。」


 そういうと腕輪のようなものがコツンッと音を立てて闇から出て床に落ちた。

 なんだこれ、前の翻訳指輪見たいなものか?


「なんですか…これ?』

 そう腕輪をまじまじ見つめながら尋ねる。


「お守りダ…。」

 それだけ言うと健闘を祈ると言わんばかりに闇の中へ消えていった。


 お守り…ピンチになった時に一度だけ命が助かるとかそういうものだろうか、身を守る術とか言ってたしな


 「ということです、私とアビゲイルは各々で動きますが、シャト君はミーミルに付いてください。

 ここのモンスターのことに関しては彼女が一番よく知っています。

 彼女についているのが一番安全でしょう。」


 そう言ってボレロは部屋から出ていった。

 その頃にはミーミルも泣き止んでいて、すっかり仕事のモードの顔になっていた。

 自分が育ててきたモンスターが消えてショックだろうに…。

 この切り替えの速さは尊敬だ。


 だが待てよ、ボレロとアビゲイルはそれぞれ個人でも動ける…ということはミーミルも多分個人で動ける…。


 「あの…俺は足でまといにならないでしょうか…。

 むしろここに残っていた方が…」


 「いや。シャトが足でまといなのはまだ仕方ないよ。

 ここに残っていてもそれがここに来たら意味無いしね。

 それよりその腕輪!わたしも危険な仕事を初めてする時貰っだんだ〜。

 もう無いけど…」

 最後は少し悲しそうだった…どこか無くしてしまったのだろうか。

 ん?ミーミルも貰った?ということは…


 「この腕輪、警備員さんはお守りって言ってましたけど、どんな効果があるんですか?」


 「それはね、命の危険が迫ったときに一度だけ救ってくれるんだよー。

 わたしも助けられたな…」


 そういった彼女は懐かしそうだ。

 だが、予想が当たったな。いわゆるベタなやつだった、しかしこんなにありがたいものはない。

 具体的にどういう風に命を救ってくれるのかは分からないがこのお守りは相当凄いものだろう。

 そうなるとこれを量産できる警備員は何者なんだ…


 -----


 現在、第三層目

 ここにはモンスター収容所があるらしい。

 ちなみに飼育所は第四層だ。

 収容所といってもそんな物騒な所ではなく、成体のモンスター達が飼育されている。

 このダンジョン内には四つのモンスターが飼育されている。


 一つはスライム

 このダンジョンの最低級モンスター。

 生き物の気配に敏感で自分より強い生物を発見すると見つかる前に逃げるのだが、仲間がいる時は戦闘に入る。

 また適応能力が高く、幼体の頃食べたものや触れたものによって成体時の属性が変わるらしい。


 一つはチムデビル

 小さい悪魔のような見た目をしており、仲間内での連携が得意。

 一匹一匹の脅威は無いがそのチームプレーには注意が必要だという。

 まぁ注意というのは冒険者目線の話だ。

 見た目は思ったより可愛らしい。


 一つはダンジョンガード

 こいつはそのまんまだ。

 ダンジョンの破壊行為を止める役割らしい。

 ここでは一応中級クラスのモンスターとして平然と配備されているが本来は裏方の仕事をさせるのが普通らしい…あれここって意外と余裕ないのか…?。


 一つはタイタントスネーク

 巨大な蛇型のモンスターである。

 背中側に、頭から尻尾にかけて鎧状の鱗が形成されている。

 防御力が高い上に見かけによらず俊敏であるため

 中級パーティ以下は苦戦するのだとか。

 以前ボスとして君臨していたが先日倒されてしまったので現在不在である。

 卵はあるらしいので孵化待ちだという…。


 とまぁミーミルに聞いた話だとこんな感じだ。

 少し心配になるがそう頻繁に冒険者が来るわけではないので大丈夫だそうだ。


 モンスターについて教えてもらっている内に収容所に到着した。

 そしてそこにやつはいた。

 他のモンスター達が怯えている。

 ダンジョンガード達は止めようとして吹き飛ばされたのかそこら辺で倒れていた。


 「ミーミル…あれ…。」


 そこにいたのは赤黒い血のような色をした巨大なスライムだった。

 おそらくあれは昨日、俺の血で破裂したスライムだ。

 どういう訳か復活して今とんでもない事になっている。


 「あなた…昨日の」

 彼女がスライムに近づこうとした瞬間、凄い勢いで吹き飛ばされた。


 「ミーミル!」


 彼女はダンジョンの壁にぶち当たり苦しそうに呻いていた。

 すごい衝撃だったのだろう。壁が彼女分抉れている。

 やばいやばいやばい!俺はすぐさま彼女の元へ駆け寄り安否を確認する。

 彼女は苦しそうだが人と種族が違うためか外的損傷は見られない。


 そうだ、見つけたら壁か床を三回叩くんだったな。

 それを思い出し、床を一回叩いた時

 ミーミルに止められた。


 「待っ…て。彼…を…呼ん…だら。

 あの子は…殺されちゃう…。」


 「でも!その前にミーミルが死んじゃいますよ!!」


 「私は…他の人より…頑丈だから!」


 確かに壁に激突しても大した傷見えないが喋り方から察するに痩せ我慢だろう。

 絶対に警備員を呼んだ方がいいのだが…。

 彼女がモンスターに対する気持ちも俺は知っている。

 んんんんんー。どうするか、ええい!俺は彼女を信じるぞ!


 「何するつもりか知りませんけど!俺から絶対に離れないで下さいね!!」


 俺にはお守りがある。なら俺の近くにいればそのお守りの力で盾になることが出来るだろう。多分。


 「シャト…ありがとう」

 そういうと彼女はさっきまでが嘘のようにスっと立ちあがり、俺と共に歩き出した。


 あれ、盾になると言ってみたものの、さっき吹き飛ばされた威力を考えると助かるとはいえ怖いぞ…

 ああああ、三回叩いて呼べばよかった…。

 いや、俺は彼女のモンスターを大切に思う気持ちを尊重したのだ!行くぞ!



 俺とミーミルは先程より近い距離まで近づいた。

 もうスライムの目の前である。

 あれ、なかなか襲われない…警戒してるのか?


 「えっ!!」


 そう思っているとミーミルが俺を抜いて飛び出した。不意をつかれて思わず驚いた。


 「ごめんね。ごめんね、怖かったよね、1人になって怖かったよね…」

 そう言いながら彼女はスライムの下の方に抱きついて泣いている。


 スライムの動きが一瞬止まったように見えたが今にも彼女を吹き飛ばそうとしている。


 やばい守れな…

 そう思いながら彼女をスライムと引き離すように飛び込んだ。


 バリィィィン!


 俺の真上で何かが砕けた。

 途端に闇の渦が俺たちを包み込み、収容所の入口へと戻された。

 ミーミルは気を失っていた。

 そうか、危なかった…お守りがスライムの攻撃を防いでくれたのだ。


 「全ク…若気の至リもほどほど二してクレ…。」


 すると俺の腕輪から黒い靄の精霊のようなものが現れた。


 「警備員さん!」


 「オブザードだ…。」


 さっきの騒ぎを聞いてボレロとアビゲイルの二人も第三層へ駆けつけてきた。


 「ボレロ…二人を安全ナ所へ、アビゲイル…ヤツヲ離れタ場所ヘ誘導してクレ…。」


 俺の腕輪から出ているオブザードは二人へ指示を飛ばした。

 ボレロは転がっている俺たちを抱え収容所から離れ、アビゲイルは魔術を使いスライムを挑発しながら冒険者ルートへ向かい、第三層の大広間へ向かった。


 ボレロは俺たちを大広間の上の通路に下ろした。

 下を見ればあの巨大なスライムがいる。

 すぐ後にアビゲイルもここに来た。


 「ヨシ…。二人とモ、感謝スル。」

 そういうと俺の腕輪から靄は消え、

 広間の周りから無数の闇の渦を出現させた。


 そしてなにやら詠唱を唱え始めた。


 「…穿つは閃光、宵は刹那。

 廻るは回廊、堕とすは獄。

 深淵の主の名の元に…闇落ちる星よ我が身に委ねよ」


 さっきまでとは違い流暢な言葉だ。

 言葉が発せられた瞬間から地面に落ちていくように重く感じる。

 そしてより禍々しさで溢れている。



 「待っ!…」

 ミーミルが、意識を取り戻し止めようとした時にはもう遅かった。


 闇の渦から出た虚空の槍が、何本もスライムを貫き、動きを止め、より一層暗く、黒い闇がスライムを跡形も無く呑み込んだ。

 光さえも動きを止め、闇に飲まれそうになるほど恐ろしかった。


 ミーミルが横で絶句している。


 -----

 

 俺の一回目の研修はこのような形で幕を閉じた。

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