Chapter2-3 迷子の迷子のスクリプトキティ 3
今回の見所は ゲットーブラスター(ガトリング) お約束 メンヘラムーブです。
ズギャギャギャギャギャギャ!!!!
大口径タイヤが砂まみれの荒れた舗装を激しく斬りつける。
「ったくまとわりつくんじゃねーってのボンビー共がよぉ!!!」
ミッド・ローに着いて最初の洗礼は金に飢えてて気合の入った貧乏人達の襲撃だ。 あからさまな重武装車両相手にパーツ剥ぎ取りにかかってくる連中にメイリンはブチギレ散らしている。
「ゾンビ映画じゃねぇ〜んだよクソが!! ビビらせてやっかんなチビりやがれや!!」
左右に車体を揺らしていたメイリンがハンドルに据え付けられたトグルスイッチを起こし右のパドルスイッチを押し込みハンドルを右に捻り込む。
押し込まれたのはガトリングガン始動スイッチだ、強烈な殺意を帯びた大出力モーターの轟きが車内に伝わったと思うと車体がその場で凄まじいターンを始めた。
「ちょ、ちょ、ちょちょ、待って!!やべえの回してるっスよね?!ダメっスよ!!殺しちゃ!!!」
「最初の60発は空砲……なんだよネ!!!!」
高気密の車内にすら問答無用で爆音のガトリングガン発砲音が響き渡り周囲のゲットー民達が散り散りに逃げていく。 メイリンはこういう女だ。 粗暴で乱暴で、基本的に容赦がない。
右に二、三回のスピンと空砲連射の後、車体とガトリングの回転が止まった
「早よ降りて!!!アタイがこいつらに実弾ネジ込む前にさっさと行ってよ!!!」
「行くぞルナ! コイツはマジでやりかねない!」
ラスティはルナの手を掴んでドアを押し開け飛び出すように車を降りた。ルナは手を掴まれたままそのまま転がり落ちる。
「じゃあねメイリン!また後で!!」
「一会儿见! 健闘を祈るよ!!」
私もSUVを飛び降りて見せつけるようにピストルカービンのレバーを引き薬室に.45口径を装填する。
背後で再度スピンを決めた重武装SUVが元来た道を爆発的な加速で去っていく。
「なんだ……コーポの兵隊……?」
「違ェ……違ェけどヤベェって……」
「見世物じゃないわよ、あっち行って」
カービンをちらつかせるとわずかに残っていた現地民達はそそくさとその場を去っていった。
「……良かった、マジで殺るんじゃないかって……」
「後5秒降りるのが遅かったら殺ってただろうけどな、ミッド・ローにようこそ、ルナ」
「ようこそ、アンタの知らないこの街の地獄に」
周りを見渡せばゴミ、ゴミ、何も知覚せずに自慰に耽っているジャンキー、ボロボロで蹴らなくても倒れそうな家屋、トタンの貼られたバラック、怯えた目の老婆、淀んだ目で腰のピストルを握ってこちらを睨む若者。
ミッドサイドに慣れた私からすればガラスの資本競争の延長線上にコレがあるのは特段不思議な事ではない。
「ラス、目的地までのナビをアタシらに送って」
「了解」
「……」
ルナは言葉を失っていると言った具合だ。
その原因がメイリンの行動なのかこの光景なのかはいまいちわからないが……。
電子視界にデータ受信許可ダイアログが表示されたので許可。 大まかな目的地までのナビとマップが共有された。
ミッド・ローのど真ん中からでも見える北の廃ビル街が目的地だ。
「作戦を言うわ。とにかく北上。 ラスティは偵察、必要があれば逐次狙撃。 アタシとルナは一緒に行動して回線を確保するわ
「了解、威力偵察だな。じゃ、行ってくる」
ラスティは聞くが早く強化脚で地面を蹴り家屋の屋上へ飛び上がる、あとは通信で報告を聞いていればいいだろう。
「行くよルナ、ボーッとしてたら頭抜かれるよ」
「え、うん、ハイ」
「ルナ? アタシらを助けてくれるんでしょ、しゃんとして」
目を見て肩を叩く。 さっきの鋭い目つきは何処へ行ったのか、いつもの綺麗で丸い目が怯えたように周りを見回していた。
「……っス、やるっス」
「行くよ」
怯えた老婆の視線を背に私たちは歩みを進める、目的地は北部、廃ビル外だ。
「回線の位置は見えてる?」
ルナの目が緑の光を帯び、周りを見渡す。
「全くダメっス。 ノイズが多すぎるっスよ。 衛星アンテナとか、無線モデムでもありゃいいんスけど」
周りを見渡すと三階建くらいの屋上にポツンと立ってるアンテナが見えたので指差す。
「多分アレじゃなくって?」
「……多分イケるっスね」
方向を定めた矢先、視界にラジオ帯由来の通信ノイズが走る。
電界アナライザを起動……周波数帯は……69MHz。 FM帯域外。音声復号を走らせる。
『こちらはFM69!! ローのクズども元気かな!! オレらのささやかな楽園にクソが紛れ込んだぞ!!』
随分わかりやすい宣戦布告だな。
復号した音声をラスティとルナに伝搬中継する。
『ターゲットは三人! 名前は知らねえがデケエ野郎と変な髪型の女とチビのビッチだ!! 情報提供者はオレらのリスナーの誰かだ! クソガトリングで楽園の住人がやられちまった! お前らの正義を見せる時だ、殺れ! 殺って首を持って来た奴にオレら69は応募者全員サービスを用意してるぜ! お前らの健闘を期待してる!早い者勝ちだぜ!」
クソ軽薄なBGMに乗せられたゴミMCの早口が口早にローの電界を駆け抜けた、流石はゲットーと言うべきか、耳が早い。
そして周囲の物陰からはどこに忍んでいたのか淀んだ目の連中が物陰から頭と銃を出してこちらを睨みつけていた。
「あのガトリングで誰も死んでないじゃないスか!なんなんスかこのラジオ!」
「ルナ、伏せて」
「え」
「伏せろ!!!」
ぼっ立ちのルナの腰に手を回して足を払い無理やりその場に寝かせた。
義眼の戦闘モードを起動しスキャンを掛けたが結果が出ずとも敵が多すぎる事は把握できた。
やるしかない。 カービンを両手で握りーー
思考入力ーー加速倍率3.0ーー
コマンドを受け付けたサイバーウェアが駆動を開始,
即座に心拍が2倍近くに跳ね上がり背中の奥が疼き出し、時間感覚が歪む。
息が苦しくなるが、これすらあくまで準備運動だ。
電子視界には〈エクセラMk.3 起動チャージ__80%〉の表示。
電気刺激により副腎から解き放たれたアドレナリンで思考が殺意に染まる。
〈エクセラMk.3 起動チャージ__100%〉
エクセラーー起動。
普段は気にも留めない空気の質量が、肌に触れるナイロンウェアの繊維の荒さが、踏み締めた地面から舞った砂埃の粒の一つ一つの軌道が目で追える程の加速感が私を包み込む。
全神経アンプリファイア〈エクセラMk.3〉
肉体と精神の消耗を代償に刹那の加速を得る、奥の手だ。
足を捌き体勢を下げながらその場で一回転し周囲を確認 敵数……7。正面に五人、後ろに二人。
距離は30m以内、正面右から片付けよう。
回転を継続しカービンを構えた腕を動かす。右の一人目、頭部をサイティング。 1回目の引き金を引く。
引き伸ばされた銃声、どうせ当たる。
眉間が爆ぜる、ピンダウン。
左に傾けて次の一人と二人、固まっている。 頭部を順番にサイティング。 2回目、3回目、4回目の引き金を引く。
引き伸ばされた銃声。次。
視界の隅で三人の眉間が爆ぜる、ピンダウン。
積まれた土嚢から頭を出してこちらを照準しているヤツの頭にサイティング 5回目の引き金を引く。
引き伸ばされた双方の銃声ーー次だ。
銃弾が私の傍を掠めたが敵の眉間は爆ぜた、ピンダウン。
電子視界を確認。
〈エクセラMk.3 駆動可能時間__20%〉
エクセラを使える時間は決して長くない、駆動が終わればすぐに加速の反動が来る。
急げ、私。
振り返りざまに目があった鉄パイプを握ってこちらに突っ込んでくる二人組の頭に照準を合わせる、これで最後。 6回目、7回目の引き金を引く。
引き伸ばされた銃声がーー
「ぐげっ!!」
時間感覚が急速に通常速に戻り、鉄パイプ持ちの二人が死体になって足元に転がった。 なんとか凌いだがーー
「いっっっ!……てぇ……っ!」
ーー加速の代償は即座に支払う羽目になる。
急激かつ高速の運動に脚の組織が悲鳴を上げ、認知を過剰処理した脳が糖分を使い果たしたのか疼くような頭痛が走り、足がふらつき視界がブレる。
「あー……クソッ……初っ端から使いたくなかったんだけど……」
過去の体験から比較すればこれでも反動としては軽い方だが、やはりコレは生身で使う代物ではないと痛感する。
「え……ちょ……イノセント…………嘘でしょ……」
「行くわよ。 ここにいたら何回やってもキリが無ェわ」
完全に怯えきった目でこちらを見るルナの腕を掴み走り出す。
「いや、え、ねえっ、イノセントっ!」
こんな道のど真ん中でくっちゃべる暇は無い。無視。
『こちらラスティ、早速やってるなイノ』
ラスティからの短距離通信が入る。
「連中、アタシら来るのわかってたね」
『……路地のど真ん中でミニガン撃ったら誰だって勘付くだろ。メイリンが悪いな』
「ハァ……そっちはどう?」
『屋根上は平和だが、ビル側からたまに電子捕捉が飛んできてる。 ICEで誤魔化せてるが少し面倒だな』
「OKそっちまで走るから援護お願い、アンプ使ったから目ぇブレてやばい」
『おいおい……別れて行動するべきじゃなかったな』
「とにかく行くから」
ラスティの座標へと駆け抜ける、途中で何度か殺意と銃声を感じたが今は無視。
『見えた、後ろの奴は任せてくれ』
前方の3階建ての屋上でDMRのスコープが一瞬だけ太陽光を反射するとサプレッサーで抑え込まれた銃声がボロ家街の谷間に響き、後方で何かが派手に倒れた音が聞こえた。
『ピンダウン。もう一人いる』
再び銃声。
『……む、硬いな』
「アタシが殺る!」
ルナの手を離し左膝を地面に着いて全速のスライディング180°ターンを敢行しながらカービンのセーフティをフルオートに切り替える。
大柄な、おそらくは肉弾系傭兵が腹を押さえながらこちらに向けたサブマシンガンの銃口が光った。
「ぐっ!!!」
胸に激痛が走る。
喰らったーー
……が、貫通せず。
反射的に指先が引き金を絞り、45口径がフルオートでデカいガタイへと吐き出された。
「ヌァッ!!!アッ!!グッ…!!」
傭兵の動きは止まったが、地面に微かに血が垂れただけだ。致命傷には至っていない。 おまけにカービンは弾切れだ。
「プレキャリと強化神経かよ」
すかさず1911を抜き、頭をサイティング、引き金を絞る
「ンヌァ!!!!」
ピンダウン。
「……いっ………てぇ……けど……流石ナイロンハゲだわ……」
プレキャリの被弾部位を手で払うとおそらく9mmのひしゃげた弾頭が地面に落ちた。
「大丈夫か!!」
いつのまにか降りてきていたラスティが後ろにいた。
「貫通はしてないけど……あー……ハァ、やっぱ痛いモンは痛いわね……」
被弾箇所を確認したいが弾切れを思い出したのでカービンの並列ジャングルマガジンを2本目に交換してボルトをリリース。
「とにかくここじゃ危険だ。 一旦隠れるぞ」
ラスティを先頭にして私たちは再び走り出した。
「どっか目星あんのアンタ」
「無い、なんでもいいから屋内に入って立て直す」
「あーーーいーーーよーーー」
振り返ると後方から再び二人の人影だ、マジでキリがないーー
「前向いて下さいよ!!!!ウチがやるんで!!!!」
ルナがプレキャリに付けたフラッシュバンのピンを引き千切り後方に放り投げた。
!ーーーーーーー!
鋭い爆発音が耳をつん裂き聴覚が無効化される。
体ごと振り向き目が眩んだヤツらにカービンを連射。
ピンダウン。
再び走り出し、角を曲がったラスティについていく。
「ーーーだ! ドアをブリーチする!」
ラスティがボロ家のドアノブの上に二、三回拳を合わせーー
「ふんッッ!!」
ラスティの腕のスキンパネルが展開、圧縮空気を排出、凄まじいパンチがドアノブの横に大穴を開ける。
「開けた! 早く入るんだ!」
ドアが開きラスティが部屋の中をクリアリングしたのを確認してルナを押し込みながら部屋に逃げ込みドアを閉める。 中の様子はというと狭くて雑多なゴミと空き缶が散らかったタバコと生ゴミとカビの匂いが立ち込める粗末極まりない空間だ。
「一安心だなイノ、傷を確認しておけ」
「……うん」
一応の安全地帯を確保した瞬間に一気に気分が落ちてきた。エクセラの反動だ……そしてこっちこそが本質だ。頭が……全身が痛い……。
「イノ」
「……わーってる」
プレキャリの襟のクイックリリースストリングを引くとバックルが全て解除されてマガジンとポーチがついたままのプレキャリが前後に分解され足元に落ちた。
「ルナ、顔色が悪いぞ」
「え、ええ……はい……」
「あまり無理するなよ、でも仕事はやるんだ、いいな?」
「ハイ……」
「そこのネットワーク端子が使えないかチェックしてみてくれ。得意分野だろ?」
……無性に居心地が悪い、イライラする……シャワールームは……あった。
ヒビと水垢とカビ塗れの鏡の前でウェアのジッパーを下ろして胸元を確認。 右胸に青黒い打撲痕……指を押し込む。
「い"っ!」
激痛に思わず声が漏れる。ただの打撲じゃ無いな……肋骨にヒビでも入ったか。 ……余計にイライラがーー
「あ"ぁ"っ!!!クソが!!!」
急激に火のついた怒りのまま鏡を右ストレートで殴り割る。 破片が拳に突き刺さり、余計に怒りが増幅される。
「お、おいイノ!何やってる!」
「うるさいッ!!なによ!!」
怒りがさらなる怒りを呼ぶ、なんで私が責められないといけないんだ。
「落ち着け、アンプの反動だろ!」
「だったら何よ!!悪い??!!」
「暴れても何やっても落ち着かないのはお前がーー」
うるさいうるさいうるさい!!声が頭の中でガンガン響いていたい!!
「うるさいッッ!!!うるさいっての!!!放っといて!!!」
「イノセント!!」
「だから!!!何よ!!!」
右腕を振り上げーー
「……俺を殴れないのはわかってるだろ」
反射で放った右ストレートは腕を掴まれて不発に終わる、なんで、なんでなんでなんで!!!!
「離してよ!!痛いのよ!!」
「離すかよバカ!」
「だから痛いんだってば!!!」
腕からラスティの手が離れーー
「っ!!……ぅっ」
体を包み込まれる。
「イノ、いいから落ち着けって」
「離してよ!離して!!」
硬くてゴツい体で体を拘束される、抱擁というよりは拘束だ。いくら暴れても抜け出せる気がしない。
「イノセント、落ち着け、頼むから落ち着いてくれ、な?」
明らかに硬い機械の感触、それでも体温はある。
「ぐっ……うう……うぁ……」
怒りの火が急に消える。 そして異様に中身のない悲しみが私を襲った。
「う……うぅっ……ひぐ…っ……」
喉がせり上がり、涙が溢れはじめた。 ワケがわからない、奔流としか言えない感情の振幅。
「大丈夫だ、大丈夫……苦しいな、大丈夫だ」
「……ラス……うぅ……ごめ……」
こうなるとダメだ、エクセラの反動でこうなるのは分かってはいた、いたが……。
「よしよし……大丈夫、大丈夫だな?」
「ひぅっ……うう…うん……うん……もうちょっとだけ体貸して……」
「うん、うん」
反動の原因は闘争と高速思考に適したホルモンバランスに装備者を即座移行させる機能の裏返しだ。
過剰に分泌されたアドレナリンその他諸々が切れる頃、肉体の加速負荷の痛みと共に全てが精神へのしかかる。
そういう機械なのだ。
「えぐ……ぅ……ん、んう……」
ラスティの硬い手が私の背中を撫でている、彼の手の安らぎに助けられたのはこれで何回目だろうか……。
「……やっぱりお前に合ってないぞ、エクセラは」
「……そうかな……そうかも……」
エクセラ自体は割と一般的な全神経アンプだ、そこまで相性の問題を聞いたことはないが……この惨状を考えると実際に合ってないのかもしれない。
「次の報酬で別のに変えた方がいい。 じゃないと死ぬよりお前が壊れるほうが先だ」
「んん……うん……」
「戻ったっス。なんかすげえ声聞こえたんすけど……って……えーと、あの、お取り込み中っスか?」
ルナが頸からケーブルを垂らしたままシャワールームに顔を出す、見てはいけないものを見たような表情をしている。
「んん……ルナ、コレはそういうアレじゃなくてね……?」
「メンタルケアだ、荒療治のな」
ラスティの体が私から離れる。
「……やっぱあーたらデキてるんじゃ」
「ルーナー……?」
「わ、わーっ、冗談スよ!冗談! それはそうと回線は確保したんで次の作戦っスよ、ね?」
「そうだな、次の手を考えよう」
ラスティは何もなかったようにリビングへと戻った。
私も戻ろう……。




