Chapter 1-7-2傭兵バック・イン・ダ・フッド〔中〕
今回の見所はナイロン 変態 ハゲです。
「やっぱ下町といえば歩き食いっスよね」
アルの店からメインストリートを目指して歩いている途中でホットドッグ屋台を見かけたので遅めの朝食を取ることにした。 私はプレーンを、ルナはチーズドッグを受け取って季節外れの蒸し暑さに辟易しながら目的地へと再び歩きだす。
「わーかーる。 屋上じゃこういうの中々食べれないから沁みる」
「……ほんと下に降りて来る事無いんスね」
「苦手なのよね……おっと」
真昼かつ、大通りに近い事もあり人通りが多い。 歩きながら電子視界を注視してるようなヤツも多いので上手い事避けながら歩く。
今目指しているのは服屋だ、それもただの服じゃない。 私達の仕事に耐えうる、特別頑丈なヤツ。……そして店主も特別ド変態なヤツ。
「ん、口にケチャップついてる」
子供か……。
「取って?おねーさん?」
「しゃーない子ねぇ」
随分とノリのいい事だと思いながら指で拭ってやる。 指先はホットドッグの包み紙で拭いた。
しかし……なんだ? カノジョごっこか妹ごっこのつもりなのだろうか。
「さて、そろそろ着くけど……ド変態だけど悪いヤツじゃないから、安心して」
「事前に忠告するってどんなド変態スか……」
「……会えばわかるよ、うん。 ……着いた」
雑然とした通りの中で異質な英国風の店構え……企業の金持ちしか買えない趣味の悪いハイブランドとも、JKが食いつく流行りのチープブランドとも、無個性のマスプロ系とも違う、敬意を含めていうなら時代錯誤の装いだ。
店前のショーケースには明らかに仕立てのいいスーツ……イギリス式だっけか? そういえばイギリスって国自体はとっくの昔に無いんだっけか。
……そのイギリス式らしい硬めで艶やかな黒のエッジが効いた2ボタンジャケット。 非常に細身で刃物じみた折り目のついたパンツ。 ベストは上品な朱色。輝きすら纏うほど突き抜けて白いボタンダウンのシャツ……その全てが非常に分厚い防弾ナイロンで作られたセットアップが飾られている。
ぱっと見こそ上品で紳士的な雰囲気だが、近くで見れば会議室よりも戦場が相応しい服だとわかる。
もしも商談相手がこんなものを着てきたら内容よりも重武装していないか不安になりそうな……そんなオーラを纏っている。
入り口横の吊り看板の金具は巣を紡ぐクモとその巣に縫い針を通す小鳥。
そしてその看板には"Ballistic Fabric"と英国風のレタリング。
「なんかちょっと怖いんスけど、この雰囲気でド変態っしょ……? 実はバラバラ殺人鬼だったりしないっスよね……?」
ルナはかなり不安気だが、ここに来たのは彼女の為でもある。
メッキの剥げたドア金具を握り、やや重たい扉を押し開けるとカウベルのようなドアベルが可愛らしい音を立てて店内に響いていたヘビーマシンガンじみた重工業用ミシンの音が止む。
「……これは、ミス・イノセント。お久しぶりです」
飾ってあった通りのスーツをかっちりと着こなした中年の痩せた紳士 ーー頭皮が迷彩ナイロン製スキンヘッドーー が作業の手を止めてこちらを向き、立ち上がった。
「お久しぶり、バリスティック。 最近はどう?」
「お陰様でとても好調な売れ行きです。あなたの同業者の皆様は、特別耐久性に優れた衣服をお求めですから。……そちらの女性は?」
少し気取った風のある、だが感じのいい紳士。
……あの悪癖さえなければな……。
「アタシらの新人のルナ。 ちょっとウェアを見繕ってもらいたくてね」
「……ルナです。よろしくお願いします」
ルナは私の背後で若干怯え気味だ。
「初めましてミス・ルナ。 わたくしはヒューム・テイラーと申します。バリスティックとも呼ばれておりますが」
物腰は柔らかく、言い回しはクソほど丁寧。
少なくともミッドサイドのストリートでこんな喋り方をするヤツは彼以外にいない。
「……ミス・イノセント。 実はわたくしからも一つお願いがありまして。 実はーー」
「実は来季のカタログに載せる写真のモデルを探しておりまして。もし不都合が無ければあなたにお願いしたいのですが……でしょ? やるよ?」
紳士的な言い回しと声を真似して言われるであろう事を返す。 なんせ毎度の事だ。
「ご明察の通りでございます。 可能であればミス・ルナにもお願いしたいのですが」
「(……ねぇイノセント)」
「ん?」
きょろきょろと店内を見ていたルナが耳打ちしてくる。
「(本当に変態なんスかこの人)」
まあ、そう思うのが自然だろう。
バリスティックは小首を傾げて口角を曲げながら返事を待っている様子だ。
「モデルやるってさ」
「ちょ」
「とても助かります。 丁度あなた方のような二人を探していたのです」
そう言い切るより早くバリスティックは足早に入り口のドアに"すぐに戻ります"の札を掛けて鍵を閉めた。
「ちょ、ちょ?あーたら?!」
丁度いいから体験してもらおう、コイツの変態ぶりを……。
「こらこら、初対面にアンタは無いでしょ。 ほら行くよ」
バリスティックは店の奥へと私らを促す。 さてさて……。
天井の円形スライドレールに高発色フルカラー電子ペーパー背景の対角線上にはあからさまに高級そうなストロボ大量装着カメラが吊り下げられた、3D撮影設備を完備した部屋に通される。 ハンガーレールには所狭しと防弾ナイロン……バリスティックのスタジオだ。
「今季のデザインコンセプトは"セクシーorキュート+タフネス"でございまして、はるか昔に流行した楽曲の歌詞から着想を得たのです」
そう言って彼は数えるのがバカらしくなる量の"作品"を「これでは無い、これでは無い」とレコード棚でも漁るかのように選んでいる。
「コンセプトにタフネスが無かった事あるの?」
前回モデルをした時はワイルド&タフネスだった。
フェイクファーと防弾ナイロンの組み合わせで脇と二の腕が露出されて、手脚の筋肉が強調されるような服だったな……。
「タフである事はわたくしにとって至上の命題なのです」
「……思ったんスけど、どの服もなんか特殊っスよね。軍隊の服っぽいけど、妙にツヤツヤしてるというか、繊維がキラキラしてるというか……」
あ、コイツめんどくさいスイッチ踏んだぞ。
「よくお気づきで……」
バリスティックはその言葉を待ってましたと言わんばかりの表情で振り向いた。
……やっぱ頭がナイロンハゲなのキモいな。
「これらの服は全てバリスティックナイロンを用いております……そもそも、ナイロンという素材が生まれたのは1935年、年表がまだ十全に機能していた時代です。 世界中で利用され、改良され続けて今に至ってはおりますが……その開発者のウォーレス・ヒューム・カロザース氏は発明の二年後、自ら命を絶ちました」
「自殺?なんで? ARPANETとか、WWW並みの大発明じゃないんスか?」
ルナは若干食い気味だ、ネットダイバー的に技術の歴史に関心があるのかもしれない。
「……どうやら、精神的な病を抱えていたようです。 開発されてたった二年と思われるでしょうが、我々がこうして生きている現代ほどカネや情報の動きが早くは無い時代です。 彼はナイロンという素材が世界へ羽ばたいていくより先に病の苦しみか、目に見える成功を遂げられなかったという失意か、あるいは親族を亡くした悲しみもあったのでしょうが……真相は最早分かりません」
「……」
ルナはもっと聞かせろと言いたげに頷いた。
「……私事になりますが、わたくしの家系は名前の通り裁縫を生業とする一族です。 そして、どういった偶然か……両親はヒュームの名を私に与えました。 幼い頃は全く気にも止めなかったのですが……ある時、ふと思ったのです」
「かのヒューム氏が生み出した発明をより強く、より美しく、この時代の技術と裁縫伝統を組み合わせて何よりも頑丈で美しい服を作る……と。 スチール、チタン、タングステン、グラフェン、フラーレン、抱合カーボン、ライトファイバー……様々なマテリアルを組み合わせて紡績しました。 どれもとてもタフで、どれも美しい……ヒューム氏が本来どのような形でナイロンを活用されたかったのか、今となってはわかりません。 ですが、わたくしはヒュームの名を継いだ赤の他人として、このような形で作品を作っているのです」
「……って話をアタシは5、6回は聞いてるのよね」
バリスティックは肩をすくめる。
「わたくしの芸術についてご理解いただく為には必要なことです」
「いや……最高に情熱的じゃないっスか!! モデルやるっス! やらせてください!」
ルナは心の底から感服したのか目を輝かせて協力を申し出た。 あーあ……
ーー虹色に反射する波紋模様のリフレクタープリントが施された黒のセンサー内蔵繊維製ハイレグレオタード、透明な自己発光繊維が規則的に織り込まれた深紅のチャイナカラーノースリーブフルジップフーディ、ポケットも含めてジッパーは止水機能付きか……。 脚に巻きつけるベルトのついた艶やかな黒のホットパンツ、ヒールにスプリング機構のついたテックピンヒール。
そして新品のパンストを渡された私はルナを置いて更衣室に入った。
どうやら私がセクシー担当らしい。
……しかし、実にタフな生地だ。
見た目の質感こそ艶やかで上品だが、堅く詰まった織り目と一本一本の繊維の質。何よりもその厚さは拳銃弾程度なら防げそうな雰囲気を纏っている。 実際にバリスティックの服でナイフや安物のブレードの貫通を防いだことなら何度もある。
この頑丈さがあってこそ仕事でスライディングやローリングを安心して行えるのである。
「もっとカワイイ感じのが良いっスね……コレってもしかして袖変えれるタイプっスか?」
「左様でございます。 フラワースリーブ、指先まで覆うオーバーサイズ、和服のようなスタイル、もちろんスタンダードなスタイルも……お好みに合わせてチョイスしていただけるようデザインしてあります」
ルナとバリスティックは何やら話し込んでいる。
何着か選んでいるのだろうか。
着替えが終わったので鏡を見る。 ……なんというか、私の胸の大きさではそこまでセクシーではないような……脚と腰で魅せるタイプか。 センスは良い。
かなり未来的ではあるが、コンセプトモデルと考えれば妥当か……。
「着替え終わったけど」
「んじゃあーしの、うわエッロ……」
更衣室を開けた瞬間に第三者による感想が飛び出した。
「そう? アリガト」
ルナは逃げ込むように更衣室に滑り込んだ。 そんなにエロいのか……?
「お帰りなさいませ。実によく似合っております。 貴女様の手脚の逞しい筋肉がナイロンを引き立てて……素晴らしい」
バリスティックは素早く私の全身を見て、思った通りだと言わんばかりに頷く。
「やっぱメインはナイロンなのね」
「ええ、ナイロンでございます。わたくしはバリスティックですから」
上機嫌で言う彼のナイロンフェチぶりは有名だ。
……あまりにもナイロンに対しての愛が強すぎるせいか、私の周りでは「ナイロンでマスかいてる」「ナイロンのダッチワイフ抱いてる」「主食はほぐしたナイロン」だの、好き放題言われている程に……。
ただ、そう思われても仕方ない程にコイツは……変態だ。
「着替え終わったっス。いや~良いっスね和風は!カワイイっす!」
かなりオーバーサイズのパリッとシルエットの立ったフード。 二の腕を覆う袖は肩口から鮮やかなパラコードで繋がれており、肘の辺りでジッパーで分けられてその先は和服でいう袂。 ……フードも全て閉められる止水ジッパー。 全体の色は白で輪郭のみの矢絣柄のリフレクターが水色でプリントされている。
インナーは私と同じ黒のリフレクターレオタードだろう。
ボトムは膝丈のパンツで腰の後ろ側で6本のベルトが交差してから前で3本ずつ左右に分けられて裾に固定されている。色とパターンはアウターと同じ。トップスを含めたセットアップだろうか。
タイツは敢えての白で水色に反射する細い麻葉紋様。 ルナの華奢さにもよく似合っている。
靴も白と水色のオーバーサイズテックスニーカー。 全体のカラーリングは飽和気味に統一されている。恐らくは意図的だろう。
「おー、カワイイじゃん? アンタの好きそうな感じ」
「っしょ〜? ダイブアバターと雰囲気似ててコレ良いなーって」
「キュートラインでは古き時代のサブカルチャー作品から着想を得たものもありまして……装飾に偏重しているようにも見えますが、性能は他のものと変わりません」
「全て一級品のバリスティックナイロン……負荷のかかる箇所はチタンとタングステン、抱合カーボンファイバーを織り込んだパッチで補強しております。 もちろん全て電子捕捉対策を施した上でセンサーウィーブ。対応するデッキを導入なされていれば不可視波長域のレーザー等による捕捉を感知できます」
バリスティックは段々と変態のエンジンが温まってきたのか息荒く早口で捲し立てる。
「あー……えっと?うまく聞き取れなかったんスけど……」
「尻とか肘は頑丈な生地を重ねてあって、ドローンとかにロックオンされたら通知してくれるように作られてるってコト」
「ほえー……」
ルナは半分くらい理解できたといった様子。
「……要約感謝します。失礼、これは悪癖でして」
胸をさすりながら興奮に抗っている。
今からコイツに撮影されるんだもんなぁ……。
「では……ミス・イノセント。 このショットガンを右手に持って、銃口の向きは真左で肩に任せるように……左手は腰のあたりで……」
「はいはい、力瘤を強調するように、大胆に。 でしょ。 で、右腕は脇が見えるくらい上げて」
彼の注文のクセは把握している。 どうにも私をモデルにする時は力強さを全面に出したいらしい。
「左様でございます……さあ……撮影……ブースへ」
あからさまに息が荒い。 変態っぽさが出てきたな……。
言われた通りにブースの真ん中に立つ。 背後ののフルカラー電子ペーパー背景は漆黒に変色した。
「では、撮影……させていただきます……まばたきは今しばらくご辛抱を……」
スリーカウントのビープ音の後、撮影開始……。
大量のストロボをそれぞれ発光させ連写でシャッターを切る音を立てながらカメラと背景が私の周りを一周する。 この間10秒ほど。
「ハッ、ハッ、ハッ……撮影完了いたしました!!ありがとうございます!! ではミス・ルナ!!お願いします!!!」
興奮が高まってきたバリスティックがバグったようにカクカクし出した。
いいぞー、その調子だ変態野郎。
「え、えー……えー……?」
あまりの変貌振りにルナは困惑している。
「すぐに!終わらせますので!!貴女様の思う可愛らしいポーズを!!乙女らしいポーズをお願いします!!! あ!いや!!右手を、狐のように!!!」
左右に揺れながら挙動不審さがさらに増していく。
「あー……じゃあ両手でコンコンにするっスね」
ルナがブースに入りポーズを取ると困惑の表情が一瞬で子猫のようなぶりっ子顔に変わる。
演技力高いな……仕事の応用だろうか……。
「では!!!撮影させていただきます!!!まばたきは今しばらくご遠慮を!!」
ストロボ連続発光と高速連写音が響いてカメラと背景が一周……この間10秒。
「ハッ!カッ!ハッ! 完了しました!!ありがとうございます!!」
鼻血でも吹き出すんじゃないかというエキサイトぶり。
コレが彼の悪癖だ。 自分の服を着たモデルを撮影するとなると老若男女問わず異常に興奮するのだ。
「……もう一つだけお願いしてもよろしいでしょうか……」
「『えー……』」
今日は随分と注文が多いな……。
バリスティックは努めて冷静になろうとしながら何かを言おうとしている。
「……不躾なお願いなのですが、二人一緒に撮影させていただけますでしょうか……」
「……絡みとか言い出すんじゃないでしょうね?」
「そういった過激なものではございません……ミス・イノセントは片足を投げ出した立膝で座っていただいて、ミス・ルナはイノセント様の両肩を軽く掴んで身を乗り出すように……お願いします。 お二人を見ているとどうしてもコレを表紙にしたく……」
バリスティックはなんとか平静を取り戻した……のか? 妙に中腰だ。
「……あー、なるほど、姉妹感っスね」
「うん……うん?」
なんだって?
「つまりこうっス、うちがあーたの両肩掴んで右肩あたりから頭出して顔見るんで、それに気づいたように振り向いてうちの目見るっス、多分この変態サンが言いたいことはこれっス」
「あー……姉妹のじゃれあいって事?」
私もブースに入り、言われたようなポーズを取る。 どうせだし……ショットガンを……ルナが顔出す反対の肩にかけて……ストックは左膝あたりに……。
「アッ、アッアッアッアッ……素晴らしい……ぃ……。 先ほどより長く撮影時間を取らせていただきます……では、行きます……」
全く平静にはなっていなかったようだ。
スリーカウントの後、撮影が始まった。
「(ねえイノセント…ウチ気づいちゃったんスけど……)」
ルナがポーズを取ったままヒソヒソと喋る。
……本当に綺麗な目だ……茶の中に少し緑の要素。フラッシュ光のおかげでよくわかる。
「(あの人撮影しながら……カタくなってますよね……スゲエくらいに……)」
毎度の事なので今更気にしていなかったが、確かに彼の"彼"は撮影の瞬間、ガチになる。 分厚いバリスティックナイロンのスラックスを突き破りそうなほどに……。
「(そういう性癖なのよ……人間には興味ないから安心して)」
「(……人間に興味ないってのが余計に怖いんスけど)」
「(まあでも、問題はコレだけよ。 コレだけが問題な変態なの……)」
長いビープ音が鳴り、撮影が終わった。
……傭兵ってモデルも仕事だっけ……?
なんだかえらく疲れた気がする。
「…………ハーッ……素晴らしい……お二人とも、ご協力、感謝いたします……」
感嘆のため息を吐いてバリスティックはなんか粉モノでも吸った後のようにカクカクと血走った目と首をこちらに向けた。
「どういたしまして」
「…………うぇー……」
とりあえず着替えるか……カクカクと揺れまくるバリスティックを放置してルナを先に更衣室へ行かせた。
……着替えが終わったのでルナのウェアの相談を始める事にして三人で店内へと戻った。
「今回のモデル撮影のお礼として、一着ずつウェアをプレゼントしたいのですが、何かご所望はございますか?」
「あーしはさっきのフルジップ欲しいっスね。 フツーに気に入ったっス。 今着て行きたいくらいに」
「承知致しました。 袖もフルセットでお包みしましょう」
バリスティックはすっかり元の紳士に戻っていた。 これはこれで残念だな……あのキモさが面白いのに。
「アタシはバックパックを新調したい。 血まみれでね」
「血液……ですか。拝見しても?」
血が変色して黒く汚れたバックパックを渡すと彼はそれを持ったままレジカウンターへ向かい、何かスプレー缶のようなものを取り出した。
「……この程度でしたらサービスでクリーニングさせていただきます。 少々お時間を頂戴しますが」
「頼むよ」
「お任せください」
仕事を任せて私も何か選ぶか……ルナはボトムを物色している。
「……そういえば長いボトムは持ってないの? 助けた時ショーパンだったよね」
安っぽいショーパンだった筈だ。
それこそ得体の知れないマスプロ品か……それ以下か。
「そうなんスよ……こっから先はあーたとチームでしょ? ガンガン転がったり滑ったりするなら頑丈なヤツ欲しいんスよねぇ……」
「それならアタシのサービス分で選んでいいよ、あんなので一緒に仕事されるの不安だし」
ルナをここに連れてきた理由がコレだ。 十中八九モデルを頼まれるだろうからそれで彼女の服を見繕ってやろうと目論んでいたのである。
……まさか二人一緒にモデルをやるとは思わなかったが。
「いいんスか? あーたも欲しいものあったんじゃ」
「別にいいよ。 でもしっかり選びな、アタシらにとってウェアは棺桶と同じなんだから」
「カンオケって……まあ、そっか……」
ルナは一着ずつ吟味するように手に取っては戻すのを繰り返し始めた。
……実際問題、この仕事で死んでまともに火葬だの葬式だのを上げられることはそう無い。 "資源"回収に拾われるのも最低だが、受ける攻撃によっては文字通りのミンチだ。 服のカケラかドックタグ程度しか残らないこともままある。
「……んじゃ、コレにするっス」
黒の緩いシルエットのロングパンツ。 装飾のアシンメトリーなロングスカートを裾に固定するベルトが付いているタイプだ。懐かしい……。
「アタシも昔履いてたな、こういうの」
「……へー、おねーさんの好みなんスね?こういうのが」
「なんか含みがあるわね」
ニヨニヨとルナは笑う。
変な懐かれ方したな……。
「大変お待たせ致しました。 縫い目に入り込んだモノも含めて汚れは取り除けたかと」
バリスティックがバックパックを持って来た。
ルナの血は綺麗さっぱり落ちたようだ。
「ありがとうバリスティック。 このボトムも私のサービス分で包んでもらえる?」
「かしこまりました。 ……とても良い選択です。ミス・ルナ」
ルナはむず痒そうに頷いた。
……次はMACARONの新調か、あの脳直結双子姉妹……土産でも持っていくか。
双子の店はこの近所だ、つくづく"濃い"人間が密集している街である。
「お待たせ致しました」
バリスティックがエッジの効いたナイロン製バッグを持って来た。
「ありがとうございます」
紳士に戻った彼にルナが頭を下げる。
「とんでもございません。最大限に、タフに活用していただければわたくしの作品達も喜びます。 このウェアが、あなた方を脅威からお守り出来る事を願っております」
「どうか、ご無事でまたいらしてください。 お待ちしておりますので」
この二面性さえ無ければなぁ……と、思いながら店を後にした。 可愛らしいカウベルの音がドアが閉まり切るまで名残惜しげに響いていた。
いい人なんだよ、バリスティック。 とってもいい人なんだよ




