第1話 『ダンジョンに就職しました』
目を覚ました…いや目が開いたか。
んなことはどうでもいい。
目が開いた時には知らない石造りの部屋にいた。
目の前には3人の人物が立っていた。
右から順に1人はペストマスクを被っており、もう1人は機械人形?近未来ではなくどちらかと言うとスチームパンク寄りな感じの。
そして最後の一人は女の子だ。高校生くらいかな?。
「#########」
なにやら話し合っている。声からして機械人形が男、それ以外は女であることがわかった。
だが言葉を理解することが出来ない。
英語でも中国語でもない、とにかく聞いた事のない言語だ。
ま、まぁものは試しだ。
「あのぉ、こ、こんにち…は」
勇気をだして話しかけてみる。
普段部屋にひきこもっていて人と会話していないせいか、かなりぎこちなかったと思う。
「#########」
残念、やはり通じなかったようだ。複雑そうな顔をして再び話し合っている。
(何かまずいこといったかな…)
そんなことよりここはどこだ?外国か?
いやあんな機械人形が現代技術で再現出来るわけが無い。
高度なコスプレか?いやいやそれでも…
とりあえず仮定だが異世界ということにしておこう。
うん、そうしよう。
周囲を見渡す。
教室くらいの広さだろうか…
石造りとはいえ窓すらない、壁際に机やらが置いてあるがそれ以外何も無い。
そして松明以外の光が一切ない。
断定は出来ないがおそらく地下だろう。
まぁ地上かもしれないがな、地下ということにしておこう。
…怖い。
ようやく戸惑いから覚め、冷静さを取り戻してきた俺は自分がどれだけ危険な状態であるかを再確認した。
言葉が通じない、という事は俺の存在、身分を証明出来ないわけだ。
元いた世界での知識上こういう部屋は拷問に使われていた。
見たところ拷問器具は見当たらないが…何をされるかは分からない。
(やばいやばいやばいやばいどうしようどうしようどうしよう)
心の中でそう何度も思ったがどうすることも出来ない。
どうしよう軽くパニックだ。
みるみる顔が青くなっていくのが自分でもわかる、血の気が引いていき変な汗も出てきた。
こんなの目が覚めた時にふと携帯を見ると
予定時間を過ぎていて遅刻が確定してしまったとき以来だ。
いや、学校に着いて、大切な書類や課題を家に置いて来てしまったときもそうか。
とにかくそんな感覚だ。
すると機械人形の男が手を差し伸べてきた。
何をするつもりだ、こ、殺されるのか?。
せめて殺るなら一瞬で終わらせてくれ……。
そう身構えて数十秒。
何もしてこない。
よく見ると手に何か持っている。
指輪だ。
それをつけろと言わんばかりにこちらの顔を見ている。
何だ?それを付けたら爆発するとかじゃないだろうな…いやここは室内だ。
そんな自分たちを巻き込むような事はしないだろう。
そう警戒しつつ渡された指輪を付けてみる。
「###か?###…ますか?」
なにやら喋っているが、さっぱりわからな…
あれ、さっきまで意味不明だった言葉がところどころ聞き馴染みのある言葉に変わっている。
おかしいな、パニックのあまり耳までおかしくなってしまったのか。
「あの、聞こえてますか?」
再び声をかけられる。
いやそんなことはなかった今度ははっきり聞こえた。
日本語だ。
俺は首を小さく縦に振った。
そうすると安心したかのように機械人形の男が笑った。
そして続けて話し始めた。
「言葉が通じるものだと思っていたのですが、失礼。
その指輪凄いでしょう?付けるだけで例え言語が違っても通じるようになる古の魔道具なんですよ!
いやぁ、最近は大陸間で言語が統一されてここら辺で使用する者が居なくなりもう必要ないかと思ってたんですけどねぇ。
残しておいて良かったですねぇ」
そう言うと機械人形の男は俺の手に付いた指輪をまじまじと眺めた。
「まぁそんな話はおいといて、あなたはどこから来たんですか?言葉が通じないということは…どこか辺境の地なんでしょう。
あれ、ですが求人の募集の文字を読めたから…
ここにいるわけですよね?
…いや文字は読めるけど実際の発音は分からないとか…。
まぁそういうこともありますか。」
男は最後に自問自答し妙に納得したような顔で俺の顔を覗いてくる。
いや、待て待て。
辺境の地?確かに違う世界から来たのだからある意味辺境の地だ。
かと言って異世界から来たと言って信じて貰えるだろうか。
いや、ここで嘘をついても仕方ない。
正直に言って…どうなるかはどうなった時に考えよう。
言葉が通じるならばもし同じ世界だった場合、
日本という国は知っているはずだ。
多分。
まぁ俺も全て国を知ってるわけじゃないしここは日本のことを知らない国かもしれない。
ええい!賭けだ!
「あ、その俺…いや私は日本という所から来ました。
もし日本という所を知らなければ地球という所から…もしこれも知らないようであれば私は異世界から来た…。
ということになります。」
俺も子供じゃない。
初対面の相手には無礼のないよう一人称を改める。
一瞬「俺」と言いかけたがすぐ改めたから大丈夫だろう。
そう思っていると
後ろの2人、いや素顔が見えるのは1人か。
高校生くらいの女の子の方がこちらを見て慌てた表情をしている。
ペストマスクの方は微動だにしていない。
むしろ余裕そうだ。
だがやっぱり異世界から来たということをバラしてしまったのはまずかったかもしれない。
数秒前の俺を悔やむ。
だがそれより不敵な笑みを浮かべている目の前の機械人形の方が怖い。
「なるほど!そういう事でしたか!
なら突然この部屋に現れたのも、言葉が通じなかったのにも納得がいきます。
まぁ何故異世界にこちらの求人が伝わったのかは分かりませんが…。
何はともあれ働きに来たんでしょう?異世界人だろうと歓迎しますよ。
ところで名前はなんて…」
「ちょっと!その男を信用するの!?
異世界人だよ?もっとこう…えぇっと…。
危機感とかないの!?」
と機械人形の言葉を遮るように高校生くらいの女の子が言葉を発する。
その後も言い合いを少し続けていたが、ひとまず安心だ。
機械人形の方は俺が異世界人であるにも関わらず受けて入れてくれるようだ。
女の子の方は…どうやら警戒しているらしい。
いや、それもそうだ。
いきなり知らない男が来て、しかも異世界から来たというのだ。
疑わない方がおかしい。
俺だって同じ立場ならどうしても疑ってしまうだろう。
むしろすんなり受けて入れている機械人形の方がおかしいよ。
まぁ俺からすればありがたい話だから感謝しなくてはな。
そう思っているとどうやら言い合いは終わったらしい。
まぁ言い合いと言っても女の子の文句を機械人形の男がうんうんとなだめている感じだったが…。
「まぁ悪い人だったら来た瞬間に何かしているでしょうし、そうでなくても自分から正直に異世界人だと名乗りませんよ。
なにより彼は働きに来ているのですから。
ですがまぁ…異世界に伝わっているという時点でイレギュラーが起きているので彼も本意ではなく事故で来てしまった。
ということもありえますが…。」
そうだ、そうだった。
確かに俺は求人サイトでこの記事を見つけて、クリックした瞬間にこうなってしまったのだ。
まぁ事故と言えば事故だが、働こうとしていたのは確かだ。
しかしこれでここが異世界であるということが確定してしまったな。
おれはどうやら転移してしまったらしい。
それにしても転移か…どうせならチート能力とか貰える転生の方が…いやいや高望みしすぎだ。
むしろ異世界に来れたということに感謝せねば。
何故転移してしまったのかとかここはどこだとか色々聞きたいことはあったがその前に、言わなきゃいけないことがある。
「ここで働かせてください!!」
これで俺が少なくとも働く気はある、ということは伝わっただろう。
疑われているのならまずは誠意を見せなければ。
おっと、言ってみたはいいものの思えば
かのジ○リ作品の名シーンのような形になってしまった。
だがその主人公もそれで仕事を得たのだ。
正解であることには違うまい。
「ええ、もちろんですよ。ところでお名前は?」
そうだ、さっき女の子に遮られたが名前を聞かれて言ったんだった。
自己紹介か、苦手だ…。
いやいや、俺は変わるんだ。
「あ、えーっと。しゃ、佐藤…」
やべっ噛んじゃった。
そう、俺はよく人前で何か発表する時、噛んでしまう。
だから自己紹介は嫌いだ。
「ほう、シャトさんですか、いい名前ですねぇ。
こちらにサインを。」
あちゃー噛んだせいで下の名前まで言えず、しかも苗字も、噛んだ影響でそれと混ざってそれが名前みたいになってしまった。
だがまぁ、ここは異世界だ。
他の人の名前は知らないが日本人のような名前は違和感があるかもしれない。
そしてもう一度言おう、ここは異世界だ。
心機一転して別の名前を名乗ってもいいのでは無いか?
そう思い、気づけば俺の右手は渡された書類にサインしていた。
「…はい、確かに。
これで今日からあなたもここの社員です!我々の主な仕事はこのダンジョンの運営及び管理ですねぇ。
明日から研修…と言いたい所なのですが、貴方は異世界人なのでこちらの世界の事を色々教えなければなりませんね。
まぁそんなことは明日色々話しましょう。
まず自己紹介をしなければいけませんね!」
そういうと機械人形の男はここにいる本人を含めた3人の自己紹介をしてくれた。
まず俺が機械人形と心の中で仮称していた男は
ボレロというらしい。
ボレロと聞くとクラッシックを思い浮かべるが…全く関係なかった。それもそうか、ここは異世界なのだから。
そしてペストマスクの女はアビゲイルというらしい。
か、かっこいい。
聞いた瞬間思わずそう思ってしまった。
俺もまだまだ厨二だな、いや男の子だこういう響きにかっこいいと思ってしまうのは仕方ない。
そして高校生くらいの女の子はミーミルというらしい。
あら、これはまたかわいらしい。
思わず抱きしめたくなるような名前だ。
名前を抱きしめたくなる…考えると意味は分からないがこう、なんか分かるだろう?。
まぁそんなことはいいとして、
3人の外見についても触れておこう。
まずボレロだが
彼は機械人形だ。
普通の機械人形と比べて少し特殊らしいが…さほど変わらないと、
そう自分で言っていた。
伯爵のようなマントを装着していて
マントであまり中は見えないが時折出る手がスチームパンクのようなロボットみたいだった。
また肩から後ろ向きに、流れるような形のエンジンパイプのようなものが無数出ている。
長身だ、いかにもスチームパンクの世界観に出てきそうだな。
かっこいい。
そしてアビゲイル、彼女は人間に見えるが違うらしい。
尋ねたが、本人も教えてくれなかった。
だが、なんといってもミステリアスだ。
全身黒衣装。
その詳細は
ペストマスクにフード付きケープ、フードは常に被っている状態だ。ケープの下はよく分からないが腕を見る限り網タイツだった。
そしてコルセットミニスカートさらに
ガーターベルトにロングブーツを履いている。
スカートとロングブーツの間に見える絶対領域…なんとも言えないが刺さる人には刺さるえちえちさを感じる女性だった。
入社そうそう上司になんて事を思ってるんだ俺は。
最後にミーミル。
彼女も人間ではない。
俺は警戒されているのか彼女も自分の種族を教えてくれなかった。
だが彼女にはボレロと同じく身体的特徴があった。
角だ。
耳の上、いや上の…少し後ろかそのあたりに羊のような巻き角がある。
獣人?いや亜人…。いや竜人か?
まぁ彼女が話してくれるようになるまで聞かないでおこう。
人からプライベートなことを詮索されるのは嫌だろうしな。
まぁざっと3人の見た目はこんな感じだ。
だが俺は自己紹介が終わってふと思ったことがある。
「あの、すみません。この会社って3人だけなんですか?」
そうあまりにも少ないのだ、こんな人数でダンジョンを運営することができるのだろうか、
いや、今までやってきたから出来ると思うのだが俺は前世界の予備知識…偏見みたいなものがあるせいでどうも疑ってしまう。
「……。」
何かまずいことをいってしまったのだろうか。沈黙が続く。
単純な疑問として聞いたのだが…
はっ、前はもう1人居たけど死んでしまったとか?
もしそうだとしたら知らなかったとはいえ失礼にあたってしまう。
それ以外でもバカにしていると捉えられたかもしれない。
謝ろう。
そう思った時
「いえ、もう1人いるのですが彼は滅多に出会うことは無いでしょう。
彼はここの警備員的な役割でして、我々が対処出来ない異常事態がない限り姿を現す事は無いんですよ。私達も年に1回出会えれば良い方です。
まぁ、彼はこのダンジョンを常に監視しているので向こうは君のことを知っているのですがね〜」
ふ、深読みしすぎた。
向こうは俺の単純な疑問として捉えてくれたらしい。
危ない、次から気をつけよう。
年に1回とならば総決算とか大切な会議の時だろう。
確かにその時出会えるならば、その時でいいしな。
普段会えないそうだし、
とはいえいつもは陰で支え、いざとなったら本領を現す縁の下の力持ちみたいな存在か。
いや警備員なのに異常事態の時だけ現れるってそれは警備員といえるのだろうか、それとも小さな異常は姿を表さなくても対処できるのだろうか、常に監視しているって言ってたし…
だがこの3人が対処できない事態、ということは相当実力があるに違いない。
なんせ普段この3人だけでこの会社を運営しているのだからこの3人も相当優秀なのだろう。
出会っていないが、尊敬だ。
もちろんこの3人も。
「まぁ、自己紹介も終わりましたし、今日はいきなりこちらへ来て、見えない疲労も溜まっているでしょう。
あなたの部屋は用意してありますので今日は休んでください。
明日からよろしくお願いします」
そう言って握手を求めてきた。
「はい!こちらこそお世話になります!」
そう言ってその手を握り返す。
まだまだ不安があるがなんと言っても就職だ。
まぁ、大手ではなく精鋭のベンチャー企業みたいなものだがここは異世界だ。
そんなものは関係ないだろう。
とにかくここで働くんだ。
精一杯頑張ろう。
俺のファーストワーク、そしてセカンドライフなのだから。
いや、転生してないからセカンドライフでは無いのか?
まぁ細かいことはいい。
今日は休もう。
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