第9話 『翼を捨てて』
私はリア 今日からこのダンジョンで働く新人だ。
私の入る少し前に入った子がいるらしいんだけど
冒険者達に見つかって連れていかれたらしい。
大丈夫かな。って少し心配したけどなんとその子人間だって、なーんだ。
てかここ人間でも働けるんだ…。
人間にはあまりいい思い出がない。
私は背中に翼の生えている有翼種
私の村は人里離れた所にあって、数は少ないながらもひっそりと暮らしていた。
私たち魔族は人間から嫌われているらしい。
だから人間は私たちを見たら襲いかかってくるのだと、そう教えられた。
また、後から聞いた話だけど魔族は抹消対象だが、私たちのような種族は価値が高いらしくより人間たちに狙われやすいらしい。
人間は恐ろしいとはいえ子供の頃の私はよく理解していなかった。
何せ人里離れたこの村で人間など見た事ないのだから。
だから私たちと姿が全く違う化け物のようなものだと、おとぎ話のような遠い存在だと思ってた。
けどそんなイメージと安心感は一瞬のうちに崩れ去った。
ある日目を覚ますと、とても騒がしかった。
理由を聞くとどうやら人間達が攻めてきたらしい。
そこで初めて人間の姿を見た。
ほとんど変わらなかった。翼が生えているかいないかの違いだった。
けど次々に仲間たちが地面に落ちていくのを見ると恐ろしさが明確な恐怖に変わった。
私は家族に連れられて急いでその村を後にした。
燃える家、聞こえる悲鳴。
焼ける羽、落ちる仲間。
どれも信じ難かった。
信じたくなかった。
私たちはなんとか逃げることが出来たが、他にも逃げることの出来たものはいるのだろうか。
村は無くなってしまったが家族は無事だ。
私は村のことより家族が無事であることに安心した。パパとママは泣いていけど、まだ小さかった私にはパパとママの方が大事だった。
それから私たちは遠くの人里で暮らした。
小さな村だ。
そこの人たちはまだ優しい方だと思う。
だって殺さずにそこに住む権利を与えてくれたのだから。
けどそこでの生活は気分がいいものではなかった。
外に出れば石を投げられ、何かを買おうとすると元の十倍くらいの値段を要求されるか、酷い時は売ってくれもしなかった。
私は何度もそのことについてパパとママに訴えたが、
パパとママは命があるだけ幸せだと、何回もそう言っていた。
それから数年。そんな幸せも簡単に壊れた。
普段私は家の中にいることが多かったけどその日は珍しく散歩に出かけいた。
その日は恐ろしい程に人の気配が無かった。
パパとママは朝早くからどこかに出かけていた。
だがそれは好都合、絶好の散歩日和だ。
本当に村から人が消えてしまったのかと思うくらい人と出会わなかった。
普段川で遊んでる子供たち、野菜を売ってるおじさん。どれも私たちを見かけると石を投げたり蔑むような目で見てきた人たちが今日はいない。
とてもいい日だ。
こんなにすがすがしく村を歩けたことはない。
気分がよかった。
その日は村を出て少し遠くの森まで歩いた。
散歩から帰ってくるとパパとママが血を垂れ流して死んでいた。
村の連中が私たちの情報を国に売ったのだ。
ここは国から遠く離れていたから魔族はともかく、有翼種のことは知らなかったはずだ…。
けど情報というものは思ったより速かったらしい。
私はどうすることもできず立ち尽くした。
悲しむわけでもなく、怒りが湧いてくるでもなく、
込み上げてきたものは焦りだ。
今村には人の気配がないが、じきに戻ってくるだろう。
その時見つかったら殺されてしまうかもしれない。
そう思った瞬間私は走っていた。
大きな翼を揺らしながら。
飛んだらかえって目立つかもしれない。
私はただ走っていた。
どれくらい走っただろうか、もうここがどこかも分からない。
色んな感情がごちゃ混ぜになって気づけば泣いていた。
大声で泣いていた。この背中の翼を恨んだ。
こんなものが無ければこんな運命は辿らなかったかもしれない。
この翼がある限り私はきっと不幸だ…。
人間が憎い。…けどそれよりもっと…怖い。
それから私は決死の覚悟で背中の翼を切り落とした。
……っうぅ!……。ぐっ…。
痛い。痛い。
再び生えてくるのかは分からない。
けど今はそんなことより明日の命を考えなければならない。
背中の激痛に耐えながらなんとか回復魔法をかける。
回復魔法と言っても本来のものとは違い、有翼種に伝わる秘術で、痛みを止める方法と言った方が正しいのかもしれない。
その晩は疲労で倒れるように眠った。
ここは森の中だ。翼は遠くに捨てたし、止血もした。血の匂いでモンスターに襲われることはないだろう。
それから私は路頭に迷った。
当たり前だ。翼が無いから人のいるところへ行こうと思ったがまず人間社会なんて知らない。
ましてや生き方なんて分からない。
私は森の中できのこや果実を食べて、その日その日を凌いでいた。
けどもうすぐ限界だろう。
次第に力が無くなって行くのがわかる。
身体を起こすのにも一苦労だ。
私は再び歩き出した。いつ倒れるか分からない。
けどこの森にいても死ぬのは時間の問題だと思った。
だから歩くことにした。ただひたすら。
翼のない生活は不便だったが、その分重さが減った。
少しだけ歩きやすかった…と思う。
たくさん歩いた。
そしたら建造物が見えたので人がいるかもしれないと思い縋る気持ちで走った。
でも遺跡みたいなところだった。
絶望した。
こんなところ人すらいるわけない…。
気づけば涙が溢れていた。
何をしているんだろう。
私が何をしたんだろう。
翼まで切り落としたのに、私は…。私は…。
限界が来た。
私の目は開けることを止めていた。
身体も動くことを止めていた。
気がつけばベットの上にいた。
あれ…死んだはずじゃ…。
辺りを見渡すと全身黒でペストマスクをした
女の人がこっちを見ていた。
ひっ!
殺されるかと身構えていたが何もしてこなかった。
ただこちらを見ている。
「あの…ここは?」
勇気をだして聞いてみる。
すると女の人はダンジョンだと教えてくれた。
聞いたことがある、他種族のモンスター達が共生している幻の場所だと。
あれ、けどモンスター達の住処ならこの人は?
あ、もしかして喋れるモンスターとか…でも喋るモンスターなんて聞いたことない。
なんて思っていると扉から巻き角の生えた女の子と全身機械の長身の男が入ってきた。
「おや、目覚めたようですね。元気そうでなによりです」
機械の男が笑った。
これで核心がついた。
この人たちは魔族だ。
けど魔族とモンスターが共生なんて聞いたことはない、私の村でもモンスターは基本敵対していた。
ダンジョンでは違うのだろうか、不思議な場所だ。
それから色んなことを聞かれた。
倒れていたこと、翼がないこと…。それを話す上で過去のことを色々説明した。
村を滅ぼされて、家族を殺されたこと。
どうしようもなく翼を切り落としたこと…。
ペストマスクの人と機械の人は真剣に聞いていた。
巻き角の子は泣いてくれた。
そっか、泣いてくれるんだ…。
優しさに触れたのはいつぶりだろう。
そう思うと涙が出てきた。
そして彼らについても話してくれた。
機械の人はボレロ、ペストマスクの人はアビゲイル、巻き角の子はミーミルというらしい。
そして今ここにはいないがシャトという男の子もいるそうだ。後、ダンジョン内にはいるが滅多に出てこないオブザードという人もいるらしい。
彼らはここでダンジョンの運営していて、モンスター達と共に冒険者の成長や間引きをしているらしい。
私が路頭に迷っていることを伝えるとここで一緒に働かないかといわれた。
私は即答した。
それから一週間色々なことを教わった。
各階層の設備、モンスターの育成。ほんとは新人にはスライムを使った適性診断を行うそうなのだが事故でスライムを処分してしまったため、できないらしい。
ちょっとだけ残念だった。
ボレロやアビゲイル、ミーミルにはよく出会うが一週間たってもシャトという人に出会ったことがない。
彼もオブザードみたいにダンジョンにはいるのかと聞いたらそうでは無いらしい。
詳しく聞くとミーミルが目を泳がせていたが話してくれた。
どうやら冒険者に見つかってしまって連れていかれてしまったらしい。
そうここでの絶対的なルール。冒険者に見つかっては行けない
ミーミルはすぐ帰ってくるだろうと言っていたが
私はとても心配だった。
彼がそれを破ったことより冒険者たちに連れていかれたということが不安だ。
私は人間の非情さを知っている。
なんでそんなに平然としているのだろう。
そういうのはよくあるのかな。
よくあるからあんなルールが?
と私が不思議に思っているとミーミルが彼は人間だと言うことをバツが悪そうに教えてくれた。
ちょっとショックだった。だからミーミルは彼のことについて色々濁していたのか。
ミーミルは彼は私が思っているような人間達とは違うと言っていたが、人間は人間だ。
まぁけどここで働いている以上悪い人ではないのだろう。
でもちょっと嫌だな。
そうだ、彼は冒険者に見つかってルールを破ってしまった。
私より先に入った先輩なのに、失態だ。
それをダシに使おう。
そう思ってその日は終わった。
次の日にシャトという人が帰ってきた。
タイタントスネークと一緒に。
やっぱり人間だった。
けど不思議と嫌な感じはしなかった。
いやそれでも…。
私はやりようのない嫌悪感からその人を罵った。
ミーミルに怒られたがその人は私に怒るでもなく何かしてくるわけでもなく自分の非を認めた。
ありえない、そんな人間いるはずない。
私は続けて挑発混じりに挨拶をした。
流石に初対面でここまでされたら怒るだろう。
私は証明したかった人間の恐ろしさを。
けど違った。
その人は何も言わずに私の握手を返してくれた。
嘘だ…こんな人間いるはずない…。
こんな人間がいればあの時私は…私たちは…。
と思っていると彼は自分を連れ去った冒険者達の心配をし始めた。
ありえないと思った。声に出ていた。
やっぱり人間は人間だと思った。
するとボレロが駆け寄ってなにやら二人でこちらをちらちら見ながら話していた。
何を話していたのかは分からないが今度は彼が冒険者がここに来ることを心配し始めた。
さっきまで冒険者の心配をしていたのに
もうなにがなんだか分からなかった。
感情がぐちゃぐちゃになり始めたのが分かった私は寝ると言って自室に戻った。
すぐベットに転がり込む。
人間は嫌いだ。
全ての人間が悪だと思っていた。
けど彼は違った。私は勝手に決めつけて彼にあんな態度をとってしまった。
最悪だ。彼はなんとも無さそうに、むしろ自分が悪いと言わんばかりにしていたがそれはみんながいたからかもしれない。
ほんとは私に対して怒っているかもしれない。
ならあの時怒ってほしかった、なにかしてほしかった…。証明して欲しかった人間の恐ろしさを。
これじゃあ私が悪者だ。
魔族は悪だと決めつけて石を投げてきた人間たちと同じだ。
明日謝ろう。
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