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Chapter 2-0 INTRODUCTION

この街は爆発と共に生まれた。


世界中の企業が結託した企業連合による日本への『粛清』後に第五次世界大戦と称される戦争が全てを焼き尽くした。


西側・東側両側から最大のアジア脅威とされた島国。その首都を地盤とする企業群とその情報・技術を灰にする。

企業連合が秘密裏に製造していたメガトン級水爆クラスター、『核の炎に』より焼き尽くされ、同時に展開された小型携行核爆弾による対日系企業テロにより各国の支社も焼き尽くされた。

文字通り、根も枝葉も焼き尽くされた。


栄華を誇ったネオン街を、権力と資本を象徴する超高層コーポレートビル街を、西暦以前から続く王朝を、そして人々を。

水素同位体の熱核反応による絶滅的暴力は、有象無象の区別無く全て焼き尽くした。


抵抗は無かった。 する暇も無かったと言っていい。宣戦布告すら行われなかった『行為』に、なすすべは無かった。


残ったのは構造物と砂に含まれるケイ素がガラス化した地表。 文字通りの焦土。文字通りのガラス。


全ては企業連合の目論見通り、日本という国家の名称、金融と重工業に支えられた支配力は一瞬にして崩壊したのだ。


過熱した地表が冷却され、かつての首都に最初に降り立ったのは各メガコーポの尖兵達だった。


後に『第ゼロ世代のサイボーグ』と呼ばれるものたち。年表機能が廃絶した現代では、再現不可能な技術が惜しみ無く注ぎ込まれた強化改造人間の兵士達だ。


彼らはそれぞれの仕える企業のイニシアティブを確保する為に殺し合った。

東京をゼロにする為の作戦では手を取り合っていた連合は、そのゼロ以降を手中に収める為に、一瞬にして互いに掌を返した。返した手で拳を握り、殴り合った。

ここで戦術核が用いられなかったのは、再度の熱核反応による地盤の脆弱化を恐れたとも、企業体が長期の無人化を厭うたためとも言われる。


しかし占領戦は長期化し膠着する。企業連合とは、そもそも同じ程度の地盤、パワーを有した企業体たちの寄せ集め。似たような装備、同様の練度、同じようなサイボーグたちがしのぎを削るうちに、疲弊か、良心か、はたまた私欲か、定かでは無いが主人に反旗を翻す者達が現れた。


彼らは後に『第ゼロ世代のサイバーパンク』と呼ばれることになる。


第ゼロ世代のサイバーパンク達は、ガラスと化した土地で非現実な程に強化改造された肉体を駆動させ、自らの同僚、上官、部下すらも殺し、それぞれの思惑の為に動き出した。


企業連合は彼らを重大なリスクと判断した。地盤脆弱化より、長期無人化による利益損失より、企業統治への挑戦を、より重大なリスクであると。

そして、もう一度東京を焼き払った。


反抗は不可能であり、愚かな行為であると示す為に。


その時、兵士達は完全に諦観した。

どこの誰とも知られざる一兵士のメッセージが、アーカイブに秘匿されている。


"This body, will, and soul are no longer our own."

(この身体も意志も、魂も既に、我ら自身の所有物では無い)


二度目の焼滅後、復興は早かった。


企業連合は解体された。連合の意義を喪失した各企業は、それぞれがガラスと化した東京にそれぞれの権力の象徴を創り上げた。


旧地名で港区と称された地域には一年もせずにメガコーポのビルが立ち並び、各国から人員が送られた。


立法府も警察力も一切が焼滅し、治安維持の機能そのものがない土地。ガラスの街で企業は自治を始めた。 国家に縛られない倫理放棄地帯で、企業はそれぞれの利の為に際限の無い技術開発の輪廻を紡ぎ始める。


それが今のガラスの街を作り上げた。


メガコーポ雇用者は、ガラスの全人口の1%に満たない。その狭き門をくぐる為の非人間的な教育産業。

落ちこぼれすら拾い上げ、『人材活用』する優しい顔をした営利システム。

コーポレーションに入り込めた幸運な1%を、血の一滴まで食い尽くす資本主義暴力。

明日を食い繋ぐ想像すらできず、今日の夕食代にも困窮する貧民にも、サイバーウェアは埋め込まれる。

全人口の80%が銃火器を所持し、自衛することでしか保てない治安、あるいは治安の不在。

全ての社会階層で繰り返される悲劇、悲劇を理解すらできぬほどの洗脳。

そして暴力が唯一の、即座な解決手段として常に選択される人心の荒廃。


かつての東京では、日本では見ることのなかった光景が日常に広がっている。


これがガラスの街だ。


「……なんでそんなことを知ってるかって? 知ってるからさね」


女は独り言を呟く。膝の上で、暖かい生き物が小さく鳴き声をあげた。


「私が誰かって? この表現は何の為に? その内知るかもしれないねぇ」


膝上の猫を指先で撫でてやりながら、カメラに向かう述懐は続く。


「生き意地の汚い人間ってのはいるんだ、いつかそのうち会うだろうよ」


それ程のガッツある人間がいるはずだという希望、あるいは確信をこめて、ウェルカムメッセージを撮る。


「ようこそガラスの街へ、無限の可能性の夢〈ゴミ〉の街へ」



今回は切身魚/Kirimisakanaさんによる加筆をいただいております。 いつもありがとうございます。

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