Chapter2-2 迷子の迷子のスクリプトキティ 2
今回の見所は 美少女の……ゲロ! ブリトー 生きてるタンパク質です。
「Ciao〜イノセント、お久。ご機嫌いかが?」
なんだか嫌そうな顔をしたルナをラスティと引きずって地表に辿り着くと顔馴染みのタトゥーバチバチ赤髪ツインテールマオカラーチャイナ女がガトリング武装大型SUVに寄りかかって黒いガムを膨らませていた。
「お久しぶりメイリン。そっちこそご機嫌いかがかしら?」
「チャオ、メイリン。 よろしく頼むぞ」
メイリン・シャオ ウィンストンのカンパニーでたった一人の輸送員だ。
「ボチボチって感じ? まあ早く乗ってよアタイも暇じゃないからさ〜この後美容院入ってんの」
促さられるままに車高がクソ高いSUVの後ろに三人で乗り込む。 車にしては妙に天井が高い。
「行き先だけど」
「ミッド・ローっしょ、ハゲから聞いてっからアタイに任せてリラックスしててよ〜車内サービスはウォーター™︎だけだけど、アハッ」
言い終わる前にメイリンはウォーター™︎をこちらに3本放り投げてアクセルを底まで踏む。
激しいスキール音が車内に響く。
「んじゃファットブルーム? なんだっけアンタら」
「アッシュブルームね。 ファットブルームはチョコレート」
「ハイハイ、アッシュブルーム御一行を地獄にお送りします〜〜車掌はアタクシ メイリン・シャオでございます〜〜座席にしっっっっっかりお掛けになってシートベルトをおしめみたくしっっっっかりお締めくださ〜い、死ぬほど揺れるん……でっ!!」
「んみっ!みゃぁっ!!!」
言い終わった矢先、一瞬で何キロ出したのかわからないレベルのGとフロントが持ち上がる感覚に襲われルナの頭が後ろにめり込んだ直後に綺麗な茶色の目がついた顔面が前の座席にめり込む。
廃棄区画のやや荒れたコンクリを軽々と切り付けて武装SUVは爆音で走り出した。
「いったぁ………」
「そ〜いやさあ、そのおチビちゃんは誰? 知らないんだけど〜」
「……新入りのルナっス、よろしくお願いします」
ルナは座席にめり込んだであろう鼻をしきりにさすっている。
「アーハー、ルナぁ? イノに名前つけられたんしょ、カワイソ」
「アタシら自慢のダイバーよ、この子は中々やるよ?」
「ハイハイ、アタイはメイリン・シャオ。ヨロシクね〜」
「うぅ……ヨロシクっス」
SUVが舗装路に辿り着く。 アクセルは相変わらず全開のまま、たまにいる普通車を雑にブチ抜いてさらに加速していく。メイリンの運転は極めて早く極めて荒い。
「しっかしさ〜今回の依頼人ラウドだっけ? アンタも好かれてるよね〜」
「あんなのに好かれても寿命縮むけどね、ハァ」
どうにもラウドは私が気に入ってるらしく割増料金で仕事を寄越してくることが多い……が、あまりギャング周りの仕事はしたくないのだが本音だ。
「ま〜ギャングにしちゃルール守る方っしょアイツら〜、
不払いしねぇ〜しさぁ」
「依頼に託けて抗争に巻き込んでくるから困るのよ、今回だって絶対そうだもん」
「連中の常套手段っしょ〜すんげーちっちゃい代理戦争ってゆ〜かさぁ〜」
「そもそも傭兵自体が金で買える兵力だ、原義的かもしれん」
ラスティはそう言いながらDMRに大型サイレンサーをつけている。
「とはいえ、本来の傭兵はこんな街中の私的な殺し合いなんかはしないらしい。 旧日本どころか世界的にもここまで傭兵が安いのはガラスくらいだそうだ」
「命の安い街よね、ホント」
「嫌になるが、同時に金にもなる。 俺らが食っていける理由でもある」
「ま〜〜さぁ、難しい事ヌキでアタイはテキト〜にこの子ブン回して稼げればいいんだけどネ、ハーイちょっっと右に曲がるよ〜ん」
メイリンがハンドルをネジ切れそうなほどに回しながらコーナーを曲がるとリアタイヤがコンクリに削られる音が車内に響く。
「ぅっっえ、てかマジで運転ヤバイっスね……頭グラグラするんスけど……」
「酔い止めはないからゲボ吐くなら窓開けて〜って真ん中にいるんか〜〜い! 我慢してネ!」
「スパルタすぎるっしょ……うう……」
ルナは私とラスティの間でぐにゃんぐにゃんになっている、可哀想に……。
「ビニール袋ならあるからいざって時は言ってくれ。 吐く前にな」
そう言ってラスティはポケットを漁る。 この辺は出来る男である。
「さーてぇ、まだまだ現地までは遠いけど〜〜途中で一回休憩入れるから今のうちに何食べるかは考えといてね〜ダラダラしてたら置いてくから〜〜」
「なんも食いたくねえっすよ……うぐぐ……」
ルナは私とラスティの間で何度もえずきながら必死に耐えている。 本当に大丈夫かしら……。
ーー1時間後、ミッド・ロー境界地帯
「さ〜〜て地獄の手前の最後の安息に到着です〜〜49分後に再出発いたしますので遅刻厳禁でメシ食ってきてくださ〜〜い」
メイリンの激しい運転をなんとか吐かずに耐え切ったルナを座席から引きずり降ろして背中をさすってやる。
「うぶっ……うえっ!」
膝をついたルナのか細い背中が震え固形物のないゲロが無人ガソリン™︎スタンドのコンクリに吐き出される。 可哀想に……。
「よしよし、ここまで頑張ったのは褒めてあげるわ」
「んげっ……んべっ……なんなんスか……あの運転……てかなんで二人して平気なん……」
私とラスティはといえば慣れもあって普段通りである。
慣れていないとここまで酷いことになるんだな……。
「はー……はー……うー……この後、戦うんスよね……ぺっ……」
「酷な話だが、その通りだ」
メイリンから受け取ったままの未開封のウォーター™︎をルナに握らせてラスティはルナの肩をポンと叩く。
ルナは空元気を絞り出すようにフラフラと立ち上がろうとするが、足元はおぼつかない。
「どうしてもダメならクスリはあるけど」
酔い止めというか気力を保つための薬なら何かあった気がしたがーー
「やめろイノ。 俺らと同じように考えるな」
ラスティに止められた。
「俺らみたいに戦場慣れしてるわけじゃないんだ。今、体で慣らさないでどうする」
「……そうね、うん」
「どーせ出てくるのハッパかなんかでしょあーた……うー……ぐやぐやする……」
ルナはこのまま休ませるとして、何か腹に入れておこうかと思い広告パネルを白昼堂々ビカビカ光らせながらズラズラと並んでいるコンビニエンス自販機クラスター"FABO"の前に立つ。
『あなたのオキニがきっと見つかる!ゼッタイ見つかる!多分見つかる!FABOです!』
無限ループしている聞き馴染みどころか街中で聞き飽きた広告合成音声を聞き流しながら何を食べようかと眺める。
品揃えはといえば広告でお馴染みのラージ社のブリトー、国産"肉"を謳うバーガー、全くボタンが押された形跡のないおマミ、内臓置換者向けの大豆代替食品など様々だ。
「しかし、ルナだが……」
「ルナがどうかした?」
いつのまにか隣に立っていたラスティは何やら微妙な顔をしている。
「月並みな心配だが、今日一日耐えれるか心配だな」
「んー……ごもっともだけどたった一人で企業圏に入り込んでなんだかんだワイバーン相手に生き残ったのよ?大丈夫でしょ」
と、言いながら車の方に振り返ると再びコンクリにゲロをぶちまけているルナの姿が見えた。
「ウェー、そんな吐くなら車から離れてよんルナ子〜〜汚したら怒るよアタイでもさぁ〜〜」
泣きっ面に蜂とはこの事でメイリンは背中をさするでもなくSUVに寄りかかってケタケタ笑いながら携帯端末をいじり倒してる。薄情な女だ。
「……たぶん大丈夫」
「死なせないようにしないとな、お互い」
ハァ、とため息をつきながら私は『グレイテスト・ビッグチリチーズブリトーXXL』のボタンを押す。
1分ほど待つとあからさまに食感に違和感……というか不快感のあるチリビーンズとほぼ脂肪の味しかしない自称チーズソースが包まれたジャンクなブリトーが電子レンジ作動音の後にアツアツホカホカで吐き出された。
ラスティはどうするのかと眺めていると彼はいつも通り『ファッ×ンラージ・ケミプロテインチリチキンブリトーXXL』のボタンを押し込んだ。
一欠片で口の中がいっぱいになるチリチキン風味プロテインが大量に包まれたブリトーだ。 私もたまに選ぶことがある。
「ラスっていつもそれよね」
「そう言うイノはチーズ入り以外選ばないだろ」
「脂肪はアタシらの燃料じゃん?」
飲み物は……ウィコーラのトリプルツイストでいいか。
あの安っぽいレモンとライムとミカンのフレーバーとプルタブを起こした瞬間に発砲音に近い爆発を起こすレベルの強烈な炭酸がなんだかんだ気に入っている。
ボタンを押し込む。
「俺もそれにするからもう一本買っといてくれ」
「あいよ。 ルーナー?アンタはなんか飲むー?」
呼びかけると今度は何とか立ち上がってこちらにフラフラとよってきた。
「アマギの……お茶……あとお茶VAPE……」
アマギのお茶か。
地味に高いのであまり飲んだことはないが風味自体は極めて上品、カフェインの効きも穏やかで体感が良かった覚えがある。
製品自体は自販機のラインナップに数種類入っていたのでとりあえず一番値段が高いボタンを押し込むと絵本で見たような竹筒風のフィルムが貼られたペットボトルが吐き出された。
高いな……ウィコーラの3倍か……働きで返してもらうか。
お茶VAPEはさっと見渡して見つからないのでルナに¥$札を渡して探させることにした。
「とりあえず食っておこう、今日もどうなるか分からんからな」
「そうね」
そう言って私とラスがウィコーラのプルタブを一気に起こすと銃声に近いガス噴出音が無人ガソリン™︎スタンドに響き渡った。
ウィコーラの炭酸圧は他のソーダに比べてあからさまに異常な高圧で空き缶すら他社の炭酸飲料缶に比べて明らかに重い。 おそらくは高圧ガスに耐えられるような特別製だ。
「……今回の救出対象だが、まだ生きていると思うか?」
お互いにブリトーを齧りながら飛んできた話題がコレだ。こいつにデリカシーというものはない。
「69がどんな奴らかわからないから何とも……でも女の子でしょ、無駄に殺して冷たくする理由も無いんじゃない? 男にとってはさ」
「嫌な方向の想像だな……」
「アタシら女からしても体が冷たい男は興醒めなのよ」
「あんなに乱れておきながらよく言う……」
あの晩の事か……ラスティの身体は触れるとこで感触も温度も違いすぎてかなり面白かった。
「そういうこと言うから彼女いないんでしょアンタさ」
「お前だから言ってるんだよ……んん??」
ブリトーを齧るラスティの手と口が止まり、若干の迷いの後に喉仏が動いた。
「どうしたの?」
「……また"当たり"を引いた、動いてる」
ラージ社のブリトーに使われる肉はたまに口の中で動く。 何故かは……あまり考えたくない。 そういうものなんだろう。
「よく当たり引くよねアンタ、宝くじでも買ったら?」
「その運を使ったのが今なのが残念だ、もう少し噛むんだったな……腹の中で動いてる」
「吐くならせめて自販機の裏にしてよね」
「うーむ……」
「……なんかアタシのも動いてる気がしてきたわ……」
「……似たようなもの食ってると不安になるよな、ラージだし……」
たまにはマトモなモノが食べたくなってきたな……。
ルナの世話をしてた時のジャンクな食事ですら久々だった私にとって、こんな事が目の前で起きるとこのブリトーがいかに適当に腹を満たすために作られた工業製品かを思い知らされる。
マトモなメシ屋……ミッドサイドの……あそこがいいな。
「終わったら久々に"酔鯨"でも行く?」
屋台街の外れにある和食屋だ、店主は元コーポ圏高級ホテルの板前との噂がある。
「あの和食屋か、悪くないな。こんなモノ食った後だから余計に魅力的だ」
「ルナの顔見せもしたいしね、そうしよっか。アンタの奢りね」
「なんで俺が、まあいいが……」
そんな話をしているといくらか調子が戻った様子のルナが煙を吐きながら戻ってきた。 目当てのものは見つかったらしい。
「これお釣りっス。 ……ここまでミッドの端っこに来たのは初めてっスよあーし」
「ありがと。 まあコーポ圏暮らしじゃ用ないでしょうね」
「いろいろ覚悟しておいた方がいいぞ。 楽しい場所じゃあない」
「……わかったっス」
ルナはため息混じりにお茶のボトルを一気に煽ると、何かスイッチが入ったような表情に切り替わる
「やってやるっスよ、ええ」
「お、なんか分かんないけどヤル気入った感じね」
「あまり無理するなよ」
「別に無理なんて無いっスよ、やる事やるんで」
そう言ってルナは私に歩み寄り、真っ直ぐにこっちの目を見る。 ……ほんと綺麗な目してる。 で、何この状況。
「……あと、ウチはコーポじゃないんで」
「ん、そうなん?」
普段の丸い目に比べて細く、鋭い目つき……さてはカフェインが相当効いているのだろうか、にしたって様子がビミョーだ。
「そうっスよ、だからコーポ扱いはやめてもらっていいスか?」
「わかったよ」
「……まあ、そのうち話すんで。
先戻ってるっス」
そう言い捨ててつかつかとルナはSUVへと向かう、時折派手な白煙が口元から広がっては空気に紛れていった。
「……何かしら、今の?」
「さあなぁ、何か気に障ったのか、単純にビビってるのか」
考えても仕方がない。 今は仕事をやるだけだ。
私とラスティはブリトーの包み紙と空き缶をゴミ箱に放り込んでSUVに戻ることにした。




